先週の日経平均は史上最高値を更新してスタートしたものの、利益確定売りに押されました。しかし、ジャクソンホール会議でのパウエル米FRB議長の講義が市場に安心感を与え、米国株が上昇しました。
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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【テクニカル分析】今週の株式市場 「ジャクソンホール」後の楽観とエヌビディア決算~短期の上振れと中長期の天井感~<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し> 」
売りに押された先週の日本株
先週末8月22日(金)の日経平均株価は4万2,633円で取引を終え、前週末比で745円安(1.71%安)、週間ベースで3週ぶりの反落となりました。
あらためて先週の値動きを振り返ると、週初18日(月)は前週からの買いの勢いを受け、史上最高値を更新する場面もありました。しかし、その後は売りに押される展開となりました。
<図1>日経平均(日足)とMACDの動き(2025年8月22日時点)

これまで、割高感が意識されながらも急ピッチで上昇してきたことや、「ジャクソンホール会議(米カンザスシティ連邦準備銀行主催の経済シンポジウム)での米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の講演」と、「米エヌビディア決算」という注目イベントを前に、様子見や利益確定売りに押されてもおかしくはないタイミングだったと考えられます。
「ジャクソンホール」後の米国株は買いで反応
市場が固唾をのんで見守ったパウエルFRB議長の講演でしたが、これを受けて22日(金)の米国株式市場は主要指数が軒並み大幅高となるポジティブな反応を見せました。
パウエル議長の口からは、利下げに対する積極的な姿勢が強く示されたわけではないものの、「少なくとも9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを決定する可能性を排除しない、市場の期待に沿ったハト派的なもの」だったことが安心材料となり、投資家心理が改善して株買いを促しました(講演の細かい内容や分析については、他の報道記事やレポート等に譲ります)。
<図2>米主要株価指数のパフォーマンス比較(2025年8月22日時点)

実際に、この日の米主要株価指数の動きを前日比で見ていきます。NYダウが1.89%高で最高値を更新したほか、S&P500は1.51%高、ナスダック総合は1.87%高、半導体関連銘柄で構成されるSOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)も2.69%高、そして、中小型銘柄で構成されるラッセル2000は3.86%高となっています。
とりわけ、金利や景況感の影響を受けやすいとされる中小型株のラッセル2000の上昇が際立っていることからも、米利下げへの不安が後退したことが感じとれます。
また、23日(土)の朝に取引を終えた日経225先物取引のナイトセッションの終値も大阪取引所で4万2,950円と上昇して終えているため、今週の日本株市場は上昇スタートが見込まれます。
今週最大の注目は米エヌビディア決算
ジャクソンホール会議というひとつめの注目イベントをポジティブにクリアしたことで、次に注目されるのは米エヌビディアの決算になります。
先ほどの図2でも、22日(金)にSOX指数やナスダック総合などのテック系の銘柄が多い株価指数が反発しているものの、直近の高値にはまだ距離を残していることが読み取れ、今週のエヌビディア決算を待っている投資家の姿勢がうかがえます。
なお、エヌビディア決算は、現地時間(米東部時間)の27日(水)取引終了後に発表されます。日本時間では28日(木)の早朝です。
<図3>米エヌビディア(日足)の動き(2025年8月22日時点)

エヌビディアはAI関連の中心銘柄となっていますが、AI関連を取り巻く環境には、一部で逆風も吹いています。
例えば、米オープンAI社のサム・アルトマンCEOが「(AIに対して)過剰に期待している可能性がある」という発言があったほか、「95%の組織が生成AIへの投資からリターンを得ることができていない」というマサチューセッツ工科大学(MIT)のレポートなどが注目されています。
過剰なAI投資や収益への警戒を促す材料が、テック株売りに繋がった側面があります。それだけに、今回発表されるエヌビディア決算が、こうした懸念を払拭し、AI市場の力強い成長ストーリーが健在であることを示せるかが最大の焦点となります。
今週の日経平均の予想レンジは?
パウエルFRB議長の講演に続き、エヌビディア決算も市場に好感される内容となれば、株式市場の上昇モメンタムはさらに加速する可能性があります。
では、「どのくらいのレンジを想定すれば良いのか?」について、前回のレポートと同様に、日経平均(週足)の線形回帰トレンドで確認していきます。
▼前回のレポート
日本株に過熱感。上値追いはリスク?調整局面の買いが有効
<図4>日経平均(週足)の線形回帰トレンド

上の図4は、日経平均の週足チャートに2023年1月6日週を起点とした線形回帰トレンドを描いたものですが、基本的な見方は前回と変わっていません。
今週の日経平均がこのまま上方向を目指して行くのであれば、先週末22日(金)時点の値でプラス1σ(シグマ)の4万4,066円、想定以上の強気になった場合には、プラス2σの4万6,417円あたりが上値の目安になります。
反対に、下落して行った場合でも、株価が中心線より上をキープしている限り、相場の強気ムードが続くことになります。ちなみに、現時点の中心線は4万1,716円です。
目先の上振れ期待と中長期の天井意識
ただし、今週株価が上昇したとしても、現在の日本株に割高感がつきまとっている状況に変わりはありません。先週末時点の予想株価収益率(PER)は17.75倍と、過去の推移と比較しても相当高い水準にあります。
<図5>日経平均(日足)とPER(2025年8月22日時点)

さらに、割高感以外にも、需給面で気になる兆候も出てきています。
そのひとつが、日本証券取引所(JPX)が公表している信用取引残高の状況で、直近2週間(8月8日と15日時点)の信用売り残高がともに1兆円を超えてきています。
<図6>日経平均(週足)と信用取引残高の推移(2025年8月15日時点)

信用売り残高が増加するということは、「株価は割高で、まもなく調整もしくは下落基調が強まりそう」と見込む投資家が増えていることを意味しています。
しかし、信用売り残高が1兆円を超えた過去の場面を振り返ると、2024年の2月から3月、2023年の6月と2月あたりの時期がこれに該当します。興味深いのは、過去に信用売り残高が1兆円を超えた局面では、その後の株価に二つのパターンが見られることです。
一つは「天井をつけて下落する」パターン、もう一つは売り方の買い戻し(踏み上げ)を巻き込んで「もう一段高となる」パターンです。
前者のように、今週の株式市場が上昇した場合、積み上がった信用売り残高による「踏み上げ(損失を抱えた売り方の買い戻し)」の状況で、株価がさらに上昇していく展開も想定されます。
ただし、踏み上げによる株価上昇は、株価の先高観によるものではないため、持続性に欠けることも事実です。
4月上旬の底打ちから始まった現在の上昇トレンドが、すでに終盤に差し掛かっている可能性は十分に考えられます。このまま調整入りするのか、それとも、株価上昇の「もう一花を咲かせて」から調整入りするのかの違いは、「どのような天井パターンを形成するのか?」の違いだけです。
そのため、短期的には上値を伸ばす余地があるものの、中長期的にはそろそろ天井が意識される局面を迎えることになりそうです。とはいえ、テクニカル分析的には、本格的な下落トレンドに転じるサインはまだ出ていないため、株価が調整したところを拾っていく投資戦略がしばらく有効と考えられます。
(土信田 雅之)