成長が見込まれる株に投資する「グロース(成長)株投資」と、本来の企業価値よりも株価が低い株に投資する「バリュー(割安)株投資」。それぞれの特徴と注目すべきポイントを押さえれば、銘柄選びに役立ちます。
グロース(成長)株orバリュー(割安)株の銘柄選び、注目ポイントの違いは?
株式投資戦略は、大きく分けるとグロース(成長)株投資と、バリュー(割安)株投資の二つのスタイルがあります。グロース投資は、今後も高い収益成長が見込まれる株に投資するスタイルです。バリュー投資は、本来の企業価値よりも株価が低い(割安な状態)にある株に投資するスタイルです。
グロースもバリューも将来の利益を現在価値に割り戻したものなので、理論的には同じという見方もありますが、銘柄を選ぶ時に着目すべきポイントが異なります。
グロース投資で注目すべき点としては、売上高の成長スピードやそれを支える製品・サービス市場のポテンシャル、成長を持続するためのリソース(資金、人材、協業企業など)の確保、競合に対する優位性などがあります。
積極的にグローバル展開をしている企業においては、進出先エリアの経済動向や現地の競合状況など、把握すべき点も多いですし、技術トレンド、マーケティング戦略、現法のガバナンスなど経営知識も求められます。
グロース銘柄の特徴は、成長性を見込んで株式市場の平均より高い株価収益率(PER)水準が付与されていることと、株式市場の変動よりも大きく株価が変動しがちであることです。株価変動が大きいのは、株価が織り込んでいるものの中で将来利益のウエートが高いことにあります。そのため、経済や事業環境の見通しの変化に対して株価が振れやすくなっているのです。
グロース銘柄の中でも、長期的に持続成長する「ブルーチップ企業」(主に大型株)と、売り上げ成長率30%を超える「高成長企業」(主に中小型株)に分けることができます。一般的には成長率の高い銘柄ほどリスクが高くなる傾向があります。これは成長率の高い銘柄ほど将来の企業価値をより多く株価に織り込んでいるからです。
バリュー株は、一般的に成長性に乏しい企業が多いです。
バリュー銘柄は理論的な企業価値よりも低位に放置されていることが多いという特徴があります。グロースと比較して時価総額の小さな銘柄が多く、株式流動性に乏しい銘柄が多いことや、新聞などメディアで注目されにくいこと、安定株主が多く、IRに前向きでないことなどがその理由です。
東証の要請受け、バリュー株に注目集まる
余談ですが、証券会社にはバリュー株を得意とするアナリストはほとんど存在しません。機関投資家が投資対象とする大型株はグロース株の方が多いためです。事業展開や業績変動の少ないバリュー株は株式市場で注目されることも少なく、証券会社のビジネスに成り得ません。
しかし、2023年3月、東京証券取引所はプライムとスタンダードに上場する企業に対して、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を要請し、株価純資産倍率(PBR)1倍割れの企業に改善策を示すよう求めました。これを機に、バリュー銘柄が注目されるようになってきました。
アクティビストが経営陣へ圧力をかけ、株主還元を促したり、MBOによる上場廃止、親子上場の解消に伴う(親会社による)TOBによって株価が急騰するケースも増えています。
グロース、バリューのいずれかを選択するにしても、企業価値算出のバリュエーションの考え方を理解しておく必要があると考えます。
銘柄発掘のアプローチ
皆さんは投資対象とする企業をどのように探していますか?
銘柄発掘の最初の切り口を列挙してみると、次のようなものが考えられます。
インターネットが普及する以前の時代は、個人投資家の銘柄発掘方法のほとんどが1.株価チャート、2.相場のテーマ・株価材料、3.著名企業であったと考えます。
2000年以前は企業からの情報開示が不十分であったり、仮に開示されていてもそれを伝達する手段が限られていました。そのため、こうした限られた情報の中で判断せざるを得ない状況でした。これらの切り口は今でも投資に対して有効性を持っていると考えます。
しかし、現在はインターネットの普及と企業の情報発信が積極化されたことから、逆に情報過多の状態に入りつつあります。
そのため、今日で最も有用な方法は、4.スクリーニング+AIだと考えます。特にAI利用によって飛躍的に情報収集が容易になる時代が想像できます。
銘柄スクリーニングの上手な活用法
まず、銘柄スクリーニングにおいては、投資戦略(グロースorバリュー)をある程度は明確にしておく必要があります。そしてそれに対応する優先事項(ファクター)をピックアップして検索します。
成長株なら売り上げ成長率、営業利益率、自己資本利益率(ROE)、ROIC、など。バリュー株なら配当利回り、総還元性向、自己資本比率、ネットキャッシュ比率。双方ともにPER、PBRなど株価バリュエーションも必要になります。何度も数値設定を変えながら、ある程度納得できるスクリーニング結果を得られるまで試行錯誤が必要です。
ここで注意すべきは、絞り込み過ぎないことです。
スクリーニング結果からイレギュラーな銘柄を取り除いた後は、一つ一つの銘柄を地道に見ることが大切です。事業内容やビジネスモデル、業界動向、業界内のポジショニング、成長戦略などなど。その過程で対象企業に魅力を感じられるかどうかが重要です。魅力を感じられるのであれば、自分なりに業績見通しと妥当と思えるバリュエーション水準を考察してみます。
ここで大切なことは、十分な情報(四半期の決算説明資料・できれば動画配信)を継続的に得られるかどうかです。自分の想定通りにいかないことも多いかもしれません。その際に、何を自分は見落としていたのか、あるいは間違ったのかを検証して認識することが重要です。
AI活用の可能性
AIは、銘柄発掘はもちろんのこと、競合分析にも大いに役立ちます。例えば、ChatGPTに「○○会社と競合関係にある上場会社をピックアップしてください」と入力すると、事業内容も含めて一覧で出してくれます。
さらには、PERなど株価バリュエーションも表示してくれます。当該企業と競合との違いは何か、などいくらでも継続して壁打ちが可能です。AIの活用度合いによって投資成果に差が出る時代が始まったと言えるかもしれません。
セレンディピティ(偶然の出会い)で銘柄探し
5.株主優待、6.その他は投資スタンスがそもそも違うのでここでは触れませんが、7.セレンディピティについて最後にお話ししたいと思います。
セレンディピティ(Serendipity)とは、Wikipediaによれば『素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること』とあります。
単なる運任せのように思われてしまった方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。常にいろいろなものに注意を払っていて、変化を感じたり、当たり前だと思われていたことに疑問を感じたり、いろいろな仮説を立ててみたり、そうして考えているから偶然に遭遇できるのです。
私自身は近所に空きテナントが出ると「次に何が入るか?」を予想したり、あるいは「この辺りの立地だと何を入れたらはやるだろうか?」などをいつも考えます。飲食店に食事に行けば、客の入り、回転、原価率、家賃・人件費などを想定して損益を想像します。
さて、スクリーニングやAIによって投資対象となる銘柄候補を導き出すのは慣れれば難しいことではありません。しかし、確信めいたものを短時間で感じとることができるのは、考えを巡らせる習慣(脳内壁打ち)によって、直感が働くのではないかと思っています。
(藤根 靖晃)