中小型株の「情報不足」に不満を持っていたkenmoさん。機関投資家と同じレベルの鮮度・深度の生情報をゲットしたい、とIR説明会「湘南投資勉強会」を主催するように。

決算発表会や株主総会で、数字だけでは見えてこない、企業の本音を引き出す「質問力」を磨くコツを伺った。


情報戦で個人投資家が機関投資家に勝つには?中小型成長株投資家...の画像はこちら >>

中小企業診断士の資格で「質問力」がグンと上がった

トウシル:kenmoさんは現在、「湘南投資勉強会」を運営して、年間100社以上のIR説明会などを主催しています。この勉強会はどのようにして発足したんでしょうか?


kenmoさん:今でこそ、オンラインのIR説明会やIR動画が当たり前に配信されていますが、昔は、個人投資家が中小型株のリアルな情報をゲットするには、株主総会くらいしか情報源がありませんでした。


 私が当時、数千万円ほど投資をしていた企業も、「こんなにリスクを負って投資(≒出資)しているのに、表面的な数字の情報しか手に入らないなんて理不尽だ…」と不満に思っていました。


 特に中小型株は社長の顔もウェブサイトに載っていないことが多かったんです。機関投資家は個別でヒアリングをして投資判断ができるのに、個人投資家は、伸びそうな企業があっても情報を得る手段が全くない状況にストレスを感じていました。


 個人投資家が不利な状況をどうにか変えられないかな…と思って、個人投資家同士の勉強会である「湘南投資勉強会」を2018年に立ち上げました。この勉強会の認知が広まれば、ゆくゆくは関心を持った上場企業を招いて、より詳細な情報を質疑応答できるIR説明会を開催できるようになるかもしれない、と考えました。


 実際、始めてみると、実は上場企業側も、個人投資家との接点を求めていたことが分かったんです。今ではいろいろな企業さんのほうから「IR説明会を開催したい」とお声かけいただけるまでになりました。


投資に必要なのは「数学力」と「国語力」。文系でも投資で勝てる?

トウシル:kenmoさんは理系の大学院まで進んだガチの「理系男子」ですよね。理系ならではの数学力や分析力は、投資でとても有利だと思うのですが、数字が苦手な文系でも1億円を目指せますか?


kenmoさん:私は理系出身ですし、計算は割と得意な方です。

決算書を見た際の理解力が早いという点では、投資においての利点だと思います。でも私は、投資には「数学力」だけでなく「国語力」も必要だと考えています。


トウシル:国語力とは意外です。「国語力」はどんな場面で役に立つのでしょうか?


kenmoさん:私が考える「国語力」とは、決算短信から企業の意図を細かくくみ取る力や、ビジネスモデルを解像度高く理解する力のことです。


 投資を始めた当初は、私は「国語力」は高くなかったと思います。決算書の数字は理解できても、企業が発表している「事実」しか読み取れませんでした。


 ただ、ちょうど勤務先の奨励資格一覧にあった「中小企業診断士」の資格を調べてみたときに、「あ、これは企業分析に直結する知識だな」と思い、「中小企業診断士」の資格を取ろうというモチベーションが沸いてきました。


 特に、実際の企業の課題に対する解決策を記述する二次試験は、中小企業の課題分析や改善策を読み取る力が試されるので、上場企業の分析にもとても役に立っています。


トウシル:合格率が4~5%と非常に難易度の高い資格ですが、2023年に見事、合格されておられます。素晴らしいですね。


kenmoさん:株主総会や決算発表会でも、以前はなかなか良い質問が思いつかなかったのですが、中小企業診断士の資格取得の勉強をしたことで、「この質問をしたら、こういった回答がきっとくる。その時は、さらにこの質問をして、それに対する回答を聞こう」といった、企業の3手くらい先を予測した質問もできるようになりました。


トウシル:企業側も「お、やるな?」と思って、本気で答えてくれそうですよね。


kenmoさん:はい。最近は生成AIの技術が進んで、ChatGPTを使うと、IR説明会での質問を考えてくれたり、決算説明資料を解析してくれたりします。


 でもAIは、事実については丁寧に調べてくれるんですが、社長の今後の戦略や、企業の現場で起きていることは、当然調べてくれません。そこで必要になってくるのが「国語力」ですね。


 中小型株は、大型株と違って、世の中に出している情報自体が少ないため、株主総会やIR説明会は、成長株投資をする方にとっては絶好の機会です。決算書にサラッと書かれている一文の裏側を読んだり、質疑応答で企業側から本音を引き出すには、高度な「国語力」が必要だと思います。理系が有利、文系は無理…と決めつける必要はないですよ。


「買値の8%を下回ったら損切り」がマイルール

トウシル:kenmoさんが著書の中で紹介されている銘柄は、絶妙なタイミングで売り抜けされている例が多く、売却(損切り)の達人なのではないかと思います。


kenmoさん:いえ、投資初期は悔しい思いもたくさんしましたよ(笑)。前編で上げた ジンズホールディングス(3046) などは、最終的に株価が6,020円まで上昇しました。2,500円台で売ってしまったので、売り抜けた後も上昇し続ける株価を見て本当に悔しい思いをしました。


  ペッパーフードサービス(3053) も、2017年に1,100円台で購入し、2,000円台で売却したのですが、その後、株式分割し最高8,230円まで行き、いまだに悔しいです(笑)。


トウシル:「まだ上がるかも…」と思って売り時を逃がしたり、逆に「まだいける!」と思っていたらズルズル株価が下がったり…と、「利益確定や売却タイミングを読むのが苦手だ」という投資家さんにアドバイスをお願いします。


kenmoさん:損切りできずに塩漬けにしてしまう人と、含み損が嫌だから早く損切りできる一方で、利益確定が早い人の、二つのタイプがあると思います。私は基本的に、株価が右肩下がりのマーケット環境に慣らされてしまっていて、「ほっといたら株は下がるもの」というマインドが根底にあるので、割と「損切りに痛みを伴わないタイプ」かもしれません。


トウシル:損切りがなかなかできない人は、どのような投資戦略を取ればいいのでしょうか?


kenmoさん:二つの方法があると思います。一つは、自分の弱点を克服するような投資方法で損切りするマインドに変えることです。


 もう一つは損切りができないことを受け入れた投資手法にすること。例えば少額をたくさんの銘柄に分散投資するやり方です。100銘柄などに分散投資をしていたら、1銘柄がマイナス10%になっても、他の銘柄が補填(ほてん)してくれるので、損切りできなくても致命傷にはなりません。


 自分が前者に向かないな、と思うのであれば、無理に中小型株を追わずにインデックスファンドで無難に資産構築するのも手だと思います。損切りができないタイプは、利益を伸ばすのも得意なことが多いので、自分自身の強みを生かせるような投資手法にする方が良いのではないかと思っています。


資産額が増えたら、投資手法の見直しも必要

トウシル:できれば短期間で一定の資産を築いて、若いうちから自由に生きたい、という人も多いかと思います。


kenmoさん:私は、20~30代のころは、ハイリスクな中小型の成長銘柄を厳選して投資をし、早く利益を出すことに集中していました。ただ、この方法は誰にでもおすすめできる訳ではありません。

それなりの覚悟と勉強、そしてリスク管理が必要です。


 資産2億円を超えたころからは、少しリスクを落として「成長過程にある銘柄への中長期投資」にシフトチェンジしています。


トウシル:資産がどのくらいになった時に会社員を辞めたのですか?


kenmoさん:2023年に資産が2億円になった時です。ちょうど同じタイミングで「湘南投資勉強会」が軌道に乗ってきて、最初は年間1~2社だったのが、30社を超えるほどにIR説明会が増えたんです。


 結婚し、子どもも生まれたタイミングだったこともあって、「育児」「仕事」「投資」「勉強会」の四つの板挟みになり、どれか一つ削らないといけない状況になりました。育児は削れない、投資も削れない。勉強会か仕事か、どっちかを削るしかない、となり、結果的に仕事を削りました。


トウシル:「推し活」も削れませんよね(笑)。


kenmoさん:もちろんです(笑)。しかも、私はめちゃくちゃ朝に弱いんです。会社員になってからも始業1分前に会社にすべり込むことが多くて、会社員に本当に向いていませんでした。「毎朝ゆっくり寝たい」という願望がずっとありました。


トウシル:会社員を辞められた今は、朝ゆっくり寝られていますか?


kenmoさん:朝は子どもが8時45分に保育園に行くので、必然的に8時にたたき起こされます(笑)。ですが、職場に行く時間が決まっていないのでだいぶ楽ですね。


300万円から1億円まで、資産額ごとの「やるべきこと」「やってはいけないこと」

kenmoさん:著書の最後にも「元手300万円レベルの投資フェーズ」「1,000~3,000万円の投資フェーズ」「3,000~5,000万円の投資フェーズ」「5,000万~1億円の投資フェーズ」と、資産ごとのやるべきこと、やってはいけないことを、自分の体験を基にまとめています。


情報戦で個人投資家が機関投資家に勝つには?中小型成長株投資家・kenmoさんインタビュー[後編]

 


kenmoさん:総資産額が増えてくると、全財産を失うリスクを避けなければいけません。ただ、元手が小さいうちはある程度のリスクをとってもリカバリーができます。そのためにも、必ず、企業が発信している開示情報やIR情報、株価チャートや出来高など、一次情報を判断基準にすることが大事です。


 今はインターネット上にさまざまな投資情報があふれていますが、情報の精査や判断を他人にゆだねることはしないでほしいと思っています。自分で調べ、考え、最終判断は必ず自分の中から導き出すことで、小さな失敗はしても致命傷にはならないと思います。人生の選択肢を増やすために、ぜひ若いうちに挑戦を開始してほしいと思います。


トウシル:安全=善、リスク=悪とは限らない、と考え直せるお話を伺えました。本日はありがとうございました!


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元手300万円&追加入金ナシ。5年で1億円達成の秘けつを教えて!中小型成長株投資家・kenmoさんインタビュー[前編]


(トウシル編集チーム)

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