国内大手地金商の金(ゴールド)店頭小売価格(税込)は、初めて1グラム当たり2万円台に到達しました。関係者からは、「価格は高すぎる、もう買えない」などのコメントが聞かれますが、これらは金(ゴールド)相場の一側面に過ぎません。
「2万円到達」でもバブルではない?
9月29日、国内大手地金商の金(ゴールド)店頭小売価格(税込)は、初めて1グラム当たり2万円台に到達しました。
図:国内大手地金商の金(ゴールド)小売価格の推移(1973年1月5日~2025年9月29日) 円/グラム

上のグラフが示すとおり、足元の金(ゴールド)の国内店頭小売価格は、このおよそ半世紀の中で最も高い位置にあります。「有事の金」「インフレの時は金」という言葉が生まれた1970年代後半に付けた当時の高値が安く感じるほど、足元の水準は高いと言えます。
足元の金(ゴールド)相場は「バブルだ」などと言われることがあります。確かに、グラフを見ているとそのように見えますが、筆者は今の金(ゴールド)相場をバブルだと考えていません。
バブルとはある意味、「プラスの思惑である期待の膨張・爆発」「実態・根拠なき熱狂」です。金(ゴールド)を含むコモディティ(国際商品)市場はそもそも、膨張した期待が上昇を主導する場ではありません。
一般に、コモディティ市場は、実需家が現物を調達したり、供給者が現物を供給したり先物市場で売りヘッジをしたり(値下がりに対する保険をかけたり)する場です。常に、実需家と供給者という、価格の方向性に対して正反対の思惑を持つ市場参加者が同時に取引をしています。
上昇が正義となりやすい株式市場では、期待が芽生え、膨らみ、膨張すれば、価格はどんどんと上昇し、バブルが起きます。しかしコモディティ市場では、常に反対の思惑を持つ市場参加者が存在するため、期待だけで価格が急騰するケースはあまりありません。
言い換えれば、コモディティ市場は、急騰も急落もおおむね説明できる世界だと言えます。
金(ゴールド)相場がバブルかどうかを議論する際は、金(ゴールド)相場が期待や熱狂で上昇し得る株式市場と異なる次元で動いていることを認識する必要があります。
国内店頭小売価格を分解する
では、2万円台に到達した「国内店頭小売価格」は、どのような過程を経て形成されているのでしょうか。以下の通り同価格は、本体価格に消費税を足した価格です。本体価格は、円建て換算価格に諸経費を足した価格です。
図:国内地金商の金(ゴールド)店頭小売価格の構成

まずは、「2万円」は消費税を含んでいることに留意が必要です。消費税を含まない価格と比較する場合は、国内店頭小売価格から消費税分を除外する必要があります。例えば、大阪の金(ゴールド)先物価格は消費税を含んでいませんし、その価格を原資産としている投資信託や上場投資信託(ETF)は消費税抜きの価格を参照していることになります。
また、ここで述べている円建て換算価格は、世界の中心である「ドル建ての現物価格」の重さと通貨の単位を、国内店頭小売価格の単位にそれぞれ合わせた価格です。
ドル建ての現物価格の重さの単位はトロイオンス(約31.1035グラム)、通貨の単位は米ドルです。ドル建て現物価格を31.1035で除し、その時のドル/円相場を乗じることで、円建て換算価格を求めることができます。
国内店頭小売価格には、消費税が含まれていること、その価格の主な構成要素が世界の中心であるドル建て現物価格、そしてドル/円相場であることに、注意が必要です。
価格が急騰している様子から、日本国内の投資家による買いが殺到し、その買いが価格を押し上げていると感じる方もおられるかもしれませんが、実態としては、国内店頭小売価格は、ドル建て現物価格とドル/円の動向で、ほぼ説明できるのです。
短期視点の「ドル/円」の影響
以下は、ドル建て金(ゴールド)とドル/円、そして円建て金(ゴールド)の一つである大阪の金先物の価格推移を示しています。9月15日前後からおよそ2週間の短期的な値動きです。
図:円建てとドル建て金(ゴールド)およびドル/円の推移(60分足)(9月19日午前9時を100)

世界の中心であるドル建て金(ゴールド)を基準に、大阪の金先物という円建て金(ゴールド)の価格が同じように動いているか、上振れしているか、下振れしているかに注目します。
9月16日ごろ、ドル/円が円高方向に推移したことを受け、円建て金(ゴールド)への下落圧力が強まり、円建て金(ゴールド)価格はドル建て価格よりも下方向に振れました。逆に、9月25日ごろ、ドル/円が円安方向に推移したことを受け、円建て金(ゴールド)への上昇圧力が強まり、ドル建て価格よりも上方向に振れました。
短期的なドル/円相場の変動が、ドル建て金(ゴールド)と円建て金(ゴールド)の連動性に強弱を加えたことが分かります。
円安時は、国際商品の調達コスト(輸入価格)が押し上がったり、他の通貨建ての同一商品が割安に見えて買いが集まったり、円建て価格を維持するためのコスト増が意識されたりするなどして、基準となるドル建て価格よりも上方向に振れることがあります(円高の場合は逆に下方向に振れることがある)。
過去、ドル/円の変動がドル建て金(ゴールド)と円建て金(ゴールド)の価格推移の関係に大きな影響を与えた具体例を挙げます。ウクライナ戦争が勃発した2022年の後半です。この期間、ドル建て金(ゴールド)価格は下落しました。一方で、円建て金(ゴールド)価格は大きく上昇しました。
世界の中心であるドル建てが下落した要因は、ドル高です。戦争勃発を機に懸念がさらに大きくなったインフレへの対策として、米国の中央銀行に当たる機関である米連邦準備制度理事会(FRB)が、金利引き上げを実施しました。
その結果、ドルを保有するメリットが大きくなるとの思惑からドル高が進行し、ドル建て金(ゴールド)相場に強い下落圧力がかかりました。戦争が勃発して有事ムードが強まり一定程度の上昇圧力がかかっていたものの、ドル建て金(ゴールド)価格はドル高による下落を受けて下落しました。
一方、そのドル高を受け、ドル/円が大きく円安方向に推移したため、円建て金(ゴールド)相場は上昇しました。世界の中心であるドル建てが下落する中、円安によって円建ての金(ゴールド)が上昇したのです(この期間の上昇を戦争による上昇と説明することはできなかった)。
こうした例から分かる通り、ドル/円の大きな変動は、しばしばドル建てと円建ての価格推移の連動性に強弱を与えます。
長期視点のドル建てと円建ての関係
ここからは、「長期視点」の国内店頭小売価格と円建て換算価格、ドル/円の動向に注目します。以下の図は、これらの相関係数を示しています。参照期間は、1973年1月から2025年9月です。
相関係数は、1に近ければ近いほど、その二つの値動きが似通っていることを意味します。また、マイナス1に近ければ近いほど逆の動き、0に近ければ近いほど無関係の傾向が強いことを意味します。
図:相関係数(1973年1月から2025年9月までの日次価格を基に算出)

図のとおり、国内店頭小売価格と円建て換算価格の過去半世紀超の相関係数は0.99941です。これは国内店頭小売価格がほとんどドル建て現物価格とドル/円でできていることを示唆しています。
日本国内の独自要素がドル/円相場を大きく動かす場合を除けば、国内店頭小売価格は日本国内の独自要素の影響をほとんど受けていないと言えます。
また、国内店頭小売価格とドル建て現物価格との相関係数は0.93272と、大変に強い相関が認められています。このことは、長期視点で言えば、国内店頭小売価格はドル/円の影響を一定程度受けながらも、ドル建て現物価格とおおむね歩調を同じくしていることを示しています。
先ほど「短期視点の「ドル/円」の影響」の箇所で、短期視点でドル/円の変動が、しばしばドル建てと円建ての価格推移の連動性に強弱を与えると述べました。こうした影響は、短期視点では起き得る話ですが、長期視点で見てみると相関係数の高さが示すとおり、ドル/円の変動が甚大な影響を及ぼす要素にはなりにくいと、言えそうです。
このことは、長期投資に金(ゴールド)を用いている場合、その金融商品がドル建てであっても円建てであっても、指標とする金(ゴールド)はドル建てであることが望まれることを示していると言えます。
4,000ドルにも5,000ドルにもなり得る
国内店頭小売価格をはじめとした円建て金(ゴールド)価格の長期視点の指標になり得るドル建て金(ゴールド)価格の方向性について、考えます。
図:海外金(ゴールド)現物価格の推移(1975年1月7日~2025年9月26日) ドル/トロイオンス

上のグラフの通り、足元、世界の中心であるドル建て金(ゴールド)価格は1トロイオンス当たり3,800ドル近辺という史上最高値水準で推移しています。
2010年ごろ以降、金(ゴールド)相場はそれまでと異なる動きを見せ始めました。「有事の金」「インフレの時は金」という言葉が生まれた1970年代後半、「株と金は逆相関」という言葉が生まれた1980~90年代には見られなかった動きです。
筆者は現代の金(ゴールド)相場の動向について、以下の「七つのテーマ」に当てはめることで説明できると考えています。裏を返せば、この七つのテーマに当てはめないと説明はできません。
図:金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ(2025年)

短中期的には、中東地域において、イスラエルが域内の複数の武装組織と好戦的になったり、国連が制裁再開を決定したことを受けてイランの態度が先鋭化しやすくなったりしています。
同時に、ウクライナ情勢を巡り、同国もロシアもドローンを活用した攻撃の応酬を活発化させたり、停戦に向けた協議でトランプ米大統領とプーチン露大統領の足並みがそろわなくなったりしています。
中東地域でもウクライナでも、有事(伝統的)ムードの拡大が続いています。これらは、(1)をきっかけとした上昇圧力を大きくする要因です。
また、FRBによる金利引き下げの議論が進行しており、将来的にドルの価値が希薄化する懸念が強まるとの見方から、ドルよりも金(ゴールド)が選択されるケースが目立っています。これは、(3)をきっかけとした上昇圧力を大きくする要因です。
FRBを巡っては、トランプ米大統領による金融政策や人事への介入によって中立性が脅かされており、そのFRBが管理する通貨である米ドルへの信認低下が助長されているとの見方もあります。これも、(3)をきっかけとした上昇圧力を大きくする要因です。
短中期的には、(1)の有事(伝統的)、(3)の代替通貨をきっかけとした上昇圧力が目立ち、価格上昇が起きていると考えられます。国内店頭小売価格の2万円到達や、ドル建て金(ゴールド)価格の3,800ドル近辺の到達といった短中期的な上昇の背景は、このように説明できます。
2010年ごろから目立ち始め、中長期、超長期視点で金(ゴールド)相場を支えるようになったテーマが、(6)中央銀行と(7)有事(非伝統的)です。
これらは、以前の本欄で述べたとおり、2010年ごろから始まった、自由民主主義指数の世界平均の低下が示す、世界の民主主義指数の後退、それによる世界分断の深化が根底にあるテーマです。
このように、(6)(7)という長期視点の上昇要因の上に、(1)(3)という短期視点の上昇要因が存在し、長期視点の上昇トレンドが継続していると言えます。
つまり、歴史的な高値水準に到達するきっかけとなった短期的な上昇も、2010年ごろ以降に目立ち始めた、土台となっている長期的な上昇も、説明できるのです。
その意味で、金(ゴールド)相場はバブルではないと言えます。「プラスの思惑である期待の膨張・爆発」や「実態・根拠なき熱狂」がきっかけではない、説明できる環境の中で上昇していると、考えられます。
上昇圧力が大きくなれば、今後も金(ゴールド)相場は上昇し得ます。短期的な上下を繰り返しながら、数年後、ドル建て金(ゴールド)は4,000ドルにも5,000ドルにもなり得るでしょう。その過程で、国内店頭小売価格は2万2,000円、2万4,000円、それ以上になり得ると筆者はみています。
[参考] 貴金属関連の具体的な投資商品例
長期:
純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)
純金積立・スポット購入
投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)
三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)
中期:
関連ETF(NISA対応)
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
短期:
商品先物
国内商品先物
海外商品先物
CFD
金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム
(吉田 哲)