先週はS&P500が史上最高値を更新の一方で、日本株はトランプ大統領が最大35%の関税をかける表明で小幅マイナスでした。今週も相互関税上乗せ分に関する言動が相場をかく乱しそうです。
米国株の最高値更新はトランプ大統領のおかげ?日本株はETFの換金売りで停滞も!
今週の株式市場はトランプ関税に振り回される展開が予想されます。
7月4日(金)、トランプ大統領は世界各国に相互関税の上乗せ分を記載した書簡を一方的に送り付けたと表明。
9日(水)に迫った関税上乗せ分停止措置の期限切れまでに全世界に書簡が送られ、関税率はおそらく60~70%から10~20%の範囲内になり、8月1日(金)から支払いが開始されると述べました。
最大関税率をいつの間にか50%から70%に引き上げたトランプ大統領の「脅し」で、4月初旬のトランプ相互関税発表による株価暴落が再来する可能性もないとは言えないでしょう。
先週3日(木)には個人所得税の減税恒久化など大型減税を盛り込んだトランプ大統領の「一つの大きくて美しい法案」が議会両院を通過して成立しました。
2日(水)には、トランプ大統領が米国とベトナムの関税交渉が合意に達したと発表。
合意内容は、ベトナムからの輸入品に関税20%、ベトナムは米国製品を関税なしで受け入れるという「トランプ圧勝」と言えるものでした。
また米国が対中国向け半導体設計ソフトウエアの輸出規制を解除していたことが明らかになるなど、トランプ関税の譲歩や交渉進展に希望を持たせるニュースが目立ちました。
4日(金)が米国の独立記念日で休日のため、前倒しで3日(木)に発表された6月雇用統計が予想を上回る好結果となったこともあり、機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は前週末比1.72%高と史上最高値を更新。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も1.62%高と続伸し、史上最高値を更新しました。
一方、先週の日経平均株価(225種)は前週末比339円(0.8%)安の3万9,810円と4週ぶりの下落となりました。
トランプ大統領が1日(火)、日本との通商交渉に不満を示し、日本にかける相互関税の税率を従来の24%から30~35%に引き上げると「脅し」をかけたことが、日本の外需株にとって大打撃となりました。
トランプ大統領は「日本はわれわれのコメも自動車も受け取らない」と日本を痛烈に批判。
米国の関税引き上げに対してレアアース輸出規制など報復措置を取ることで譲歩を引き出した中国と違い、軍事力でも米国に頼りきりの日本は簡単に譲歩を引き出せる扱いやすい相手と見なされているようです。
日米通商交渉がより悪い結果をもたらしそうなことが悲観され、先週の業種別騰落率では 任天堂(7974) や バンダイナムコホールディングス(7832) など、これまで株価が急騰していたゲーム関連株の多い、その他製品セクターが下落率ワースト。
米国などへの輸出で収益を上げる精密機器、電気機器セクターがそれに続く下落率になるなど、これまで上昇してきた外需株や防衛関連株などに「手じまい売り」が広がった1週間になりました。
今週の日本株は、日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)などに連動する主要な東証上場投資信託(ETF)の決算日が8日(火)、10日(木)に予定されています。
決算日に支払う分配金捻出で指数連動型ETFには1.2兆円を上回る換金売りが生じるため、需給面で日本株の下げ圧力になりそうです。
先週3日(木)に公示された20日(日)投開票の参議院選挙に向けた選挙戦も始まっています。
石破茂首相率いる自民・公明与党が参議院選でも過半数割れすると、さすがに政権交代も現実味を帯びます。
立憲民主党など野党の一部には、消費税減税の財源確保のために株式投資の利益にかかる金融所得課税の引き上げに言及する声もあります。
先週2日(水)には財政規律の緩みを懸念して英国株、英国債、英国ポンドが全て急落するトリプル安が英国で発生。
参議院選で消費税減税派が政権を奪取すると、同じく財政悪化懸念で日本売りが加速する恐れがないとは言えません。
トランプ大統領による「米国独り勝ち」戦略が功を奏しつつある米国株が最高値を更新する一方、9日(水)以降、相互関税の上乗せ分が発動される日本株が大きく弱含む恐れもありそうです。
7日(月)の日経平均は始値3万9,729円でスタート。一時3万9,829円まで上がるものの反落、終値は前日比266円安の3万9,544円で終了しました。
先週:良好な6月雇用統計で米国株最高値更新!日本株は手じまい売りに押される!
先週は米国の重要雇用・景気指標が相次いで発表されましたが、トランプ関税による景気後退や雇用の失速が確認されなかったことが米国株続伸の原動力になりました。
1日(火)発表の全米供給管理協会(ISM)の6月製造業景況指数と3日(木)発表の6月非製造業景況指数はいずれも予想を上回る結果になりました。
雇用関連では2日(水)、給与計算代行会社 オートマチック・データ・プロセッシング(ADP) が発表した6月民間雇用統計は前月比3.3万人減と、2年以上ぶりの減少となりました。
しかし、3日(木)発表の6月雇用統計は非農業部門新規雇用者数が14.7万人増と予想を上回り、失業率も予想を下回る4.1%まで低下しました。
6月雇用統計が予想以上の底堅さを示したことで米国株も力強く続伸して先週の取引を終えました。
上昇相場をけん引してきた人工知能(AI)関連株の花形、 エヌビディア(NVDA) は前週末比1.01%高と小幅ながら6週連続で上昇しました。
2日(水)にトランプ大統領がベトナムとの通商交渉合意を発表したことで、ベトナムに製造拠点のあるスポーツシューズの ナイキ(NKE) も6.04%高と上昇しました。
ただ、予想外に強い6月雇用統計の結果を受け、7月30日(水)終了の米連邦公開市場委員会(FOMC)での早期利下げ期待は後退しています。
絶好調な米国株とは違い、日本株はゲーム関連の任天堂(7974)が6.8%安、 コナミグループ(9766) が9.5%安、防衛関連の 三菱重工業(7011) が6.8%安となるなど、これまで買われてきた株の「手じまい売り」が目立つ1週間でした。
先々週、日経平均株価4万円台乗せの原動力となった半導体株は、半導体検査装置の アドバンテスト(6857) は0.9%高となったものの、半導体研磨装置の ディスコ(6146) が3.5%安となるなど強弱まちまちでした。
暗礁に乗り上げた日米通商交渉を受け、多くの自動車株が下落し、 トヨタ自動車(7203) は前週末比1.7%安でした。
トヨタ株は2025年に入って前年末比22.2%も下落しており、今後、トランプ大統領の過激な関税政策で日本経済の中核を担う自動車産業が大打撃を受けるシナリオも現実味を帯びてきました。
その一方、データセンター事業に新規参入すると報じられた 東京電力ホールディングス(9501) が19.6%も急騰するなど、電気・ガス業が週間の業種別上昇率1位に浮上。
出遅れ株の見直し買いも進みました。
手じまい売りと見直し買いが錯綜(さくそう)した1週間でしたが、新たな銘柄物色の波が起こっていることはトランプ関税という不確実要素はあるものの、日本株が上昇基調を維持するシグナルかもしれません。
今週:トランプ大統領の「米国独り勝ち」戦略で割を食うのは日本?トランプ関税の行方に注目!
今週は9日(水)に前回6月18日に4会合連続で利下げを見送った米国のFOMCの議事録が公開されます。
先週の好調な6月雇用統計の結果を受け、7月30日(水)終了の次回FOMCでの早期利下げ期待は後退しています。
トランプ大統領は先週2日(火)にまたもや「(利下げが)遅すぎる男は即刻辞任すべきだ」と、米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長を攻撃しています。
公約だった大型減税法案も成立させ、関税交渉でも表面的には勝利を演出するなど、「米国独り勝ち」戦略が功を奏しつつあるトランプ大統領にとって、利下げをなかなかしないパウエルFRB議長は自らに面と向かって歯向かう目障りな存在です。
トランプ大統領の露骨な圧力の下、前回のFOMCで参加理事たちが早期利下げについてどの程度、具体的に議論していたかに注目が集まりそうです。
とはいえ、今週の最大の注目はやはりトランプ大統領が4日(金)に世界各国に書簡を送ったという最大70%の相互関税の詳細です。
その内容が明らかになるに従って、株式市場が一喜一憂する展開になりそうです。
先週トランプ大統領から最大35%の関税をかけると言われた日本が米国独り勝ちシナリオの最大の犠牲者になる恐れもあります。
これまでは、過激な関税政策が米国内の物価高や景気後退という「しっぺ返し」につながるため、トランプ大統領はいずれ譲歩するというのが大方の見方でした。
しかし、米国景気が意外に底堅く、物価高も再燃しない状況が続くようだと、トランプ大統領がますます米国第一主義に対する自信を深め、関税交渉でも理不尽な要求を繰り返す可能性もあります。
むろん、先週末の相互関税に関する大胆なトランプ大統領の発言は、米国が関税政策に関して世界各国に譲歩する前の単なる「言い訳」に過ぎない可能性もあります。
いまだ日本や欧州連合(EU)、カナダ、インド、韓国などの国で、米国との通商交渉で合意にこぎつけた国はなく、完全に合意したのは英国とベトナムのみ。一定の進展があったのは中国だけです。
トランプ大統領は、同盟国に対してより強硬な態度で臨んでいますが、その状況が今後も続くようだと、日本も含めた先進国の米国離れが進む恐れもありそうです。
(トウシル編集チーム)