中国のGDP実質成長率は4-6月期に前年同期比5.2%増と市場予想を上回りました。一方、不動産不況やデフレ、内需の低迷といった構造的な問題は解消されていません。
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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 中国GDPが予想上回る:トランプ関税ショックは限定的か?
中国4-6月期のGDP実質成長率は市場予想上回る5.2%増
中国政府で統計調査を担当する国家統計局が7月15日、2025年上半期の主要経済統計結果を発表しました。
注目された4-6月期の国内総生産(GDP)実質成長率は前年同期比5.2%増で、大方の市場予想を上回りました。1-3月期の5.4%増からは鈍化し、上半期、1~6月は5.3%増となりました。昨年来の4半期ごとのGDP実質成長率の推移は、以下の通りです。
2025年4-6月期 2025年1-3月期 2024年10-12月期 2024年7-9月期 2024年4-6月期 2024年1-3月期 5.2% 5.4% 5.4% 4.6% 4.6% 5.4% 中国国家統計局の発表を基に楽天証券経済研究所作成。数字は前年同期比
中国政府は今年3月に開かれた全国人民代表大会(全人代)で年間成長率目標を昨年と同水準の「5.0%前後」と設定していました。昨年の上半期は5.0%増でしたから、同じ目標設定の中で、今年は今のところ、昨年よりも高い水準で推移していると言えます。
この点に関して、同日記者会見を開いた国家統計局の盛来運(ション・ライユン)報道官は、「伸び率が安定しつつ、上がっている」と主張しました。
「安定」への重視と傾倒の背後にあるのは現状と先行きへの危機感だと思います。盛報道官は会見にて、次のようにもコメントしています。
「これは、第2四半期以降、国際情勢が急速に変化し、外部圧力が明らかに増大する状況下で獲得した成績であり、決して容易ではなかった。もちろん、われわれははっきりと認識しなければならない。昨今の外部環境は依然として複雑かつ多変的であり、中国経済内部における構造的矛盾も根本的に緩和、解消していない。経済運営の基礎は一層強固にする必要がある」
国際情勢や外部圧力は、主に米国でトランプ第2次政権が発足して以来の、関税を巡る攻防を含めた不確実性や外部リスクを指しているものと思われます。5.2%増という結果は決して容易に達成したものではなく、決して緊張感を緩めてはならないという共産党指導部の危機感が伝わってきます。
収まらない不動産不況。デフレの行方は?
国家統計局はGDP以外の主要経済統計結果も発表しました。以下、1-6月期と1-3月期に分けて数字を整理してみます。
1-6月期 1-3月期 工業生産 6.4% 6.5% 小売売上 5.0% 4.6% 固定資産投資 2.8% 4.2% 不動産開発投資 ▲11.2% ▲9.9% 不動産を除いた固定資産投資 5.3% 6.0% 貿易(輸出/輸入) 2.9%(7.2%/▲2.7%) 1.3%(6.9%/▲6.0%) 失業率(調査ベース、農村部除く) 5.2% 5.3% 消費者物価指数(CPI) ▲0.1% ▲0.1% 生産者物価指数(PPI) ▲2.8% ▲2.3% 中国国家統計局の発表を基に楽天証券経済研究所作成。
1-3月期と比べて、1-6月期で数字が改善しているのが小売売上と貿易、失業率の三つ、悪化しているのが工業生産、投資、PPIの三つで、横ばいが消費者物価指数(CPI)という結果です。昨今における中国の景気指標は錯綜しており、情勢は迷走を続けているとみるべきでしょう。
投資の落ち込み、特に不動産不況に好転の兆しが見えてこない点は特筆に値します。私は本連載でも、中国が不動産不況から脱却できるか否かを判断する上で、2025年はクリティカルな年になると指摘してきましたが、現段階では、なかなか難しいと言わざるを得ません。
デフレに関しても、国家統計局は6月にCPIが0.1ポイント上昇し、数カ月続いたマイナスからプラスに転じた点を強調していましたが、依然マイナス飛行が続くPPIを含め、中国経済がデフレ基調で進んでいる現状に関しては、私自身、上海出張報告で、現地での実感と調査も踏まえて検証した通りです。
上海出張報告: 上海最新レポート:コーヒー半額、電気自動車が3割値下げ、デフレで疲弊する中国経済
また、5月に前年同月比6.4%増と、4月の5.1%増から躍進した個人消費が、6月に4.8%増まで落ち込んでしまった経緯は、中国経済における内需の弱さを露呈していると言えるでしょう。中国政府も継続的に警戒している「需要不足」が解消されたとは言えない状況です。
6月の個人消費の内訳を見てみると、飲料やたばこ、酒類、化粧品の販売が軒並み減少しましたが、チャイナウオッチャーの間で少し話題になっているのが、レストランなど外食サービスが前年同月比で0.9%しか伸びなかった事実です。5月は5.9%増でしたから、その下げ幅は明白で、私はこの数字を見た瞬間、まさに、上海の街角で目撃した「内巻式競争」を想起せざるを得ませんでした。外食産業含め、内巻のまん延によって、レストランなどの収益がかなり圧迫されている現状は容易に想像できます。
「トランプ関税」は中国経済にとってどの程度ショックなのか?
「トランプ関税」を巡っては、日本を含め、各国が対応に翻弄(ほんろう)されているように見受けられます。
本連載でも度々扱ってきたように、中国政府は、2025年の経済情勢において、トランプ大統領の就任、および同氏が発動する一連の追加関税措置などが、最大の下振れ圧力と外部リスクになり得るという警戒心を常に持ち、この期間、準備と対策を進めてきたということを私は理解しています。
前述したように、国家統計局が最新の経済統計結果を発表する中でも、「トランプ関税」の影響やそれに対する危機感がにじみ出ています。この姿勢は近い将来変わらないでしょう。
一方、関税の影響を最も直接的に受ける貿易統計を見てみると、1-6月期は前年同期比2.9%増(輸出7.2%増/輸入2.7%減)で、1-3月期の1.3%(輸出6.9%増/輸入6.0%減から改善している経緯が見て取れます。
その背景・理由として、2点が挙げられます。
一つは、4~6月、中国の対米輸出は前年同期比23.9%減と1~3月とほぼ同水準の落ち込みを見せたものの、対東南アジア諸国連合(ASEAN)が17.5%増、対欧州連合(EU)が9.3%増と中国にとって第1位、2位を占める貿易先との取引は増加している傾向にあります(対日本は6.8%増)。
もう一つは、5月のジュネーブ協議、6月のロンドン協議を受けて、一時は追加関税率が相互に3桁の天文学的な数値にまで上昇していた米中間の貿易戦争がいったん休戦し、両国が90日間の期限に相当する8月上旬に向けて協議を続けていることです。
第2四半期の中国対米輸出を単月に分解して見てみると、前年同月比で4月21%減、5月35%減、6月16%減ということで、マイナスで推移しているものの、5月から6月にかけて顕著な緩和が見られます。8月上旬という関税協議の一つの節目に向けての駆け込み輸出的な要素も作用しているかもしれません。
すでに折り返し地点を過ぎている2025年の中国経済にとって、「トランプ関税」からのショックにどう耐えるか、というのは最大の課題の一つです。習近平氏を含め、共産党指導部はこの点を明確に認識し、警戒と対策を施してきています。
一方、関税協議がどう着陸するかにかかわらず、デフレ、不動産不況、過剰生産、需要不足、そして内巻式競争といった構造的問題が短期的に解消されることは考えにくいでしょう。中国経済の実態と本質を見極めるには、短期的視座と中長期的視座、事象を見つめる視点と構造を見つめる視点の両方を駆使しながら、とにかく辛抱強く観察、分析することが重要であると、改めて考える今日この頃です。
(加藤 嘉一)