9月3日に北京で「抗日戦争・勝利80周年記念式典」と軍事パレードが開催されました。習近平国家主席が重要談話を発表し、最新の兵器も公開されました。

ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記も出席しました。中国は節目の年に「抗日」を掲げて影響力強化を図っており、日本企業や中国在住の邦人は「反日」リスクへの警戒が必要です。


「抗日戦勝80年」イベントで習近平主席がフル稼働:反日リスク...の画像はこちら >>

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 「抗日戦勝80年」イベントで習近平主席がフル稼働:反日リスク上昇も 」


「抗日戦争・勝利式典」と軍事パレードが開催

 2025年9月3日、北京で「抗日戦争・勝利80周年記念式典」と軍事パレードが開催されました。今年は第2次世界大戦の終戦から80年の節目の年であり、日本でも「戦後80年」という文脈で、あらゆる議論が起こっています。


 戦後50年の「村山談話」、戦後60年の「小泉談話」、戦後70年の「安倍談話」とは異なり、今回、閣議決定を経ての「石破談話」の発表は見送られました。どこかのタイミングで「あの戦争」を検証する見解を発表するとされていますが、迷走する政局との兼ね合いを含め、要注目です。


 中国にとって、9月3日に開催されるこの「抗日戦争・勝利式典」と軍事パレードは、2025年の中国政治、外交、軍事にとって、最も重要なイベントだといわれています。1921年に結党した中国共産党は、第2次世界大戦で日本と戦い、「勝利」。その後国共内戦を経て、1949年に中華人民共和国を建国したというのが中国の公式見解です。


 言い換えれば、「抗日」は「建国」と密につながっている、というよりは、「抗日」がなければ「建国」もなかったということであり、「抗日」は「建国」のロジックに固く、深く組み込まれています。


 後述するように、日本にとっては複雑なロジックであり、イベントであり、またタイミングでもあります。中国共産党指導部が、「抗日」をレバレッジして、強国建設や愛国主義をうたい、各国の指導者や首脳を招いた上で、最新の兵器を国内外に誇示するという現実を、私たち日本人は直視しなければならないでしょう。


 この9月3日という日を経て、中国が従来以上に自国の利益や主張を前面に打ち出し、押し出してくるのは間違いありません。中国というのは政治の国ですから、政治が経済政策や市場動向に対して赤裸々に影響し、反映されます。私が、9月3日という日に行われたこの二つのイベントを重要視する意味はここにあります。


「露出の少なさ」が疑問視されていた習近平氏

 ここ最近、中国の最高指導者である習近平国家主席の動向に注目が集まってきました。以前と比べて、公の場での露出が減っていることから、その健康状態や権力基盤を疑問視する声も上がっています。言うまでもなく、一国の指導者の健康状態、一国の政権の権力基盤は、極めて根幹的な要素ですから、われわれとしても密に動向を検証していく必要があるでしょう。


 その意味で、9月3日前後は、おそらく習近平氏が2025年を通じて最も「フル稼働」する時期に違いありません。


「抗日」式典兼軍事パレードに先んじて、北京の隣にある天津市で上海協力機構のサミットが行われました。習近平氏はそこで司会を務め、重要談話を発表しました。同サミットに出席した各国首脳や国際組織の指導者を招き入れ、会談を繰り返しました。


 8月30日から9月3日の正午時点の間に、習近平氏は合計22カ国、国際組織の首脳と会談を行っています。

そこには、ロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相、トルコのエルドアン大統領などが含まれます。


 おそらくこの後、北朝鮮の金正恩総書記とも会談を行うでしょう。ちなみに、習近平、プーチン、金正恩という中露朝の国家元首が同時に一つの場所に集結するのは初めてのことで、それが中国の首都・北京である事実も、非常に意味深長です。


 私もこの日、習近平氏が夫人を伴って各国の首脳を北京の天安門で迎え入れるもようを生中継で観ていましたが、終始リラックスして、プーチン氏と金正恩氏を両脇に伴い、談笑していたのが印象的でした。


 抗日式典で発表された重要談話では、「中華民族の偉大なる復興」、「人類運命共同体」、「世界一流の軍隊」といった表現で、(大国ではなく)強国として、これから新たな歴史を創っていくという姿勢を前面に打ち出していました。


 これらの動向を観察し、検証する限り、習近平氏の存在と影響力は依然健在であり、中国は引き続き、習氏が最高指導者として、リーダーシップを発揮して、経済や軍事、外交を含めた各種政策をつかさどっていくものと思われます。われわれもそれを前提に、これからの中国の動向を見ていく必要があるでしょう。


「反日」機運の上昇は日本にとってのリスク

 日本として懸念すべき事項は、中国が戦後80年という節目の年に「抗日」を打ち出す中、中国国内で反日感情が高まる事態です。その結果、中国に渡航、滞在する邦人の安全に危害が及んだり、中国国内で日本企業が攻撃されたり、風評被害に遭ったり、日本製品がボイコットされたり、といったリスクが高まるでしょう。


 実際、私が中国で生活していた2005年、2010年、2012年には、中国各地で大規模な反日デモが起こり、日本の店舗が壊される、日本製品がボイコットされる(不買運動)といった事象を目撃しました。


 私の分析では、昨今の中国政府の対日政策や中国人民の反日感情は、当時と比べると、そこまで強烈・強硬なものではありません。中国政府としても、日本を標的にしたデモ活動や、ネット上で反日世論が極端に広まる事態を取り締まろうとするでしょう。


 一方で、2024年以来、日本人が中国国内で襲撃される事件が複数起きています。昨年9月18日、広東省深セン市にある日本人学校で、10歳の日本男児が襲撃され、死亡するという大変痛ましい事件も起きています。


 ここ最近、中国国内ではいわゆる「抗日映画」が公開されています。南京事件を描いた『南京写真館』(7月25日公開)、1942年に米軍の魚雷攻撃を受けて沈没した日本船リスボン丸を題材にした『東極島』(8月8日公開)、そして、旧日本軍の「731部隊(関東軍防疫給水部)」を題材とした『731』が、柳条湖事件が勃発した9月18日という極めて敏感なタイミングで公開上映されます。


 これら「抗日」を題材にした映画が、反日感情の高まりに拍車をかけるのは必至でしょう。


 しかる状況下、中国に渡航し、滞在する邦人は身の安全を守るべく、警戒心を高め、言動に注意する必要があります。中国で事業を営む日本企業は、従業員や帯同家族に注意喚起をすべきです。


 また、経済という観点から見れば、反日感情の高まりは企業の収益やレピュテーション、事業計画などに影響を与える可能性が高いでしょう。これから秋にかけて、「反日」という要素が、中国で事業を行う上でのリスクになり得るという前提で動く必要があるでしょう。


(加藤 嘉一)

編集部おすすめ