今夜は米雇用統計の発表日だ。雇用統計は最新データだけではなく、過去データの修正にも注意する必要がある。
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著者の荒地 潤が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 米雇用統計、今夜発表! 8月は「弱さの継続を確認しに行く」月 」
今日のレンジ予測
[本日のドル/円]↑上値メドは149.35円↓下値メドは147.40円米国投資:トランプ関税は廃止ではなく延期である限り、投資家は長期投資をためらう
米経済:米企業活動は夏までに減速。今は先食いで実際以上に活発に見える
パウエル議長:マーケットが秩序を失っていない限り、FRBが介入することはない
外国株投資:本邦投資家の外国株購入1.8兆円、過去最大規模。外債売却、過去4番目の大きさ
原油:IEA、2025年需要予想を日糧103万バレルから70万バレルに下方修正
前日の市況
9月4日(木曜)のドル/円相場の終値は、前日比0.36円「円安」の148.46円。1日のレンジ幅は0.99円だった。
2025年177営業日目は148.00円からスタート。東京時間昼前に前日の安値(147.84円)を下抜けして 147.79円まで下げたが一瞬で、勢いは続かなかった。その後は今夜の米雇用統計を前に全般的なドル買い戻しが優勢となる中で148円台にのせ、未明に148.78円まで上値を伸ばした。

今夜は、8月の米雇用統計の発表がある。先月の発表では、5月と6月就業者数が大幅に減らされる「雇用統計ショック」が起きた。
雇用市場の減速が明らかになったいま、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月に利下げすることは、パウエルFRB議長がジャクソンホール会議で容認したこともあり、ほぼ確定している。現時点では利下げしないのがサプライズである。
マーケット参加者の興味はその次、10月と11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げをするのかということに移っている。この日発表されたADP全米雇用報告では、民間部門の就業者数が5.4万人増と予想を下回ったが、FRBが利下げギアを引き上げるほどには弱くはなかった。
一方で、来週発表される8月の消費者物価指数(CPI)はトランプ関税の影響で上昇するとの予想もある。
いずれにしても10月FOMCまでに雇用統計は2回、CPIも2回発表がある。利下げの幅や回数もまだはっきりしない中でしばらくモヤモヤ相場が続きそうだが、まずは今夜の雇用統計である。もし雇用統計の非農業部門雇用者数が予想の倍の15万人超えという結果が出たなら、FX相場は急激なドル高に動く可能性がある。ただ9月利下げに疑問符がついて株式市場が大きく崩れるリスクもあるだろう。
8月米雇用統計の詳細分析は「 8月の雇用統計は「弱さの継続を確認しに行く」月に 8月米雇用統計 詳細レポート 」をお読みください。
レジスタンス:
151.43円 02/20
151.31円 03/03
151.21円 03/28
149.14円 09/03
148.78円 09/04
サポート:
147.79円 09/04
147.05円 09/02
146.79円 09/01
146.75円 08/29
146.66円 08/28
2025年 主要指標終値

今日の為替ウォーキング You Can't Always Get What You Want
今日の一言
相場観と思い込みは別のものである
You Can't Always Get What You Want
雇用統計はなぜ、大幅に下方修正されたのか?米雇用統計のデータに対する信頼性が最近問題となっている。
失業率、雇用者数の増減、平均労働賃金などのデータは、FRBが金融政策を決定する重要な判断材料である。FRBの金融政策は、他の中央銀行の金融政策にも強い影響を与えるから、雇用統計が間違っていれば、米国のみならず世界の金融市場が間違った方向に進んでしまうこともあり得るのだ。

雇用統計の精度が低い原因はいくつか指摘されている。まず、米労働省の季節調整が、雇用市場の構造変化に対応できていないことがある。例えば、1月の雇用者はクリスマス商戦の反動で少なくなるのが従来のパターンだった。
BLSはそのモデルに従って雇用者増加数を推計しているが、新型コロナの流行で季節感そのものが消える中で雇用市場のトレンドも変化して、最近では逆に1月の雇用者は急増したりしている。新型コロナ前のモデルを使った予測が実勢とかい離しているのだ。
また、回答率の低さも問題である。米国の経済指標の多くはアンケート調査に基づいている。一般に、家計調査の回答率が60%を下回るとそのデータの信頼性は低くなるといわれるが、雇用に関する企業の回答率は、新型コロナ流行時から大きく下がり、現在では40%を下回っているといわれる。
また、統計には副業やスタートアップの小さい会社の雇用状況も正確に反映されていない。
回答率が低いだけではなく、データが現存の事業所に偏っていることも問題だ。倒産企業からのデータがほとんど得られないのは仕方ないが、そのために実際よりも失業者が少なく就業者は多く計上されることになる。
最近では、社員が退職したあと欠員補充をしない「サイレントレイオフ」をする米企業も増加しているが、雇用統計ではこのような実態を数値として捉えることは難しい。データだけでは、雇用市場の本当の弱点が見えないのだ。
雇用統計の不正確性は、雇用者数が実態よりも「多めに計上」される方向に偏る傾向が強い。つまり雇用者数が予想よりも多くても割り引いて考えた方が良いということであり、逆に少ない場合には、雇用市場が予想以上に悪化しているということになる。
FRBはデータに基づいて政策を決定する「データ重視主義」をとっている。実際の雇用市場の過熱状態はすでに消えているのに、雇用統計の「楽観的な数字」を信じて利下げのタイミングが遅れてしまったおそれがある。
(荒地 潤)