ここ数年でインフレを意識した資産運用を計画立てる人が増えてきたようです。長年デフレが続いていた日本でもインフレの波がやってきており、将来設計にも大きな影響を与えてきています。

資産運用においてもインフレにどう対応していくべきなのか、しっかり理解した上で実行することがこれまで以上に大切になってきています。


「インフレの実感なし」は危険!知らずにやってはいけない資産運...の画像はこちら >>

お悩み

物価が上がってインフレに備える必要性は分かるけど、実感が湧かない。

田中 慎一さん(仮名)・会社員・59歳男性(既婚、妻は専業主婦、子どもは2人独立済)


 田中さんは、来年には定年となり、65歳までは再雇用で働く予定です。再雇用での勤務はこれまでよりは余裕のある働き方になりそうなので、これを機に老後のライフプランについて、妻と一緒に改めて考えてみることにしました。


 子どもの教育費や住宅ローンの支払いなど、大きな支出は全て完済していて、老後について大きな心配はなさそうだと考えていましたが、最近は日本もインフレになってきていることから将来はどのくらい物価が上がっているか計算してみると不安になってきました。


 いつまでどのくらいのインフレが続くのかまだよく分かりませんが、先日海外旅行で米国まで行ったときに物価の高さに驚きました。もし日本での生活が同じぐらいの物価水準にまでインフレが進んだらどうしようか悩み、その対策が必要だと考えるようになりました。そのためにも資産運用をもっと積極的にやっていく予定です。


 田中さんがこれからインフレに備えた資産運用をするためには、どうしたら良いでしょうか?


インフレを意識した対策をしなければ、資産は目減りしていく

 長らくデフレと低金利が続いていた日本で物価が上昇するインフレが意識されだしたのはまだここ数年ほどです。2022年3月に米国で利上げが行われたことで本格的に円安トレンドとなり、一時は1ドル160円まで円安が進みました。


 その影響も要因の一つとなり、輸入の多い日本でも物価の上昇が起きています。その後に利下げが行われたことで円高方向に動きが変わり、今は140円台で推移しています。


 しかし、日本銀行は2024年3月の金融政策決定会合でマイナス金利を解除し、同年7月に利上げを決定してからもさらに利上げを検討しているように、日本でもインフレが定着してきています。


 最近ではお客さまからインフレを意識した資産運用やラインプランについて相談を受けることが以前よりも増えてきました。

実際に、今はまだ物価が安いといわれている日本ですが、このままインフレが続いて諸外国に物価水準が近づく方が自然ではないでしょうか?


 そこで今回はインフレ時代に知っておくべき対策、資産運用の心得をお伝えします。


インフレ対策で知っておきたい心得その1:物価高が続くことの将来設計への影響を知る

 物価が上昇してきているということは、多くの方が実感しているのではないでしょうか? しかし、まだまだ諸外国からすれば日本の物価は安いといわれています。特にここ数年で多くの外国人観光客が日本を訪れている理由の一つが彼らからすると驚くほど日本の物価が安いということです。


 逆に日本人側は円安が進んだことで海外旅行への経済的なハードルは上がりました。海外へ行くと日本と比べて物価が非常に高いことを実感すると思いますが、貿易が盛んな日本と諸外国の物価水準がいずれは近づいていくことが自然な流れです。


 将来設計を考える際にインフレ率が0%と2%では必要となるお金が全く違います。5年後であっても100万円の支出が、2%のインフレが5年続くと約110万円が必要となり、20年続くと約148万円が必要となります。当然資産運用をするならインフレ率よりも増やすことが最低限の目標となります。


 支出面で言えばインフレにも影響を受けやすい人とあまり受けない人がいます。どんな支出が多いのか、または支出額自体の金額によって変わるでしょう。物価とは、さまざまな「モノ」や「サービス」の値段を、ある一定の基準として金銭的な価値を表しています。


 つまり、将来設計をする上で、自分がどのように影響を受けるのかを考慮しておくことが必要な時代となってきています。


その2:株式投資がインフレ対策といわれる理由を知る

 昔からインフレに強い資産の一つとして株式が挙げられています。その理由としては、物価上昇するときに製品価格に転嫁することによる売上高や収益が増加する傾向があるためです。

そして利益が上がれば、自社株買いや配当金の増額など株主への還元が期待できます。


 逆に言えば、物価上昇をうまく製品価格に転嫁できない企業や、インフレが強すぎて消費が低迷してしまうようでは株価がむしろ下落してしまうでしょう。全ての株式がインフレに強いわけでない点には注意が必要ですが、総じて「緩やかなインフレ」は資産運用にとっては前向きな要素と考えていいかと思います。


 そのためインフレ対策として株式投資をするなら、分散投資をしているインデックスファンドやインフレに強い銘柄を選定しているアクティブファンド、または自分で銘柄を選別して個別銘柄へ投資をするなどが選択肢になってくるでしょう。


 ささいなことのようですが、株式ならなんでもインフレに強いと誤解したまま投資をすることは危険です。日経平均株価が上昇している時でも株価が下がっている企業があるように、インフレを意識するなら投資対象を選ぶときにきちんと投資目的に合っているかを確認するようにしましょう。


その3:物価高は通貨安、外貨資産を保有する意味を知る

 物価が高くなるインフレと日本円という通貨は表裏一体の関係にあります。つまり、「モノやサービスの価格が上昇すると、相対的に通貨の価値が下がる」ことになります。その結果、インフレ時には為替が円安になりやすいといわれており、外貨資産を保有することがインフレ対策になるといわれる理由でもあります。


 ここでいう為替とは、例えば日本円という通貨と外国通貨の交換レート(この場合は対円レート)を表すものであり、この値動きは為替相場と呼ばれています。為替相場は通貨同士の交換レートを表しており、その値動きを理論的に説明することは困難といわれています。しかし、その変動要因として二国の金利差が大きな影響を与えるものの一つとして挙げられています。


 ここでたまに誤解されていることがあります。

例えば、日本円の対米ドルレートであれば、日米金利差が縮小すれば円高になると考えている方もいますが、ここでいう金利は物価も考慮した二国間の実質金利(=長期金利-インフレ率)で推定されているという点です。


 インフレによって影響を受ける資産が他にもありますが、積立投資で海外株式への投資が集中している今では、株式と為替がインフレによってどのように動くのかをおさえておくことは必須と言えるでしょう。


 また株式や為替もインフレによって投資では良い方向に動くこともありますが、それぞれ別の資産なので違う値動きの仕方をするという区別をつけておくことも忘れないようにしましょう。


資産運用はただ資産を増やすだけではなく、守るためのもの

 将来のために資産形成をするためにNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で積立投資を始めた方がここ数年で急激に増えてきましたが、これはまだ、まとまった資産を保有しておらず、まさに資産をつくるための運用を目的としていました。


 しかし、今後のインフレ時代では資産をつくるだけではなく、今ある資産を減らさないように守るためにも資産運用が求められています。やり方は人それぞれですが、国内外の株式や債券投資は王道の投資といえます。


 投資に今からでは遅いということはありませんし、とはいえ慌てて始めるものでもありません。まずは自分のペースで投資を始めてみたり、見直してみたりするのはいかがでしょうか?


■著者・西崎努氏の著書 『やってはいけない資産運用 金融機関のカモにならない60歳からの資産防衛術』 (アスコム刊)、 『老後資産の一番安全な運用方法 シニア投資入門』 (アスコム刊)が大好評発売中です!


【動画で解説!】
 楽天証券「 トウシルの公式YouTubeチャンネル 」では、同筆者が執筆した「やってはいけない資産形成」のコラムを動画で視聴できます。


(西崎努)

編集部おすすめ