「森林を売りたいけれど売れない」多くの山林所有者が抱える苦悩の上に、日本の豊かな水資源と生物多様性が守られている。対策を取らなければ外国資本に買い取られる可能性もある。

本稿では、日本の森林が直面する課題を掘り下げる。日本の広大な森林を守り育てる王子HDの株式市場で割安と評価される理由と、買い推奨する理由を説明する。


日本の森林を守る王子HDを買い推奨。PBR0.7倍、19万h...の画像はこちら >>

森林の売り方、分かりますか?

「森林の売り方が分かる人、法律に詳しい人を知っていたら教えてください」


 この切実なメッセージを見て驚きました。もう長年会っていなかった中学時代からの友人のメッセージです。最近ちょっと重い病気をしたことをきっかけに終活を考えるようになったと言います。そこで気になったのが長年にわたり所有してきた森林だそうです。


「森林を所有していても何の収入もないのに、管理コストや税金を払い続けなければならない」「それは自分の代で終わりにしたい。子供たちに迷惑をかけたくない」「なんとかして売りたいけど売れない」という話でした。私は何のアドバイスもできませんでしたが、とてもつらい気持ちになりました。


森林は大切な公共財

 日本の山岳地帯に広がる大森林は、貴重な公共財です。森林があるから、きれいな水、きれいな空気、美しい自然、生物多様性が守られています。特に、水は重要です。きれいな水を豊富に使えることが、国民生活にも上場企業の経済活動にも多大な恩恵をもたらしています。


「水」の重要性は近年、国際的に注目が高まっています。

上場企業に温暖化ガス(CO2など)の排出量を開示させる「サステナビリティ開示」が、欧米および日本で始まっていますが、CO2の次に重要なのは「水」といわれています。


 現在、企業ごとに水の使用量・水を守るための活動を開示させる議論が進んでいます。水が豊富な国の日本人には今一つピンとこない議論ですが、サステナビリティ開示基準を作成する国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)では、重大なテーマとして議論が進んでいます。


 現実問題として、水不足が経済に重大な影響を及ぼしている国はたくさんあります。中東諸国は当然として、中国、米国カリフォルニア州、欧州など水不足が経済活動の重大な制約になっている国や地域がたくさんあります。


 日本は、国際比較では、圧倒的に「水」資源に恵まれた国です。それでも、水不足の心配が生じることはあります。熊本県は、今、台湾の半導体大手企業・TSMCによる半導体製造工場建設が進んでいます。地下水を大量に使用する半導体工場の増加で、一時的に水不足になる懸念が出ています。水のリサイクルやダムなどによる保水を強化することで対応する方針となっています。


日本の森林が外国資本に狙われている?

「外国資本が日本の水資源を狙って日本の森林を買っている」という話を最近聞くようになりました。実際、北海道やほか各地で外国資本が森林を取得する事例が出ています。日本は、アジアでは珍しく外国人による土地取得に規制がない国なので、このままだと日本の森林資源を外国資本に占拠される事例が出る可能性もあります。


 森林を所有する負担が重いことを考えると、私有林が外国資本に売られることが懸念されます。保安林【注】でない私有林が売り渡されると、森林保全が続けられるか懸念されます。


【注】保安林
 森林法によって定められている森林の一種。木の伐採や土地の形状を変える行為が規制されている。水源の保持・土砂災害の防止・生活環境の向上などの森林が持つ公益的機能の維持が求められる。


王子HDのPBRは0.7倍

 私が買い推奨している 王子ホールディングス(3861) の9月3日時点の株価データは以下の通りです。


<王子HDの株価指標:2025年9月3日>


日本の森林を守る王子HDを買い推奨。PBR0.7倍、19万haの森林を保有するグリーン企業(窪田真之)
出所:配当利回りは、2026年3月期1株当たり配当金(会社予想)36円を9月3日株価で割って算出、QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 買い推奨している三つの理由は後で詳しく説明しますが、一つ目の理由は株価が「極めて割安」と判断されることです。株価純資産倍率(PBR)が0.7倍であることが注目されます。


 王子HDは日本で約19万ha(ヘクタール)、海外で約45万haの森林を保有、保護、育成しています。それで財務内容が良好であるにもかかわらず、株価が解散価値といわれるPBR1倍を大きく割り込んでいることに驚きを感じます。


 日本の貴重な森林資源19万haを所有して守っている企業が、PBR0.7倍という買収価値から見て割安な株価にあることに、私は不安を覚えます。


アナリストとして買い推奨する三つの理由

 日本および世界の森林資源を守る王子HDを応援したいという気持ちもありますが、私が買い推奨する理由はそれとは別です。アナリストとして分析した上で、株価が上昇すると予想しています。


 改めて、買い推奨する三つの理由を説明します。


【1】株価は「極めて割安」と判断


 前段で説明した通り。配当利回りが高く、株価収益率(PER)・PBRが低い「ディープバリュー株」と評価しています。


【2】紙消費半減の危機を乗り越えて業績回復続く、インフレの恩恵も


 日本の紙(洋紙・新聞用紙など)の消費量は、2007年ころのピークと比べて約半分に減りました。これを受けて、王子HDの株価・業績は長らく低迷しました。ただし、王子HDはその逆風の中でも近年、業績を回復させ、2022年3月期には最高益を上げました。段ボール需要拡大、家庭紙値上げ、多角化、コストカットが、収益改善に寄与しました。


 インフレの恩恵もあります。長年にわたり低収益が続いてきた家庭紙の収益を値上げによって改善できた効果も出ています。


<王子HDの連結純利益推移:2016年3月期~2026年3月期(会社予想)>


日本の森林を守る王子HDを買い推奨。PBR0.7倍、19万haの森林を保有するグリーン企業(窪田真之)
出所:QUICKより楽天証券経済研究所作成

【3】日本および世界の森林を守り、育てている企業であること


 王子HDは、日本で約19万ha、海外で約45万haの森林を保有、保護、育成しています。水資源・生物多様性を守る企業として、もっと高く評価されて良いと思います。


 今は森林を所有していても、木材資源以外に収益を得る術がほとんどありません。

将来的には、森林所有が収益につながる方策が多面的に検討されると思います。メガソーラー・地熱発電・スマート農業林業・観光業などさまざまな可能性があります。すぐに実現しなくとも、いつか森林資源がさまざまなビジネスに結びつくことを期待しています。


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