トランプ米大統領は、8月1日から日本に25%、EU・メキシコに30%、カナダに35%、ブラジルに50%の関税を課すと表明。医薬品には1年後に200%の関税をかける方針。
トランプ政権が再び強硬策に転換、それでも株価は落ち着いた動き
先週(営業日7月7~11日)の日経平均株価は、1週間で241円下がり3万9,569円となりました。トランプ大統領が関税政策について再び強硬姿勢に転じ、世界各国に対して次々と関税引き上げを表明していますが、4月のような世界株安は起こらず、世界的に株価は落ち着いた動きとなっています。
日・米・独・香港株の年初来推移:2024年末=100として指数化(2025年7月11日まで)

トランプ政権が公表した関税施策は以下の通りです。
1:相互関税「上乗せ分」の発動は8月1日まで延期
米国との関税交渉の期限は7月10日と定められていました。それまでに関税交渉で合意しないと、90日間停止していた相互関税の「上乗せ分」が発動される予定でした。
関税交渉で合意できたのは、英国とベトナムだけですが、相互関税「上乗せ分」の発動は8月1日に延期されました。関税交渉の期間を、事実上、8月1日まで延長したと取れます。
2:相互関税「上乗せ分」を多くの国に対して引き上げ
8月1日に発動される相互関税「上乗せ分」について、当初4月2日に発表した数字よりも、引き上げられた国が多数あります。
日本には8月1日に25%の関税(基本税率10%+上乗せ分15%)を課すと公表しました。4月2日には24%とされていました。1%引き上げたことになります。
韓国にも25%の関税を課すとしました。
ブラジルに対して50%の関税をかけるとしました。当初4月2日には10%のみとしていました。
カナダに対して35%、メキシコに対して30%の関税を課すとしました。ただし、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の条件を満たした輸入品には引き続き関税がかからないこととされています。
欧州連合(EU)には30%の関税を課すとしました。EUとの交渉が不調であった間、トランプ大統領は「EUに50%の関税をかける」と発言していましたが、とりあえず30%とされました。
その他、高率の関税をかけると公表した国は多数あります。ミャンマーとラオスに40%、タイとカンボジアに36%、セルビアとバングラデシュに35%、インドネシアに32%、南アフリカに30%、マレーシアとチュニジアに25%の関税をかけると公表しました。
ベトナムは、米国と関税交渉で合意したとされていますが、それでも20%の関税をかけられることとなりました。中国などからベトナムを経由して米国へ輸出する「迂回(うかい)輸出」に対しては40%関税をかけるとしています。ベトナム政府はこの条件に納得していません。米国と関税引き下げの交渉を続けているもようです。
3:8月1日の関税上乗せ発動日まで、世界各国と米国の交渉は続く
8月1日から発動される関税率について、交渉によっては見直すことがあるとトランプ政権は表明しています。8月1日まで、厳しい交渉が続く見込みです。
4:医薬品に200%の関税をかける方針を表明
トランプ大統領は、相互関税とは別に、品目別関税も引き上げていく方針です。医薬品および医薬品原料に対して、1年超の猶予の後、200%の関税をかける方針を表明しました。
鉄鋼・アルミニウムへの関税はすでに50%に引き上げられています。
品目別でも今後、さまざまな引き上げの脅しが続く可能性があります。
なぜ世界の株価は落ち着いているか?
7月に入ってから、トランプ政権が再び、関税で強硬姿勢に転じているのに、世界の株価は落ち着いています。それには、二つの理由が考えられます。
1:TACO(トランプはいつもびびって引き下がる)への期待
4月2日に発表した相互関税を、世界的な株の暴落を受けて4月9日には「90日間延期」と発表しました。その後も、強硬策を出しては引っ込めることを繰り返していることから、TACOというやゆが広まりました。
今公表している高い税率は交渉のための脅しで、8月1日までに緩和策を出すだろうという期待があります。トランプ大統領は株をよく見ている大統領で、「株が上がると強硬になり、株が下がると緩和する」の繰り返しと思われている面もあります。
2:米景気・世界景気ソフトランディング(軟着陸)への期待
自動車関税や10%の相互関税など、すでにトランプ関税がかなり発動済みですが、その割には米インフレが上昇していないこと、米景気も堅調であることが、安心感を呼んでいます。
時間差で米インフレ高進・景気悪化が出てくるとの考えもあり、予断を許しませんが、とりあえず、今のところ株式市場に安心感を与えています。
日本株は3万8,000~4万円のレンジに逆戻り
日経平均は2024年以来、長らく3万8,000~4万円のレンジに閉じ込められてきました。しばらく、このレンジでの推移が続きそうです。
日経平均週足:2024年1月4日~2025年7月11日

外国人投資家の買いと、日本企業の自社株買いが、トランプショック後の日本株上昇を支えてきました。外国人投資家から見ると、日本株は世界景気敏感株です。世界景気悪化への不安が低下した中で、外国人投資家による日本株の組み入れ引き上げが続いてきたと思われます。
トランプ関税ショック:日経平均の動きと外国人投資家売買動向:2025年3月24日~7月11日(外国人売買は7月4日まで)

トランプ関税ショック時の外国人売買、株式現物と先物の内訳

トランプ関税ショックは、外国人投機筋が買い建てていた先物を慌てて売り埋めしたことで日経平均が急落しました。ところが、その後、長期投資の外国人投資家が、日本株現物を買うことで、日経平均が急反発したと考えられます。
米国株に集中させてきたグローバル投資家の投資資金が、一部ドイツ株や香港株に移り、さらに一部日本株に移っていると考えられます。
世界景気悪化への不安が低下した中、割安な日本株を見直す動きが出ていると思われます。
最後に日本株の投資判断ですが、いつも書いてきたことと変わりません。日本株は割安で長期的な上昇余地が大きいと判断しています。ただし、トランプ関税ショックはまだ終わっていません。これからも急落・急騰を繰り返しながら、上昇していくと考えています。時間分散しながら、割安な日本株を買い増ししていくことが、長期的な資産形成に寄与すると考えています。
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(窪田 真之)