先週の日経平均は、6週連続の上昇を記録しました。しかし、その上昇はAI・半導体など一部のテック株が牽引したものであり、物色の広がりには課題も見られます。

今後は、自民党の高市新総裁誕生による「ご祝儀相場」への期待がある一方、長期化が懸念される米政府機関閉鎖もリスク要因となる可能性があります。


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※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【テクニカル分析】今週の株式市場 「高市トレード」は株価をさらに押し上げるか?<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し> 」


週末に息を吹き返した先週の日経平均

 先週末3日(金)の日経平均株価は4万5,769円で取引を終えました。前週末終値(4万5,354円)からは415円高、週間ベースでも6週連続の上昇となっています。


<図1>日経平均(日足)の動きとMACD(2025年10月3日時点)


今週の日本株:高市トレードでどこまで上がる?組閣や国会運営に要注意
出所:MARKETSPEEDII

 あらためて先週の値動きを振り返ると、日経平均の日足チャートを見ても分かるように、週の半ばまでは売りに押さる場面が目立ち、週末にかけて息を吹き返すという展開でした。上の図1のチャート上でも、週末3日(金)のローソク足の大きな陽線が目立っていることが確認できます。


 9月の配当落ちの影響をはじめ、9月から10月へと月を跨いだことに伴う期末や期初の売りや、米国の政府機関の閉鎖(シャットダウン)に対する警戒感など、先週の相場をとりまく環境は決して良好とは言えませんでした。しかし、週を終えてみれば、買いの強さを示した格好と言えます。


 また、4日(土)の朝に取引を終えた日経225先物取引のナイトセッションの終値(大阪取引所)が4万6,080円と、4万6,000円の大台に乗せてきました。同じく4日(土)に行われた自民党総裁選では、高市早苗候補が勝利したことで、ご祝儀相場的な「高市トレード」のような動きが出てくるようなことになれれば、日経平均がさらに上値を追っていく展開も考えられます。


 では、日経平均はこのまま順調に上値を追っていけるのか、そのポイントなどについて整理して行きたいと思います。


日本株の継続的な上昇には物色の広がりがカギ

 そんな中で迎える今週の国内株市場は、日経225先物取引のナイトセッションの終値にサヤ寄せし、上昇して取引をスタートできるかが最初の焦点となります。しかし、その前に先週の株価上昇を紐解く必要がありそうです。


 一つ目は、先週末3日(金)に前日比で830円を超える大幅上昇を見せ、終値ベースの最高値を更新したものの、取引時間中の高値(9月19日の4万5,852円)には届かなかった点が挙げられます。ただ、これについては差分が100円未満であり、突破するためのハードルは低そうです。


 二つ目に挙げられるのが、先週末3日(金)の株価上昇をもたらしたのが、AIや半導体を中心とするテック株系銘柄への物色だったという点です。


 とりわけ先週は、日立製作所が米オープンAI社にデータセンター向けの設備(送配電や空調)を提供する戦略的パートナーシップに関する基本合意書が締結されたほか、富士通とエヌビディアがAI向け半導体の共同開発で提携するなど、日米企業のコラボ案件が相次いだことが材料となりました。


 確かに、相場の牽引役が存在していること自体は喜ばしいことですが、一部の銘柄に集中しがちであることは意識しておいた方が良いかもしれません。


<図2>東証プライム市場の新高値銘柄と新安値銘柄の状況


今週の日本株:高市トレードでどこまで上がる?組閣や国会運営に要注意
出所:取引所公表データ等を元に作成

 実際に、東証プライム市場の新高値銘柄と新安値銘柄の推移を確認すると、先週末3日(金)の新高値銘柄数は大幅上昇だった割に34銘柄と少なく、直近で高値をつけていた25日(122銘柄)や26日(220銘柄)と比べても、大分落ち着いていることが分かります。


 また、週間ベースの東証株価指数(TOPIX)が下落していたという点も押さえておきたい点です(下の図3)。


<図3>TOPIX(日足)の動き(2025年10月3日時点)


今週の日本株:高市トレードでどこまで上がる?組閣や国会運営に要注意
出所:MARKETSPEEDII

 TOPIXも3日(金)に株価が大きく上昇していますが、こちらは、25日移動平均線で上値が抑えられる格好となっています。そのため、25日移動平均線の役割が、株価を支える「サポート」から、株価の上値を抑える「抵抗」へと役割を変えてもおかしくない状況になっていることが気掛かりです。


 もっとも、先週末3日(金)の東証プライム市場の値上がり銘柄数(1,241銘柄)が、値下がり銘柄数(320銘柄)を大きく上回りました。全体的に見れば、「過熱感が抑制されながら株価が上昇している」という見方もできそうですが、日本株の継続的な株価上昇には、テック系銘柄が好調を維持できるかに加え、物色の対象が広がっていくこともカギになってきそうです。


 今週は、ファーストリテイリングやセブン&アイ・ホールディングス、良品計画など、消費関連を中心とした国内企業の決算が予定されていますので、個別物色の動向が相場のムードに影響を与えそうです。


「高市トレード」がどこまで盛り上がれるかは微妙

 また、今週の日本株を押し上げるかもしれない材料として期待されるのが、先週末4日(土)に行われた自民党総裁選挙で選ばれた、高市早苗新総裁への期待感です。


 今後のスケジュールとしては、今週中に自民党の役員人事が任命され、来週15日(水)に召集される臨時国会での首相指名選挙を経て、日本史上初の女性首相が誕生する見込みとなっています。


 高市新総裁のこれまでの発言や総裁選挙時の公約などから、財政出動による経済政策姿勢をはじめ、防衛や経済安全保障、サイバーセキュリティ、エネルギーといった銘柄に注目が集まる可能性があります。ほか、「ご祝儀的」な動きもあって、株式市場はプラスの初期反応を見せそうです。


 いわゆる「高市トレード」については、2024年9月27日に行われた自民党総裁選挙において、1回目の投開票で「アベノミクス」の継承を掲げる高市氏が得票数でトップになったと報じられたことをきっかけに株価が上昇していった経緯があります。足元の株式市場も、その記憶やイメージがまだ残っている状況と考えられます。


 ただし、2024年時よりも物価高が進行している中で積極的な財政出動政策を実行すると、物価上昇の抑制に苦労する可能性があります。また、長期金利の動向や財政規律への懸念といったリスク要因が意識され始める可能性もあり、実際のところは控えめな政策にとどまるかもしれません。


 時間の経過とともに、連立を組む相手との交渉や組閣人事、具体的な政策の中身を見極めていく段階に入ります。首相になった後の所信表明演説や国会での答弁、リーダーとしての指導力や資質なども問われてきます。


 そのため、今後の組閣や国会運営などがスムーズに進まなかった場合には、株価にとってマイナス要因になる可能性があります。


米国の「政府閉鎖(シャットダウン)」の動向には注意

 このほか、以前のレポートでも紹介しましたが、米国では議会で「つなぎ予算」を成立できずに、一部の政府機関が閉鎖(シャットダウン)されるという事態に陥っています。


▼以前のレポート

米国株:10月相場は年末株高への「布石」になるか?(土信田雅之)


 実際に、先週末3日(金)に予定されていた米雇用統計の公表が見送られるなどの影響が出始めていますが、今後も経済指標の公表に影響が出そうなものについては、以下の図にまとめてあります。


<図4>米政府機関の閉鎖(シャットダウン)に伴う、経済指標公表への影響


今週の日本株:高市トレードでどこまで上がる?組閣や国会運営に要注意
出所:各種報道等を元に作成

 図4でも示されている通り、直接的な影響を受けるのは、政府機関が公表する経済指標です。


 特に、金融政策の判断材料として極めて重要な指標とされる、雇用統計や消費者物価指数(CPI)、個人消費支出(PCE)デフレーターが予定通りに発表されないことは、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策決定に大きな不確実性をもたらす可能性があります。


 いまのところ、米国をはじめとする国内外の株式市場の反応は限定的にとどまっているほか、米FRBの利下げ見通しも後退していません。しかし、場合によっては、「データが揃わないので、今回の米連邦公開市場委員会(FOMC)で金融政策の判断(利下げ)が困難になる」みたいなムードに包まれ始めてしまうことも考えられます。


 いずれにしても、閉鎖の事態が長期化してしまうと、10月28~29日にかけて開催されるFOMCが迫るにつれて、警戒感が高まってしまう展開には注意しておく必要がありそうです。


年末までの基本的な見通しは維持

 最後に、年末までの見通しについて、前回のレポートでも紹介した線形回帰トレンドで定点観測して行きます。


▼前回のレポート

【日本株】日銀短観、総裁選、配当落ち…上昇トレンドを維持できるか


<図5>日経平均(週足)の線形回帰トレンドとMACD(2025年10月3日時点)


今週の日本株:高市トレードでどこまで上がる?組閣や国会運営に要注意
出所:MARKETSPEEDII

 先週は、プラス1σ(シグマ)を下抜けるところまで下落する場面があったものの、大きく切り返して取引を終えていることがわかります。


 上方向を目指すのであれば、プラス2σの4万7,378円を目指して行くことになりますが、余程の追い風でも吹いてこない限り、そこまでの株価上昇は難しいでしょう。引き続き、プラス1σの4万5,020円をサポートに、プラス2σと1σの範囲内で株価の落ち着きどころを探って行く展開が想定されます。


 また、年末までの基本的な見方は変わらず、この調子で進めば4万6,000円前後での推移が予想されます。株価の調整範囲は中心線の4万2,663円から4万3,788円のあいだ、株価が中心線を下抜けた際には、弱気相場入りした可能性が高まるので注意が必要となります。


(土信田 雅之)

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