今週の米国株市場は、S&P500とナスダックが昨年末比プラスに転じるなど、復調傾向が目立っています。短期のチャートではさらなる上値期待がある一方、過熱感を示唆するサインも出始めています。
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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 米国株の上昇は短期から中期へ持続できるか?~「綱引き」中の好悪材料の見極め~ 」
復調が目立つ足元の米国株
6月相場入りとなった今週の株式市場。これまでのところ、派手さは感じられないものの、米国株市場の復調さが感じられる展開となっています。
具体的な株価指数で見ていくと、4日(水)の取引終了時点で、S&P500種指数とナスダック総合指数が昨年末比でプラスに転じたほか、ダウ工業株30種平均についてもプラス圏の浮上が視野に入るところまで株価水準を回復させています。
<図1>米主要株価3指数のパフォーマンス比較(2024年末を100)

短期のチャートからは上値追いの期待もあるが…
こうした米国株市場の動きを、日足チャートでもう少し詳しく探っていきます。
<図2>米NYダウ(日足)の動き(2025年6月4日時点)

まずは米NYダウです。
200日移動平均線の攻防戦が3週間近く続いていることが確認できますが、25日移動平均線が下値のサポートとなっており、4万2,000ドル台での値固めをしているようにも見えます。
その一方で、取引時間中も含む直近の高値(1月31日の4万5,054ドル)を頂点とする「上値ライン」で上値が抑えられてもいます。ここを抜けることができれば一段高も期待できますが、その際の上値のメドとしては50日移動平均線の「プラス5%乖離(かいり)」が意識されそうです。
もちろん50日移動平均線の値は日々変化していきますが、4日(水)時点の50日移動平均線の値(4万1,094ドル)で単純に計算すると4万3,148ドルまでの上昇余地があることになります。
<図3>米S&P500(日足)の動き

続いてS&P500ですが、こちらの株価位置は200日移動平均線よりも上にあり、節目の6,000pをうかがう状況となっています。
また、25日移動平均線が200日移動平均を上抜ける「ゴールデン・クロス」も出現しており、ポジティブなサインが出ている半面、50日移動平均線がプラス5%を超え、過熱感を示すサインも出ています。
<図4>米ナスダック(日足)の動き

そして、ナスダック総合指数です。
すでに足元の株価は1万9,000p台の推移が続き、高値圏に足を踏み入れています。S&P500と同じように、25日移動平均線と200日移動平均線とのゴールデン・クロスも達成しています。
このまま高値圏上限の2万pを目指せるかが焦点になってくるわけですが、50日移動平均線の乖離率はプラス10%辺りまで上昇しているため、過熱感も帯び始めています。
以上のように、日足チャートから見た米国株市場は好調さと同時に、過熱感が相場の足を引っ張りそうな兆しも出ています。
「綱引き」で上昇してきた米国株市場
今週の相場環境については、そもそも、先週末にトランプ米大統領が、鉄鋼・アルミ製品への関税率を6月4日から50%に引き上げると表明したり、「中国がわれわれとの合意を完全に破っている」とSNS上で発言し、米中関係の悪化が懸念されるなど、そこまで良好なムードで迎えたわけではありませんでした。
そんな中でも米国株市場が上昇志向となったのは、米中の首脳協議が今週中にも開催される予定となり、米中関係改善の動きが見られたことや、米政府が関税をめぐる交渉相手国に対して、「最善の」提案を提出するよう要請し、交渉進展の期待が高まったこと、そして、メタ・プラットフォームズやアルファベット(グーグル)、アマゾンなどの米主要テック企業が相次いで電力確保の動きを見せていることで、「AI向けのデータセンターや半導体への需要が維持されている」とする見方が浮上したことなどが主な要因として挙げられます。
とりわけ、指数寄与度の高い米国の半導体株やAI関連などのグロース株の買いは比較的強く、下の図5の米株価指数の中でも上昇が目立っているのは、半導体関連銘柄で構成されるSOX指数であることが分かります。
<図5>国内外主要株価指数のパフォーマンス比較(2024年末を100)(2025年6月4日時点)

このように、足元の米国株市場は、不安と期待の材料が綱引きをした結果、今のところは期待感が優勢になっている格好と考えられますが、ナスダックやSOX指数のいずれも、2025年の初期につけた高値にはまだ届いていないほか、さらに、そこから上を目指せる材料もそろっているとは言えない相場環境であることを踏まえると、「上昇の賞味期限はあまり長くはないかもしれない」ことは想定しておく必要がありそうです。
気になる景況感と、来週の米インフレ指標に注意
実際に、今週4日に発表された米5月米サプライマネジメント協会(ISM)非製造業(サービス業)景況指数は49.9となり、前回(4月分)の51.6から低下したほか、好不況の分かれ目とされる50も下回りました。
<図6>米ISM非製造業景気指数の動き

上の図6は米ISM非製造業景況指数の推移を示していますが、過去の傾向を見てみると、指数の値が急低下し、50を大きく下回ったタイミングで景気後退局面入りしていることが分かりますが、ここ数年は、2022年12月に50を下回って以降、微妙に50割れと持ち直しを繰り返していて、まだ景気後退局面入りしていません。
とはいえ、今回、再び50割れとなったことで、株式市場が景況感に対して敏感になることが考えられ、注意しておく必要がありそうです。
これに加え、経済協力開発機構(OECD)が今週の3日(火)に公表した「世界経済見通し」でも2025年の国内総生産(GDP)成長率見通しが全体的に下方修正されています。
<図7>OECDの経済見通し 2025年のGDP成長率見込み(2025年6月3日発表)

米国も前回(3月)公表の2.2%成長から1.6%成長へと引き下げられており、下方修正の傾向が昨年12月公表時から続いています。
さらに、同日に公表された「米地区連銀経済報告書(ベージュブック)」でも、関税引き上げによる米経済の鈍化やインフレ圧力への警戒が示されるなど、ジワリと米国経済減速への火種がくすぶっています。
米国景気の鈍化は、リスク回避による米国債買いや、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ期待の高まりが考えられ、米10年債利回りなどの金利が低下することで相対的に株式市場が支えられる面もありそうですが、来週11日(水)に発表予定の米5月消費者物価指数(CPI)が想定以上に上振れてしまった場合には、景況感の悪化とインフレ進行の「スタグフレーション」への意識が強まり、相場が軟調に転じてしまうことも想定されます。
反対に、物価上昇が想定内もしくは想定を下回った場合、株式市場は上昇の初期反応となりそうですが、先ほども述べたように、米国株市場は株価収益率(PER)面で割高であるため、2025年の高値トライまでの上昇はあっても、そこからさらに株価を上昇させていくには新たな材料が欲しいところです。
従って、「株価が中期の上昇局面に入るか?」の判断にはもうしばらく時間が掛かることが見込まれますが、こちらのレポートでも紹介したように、50日移動平均線と200日移動平均線とのゴールデン・クロスの出現がチェックポイントになりそうです。
(土信田 雅之)