米国株の最高値更新が世界的なリスクオンを誘発。日本市場では高市政権誕生を契機に「責任ある積極財政」と「成長投資重視戦略」への期待が高まり、日経平均は節目の5万円を突破しました。
日経平均5万円突破の要因に「米国株高」によるリスクオン波及も
週明け10月27日の東京証券市場(東証)では、日経平均株価が史上初めて5万円を突破しました。2024年2月にバブル期以来、約34年ぶりに最高値を更新。翌3月に4万円をつけて、約1年7カ月で1万円超の上昇となってきました。
9月7日の石破茂前総理退陣表明以降は約7,493円の大幅高を示現。図表1のとおり、2020年以降のS&P500種指数(S&P500)と日経平均の相関係数は「0.69」と高く、昨年夏以降に出遅れてきた日本株が9月以降の「政策変化期待」をテコに追いついた格好です。
図表1:米国株高と経済政策の変化期待が日本株の出遅れ修正を後押し
10月27日の米国市場では、S&P500種指数が年初来36回目となる過去最高値(終値)を更新し、年初来リターンは+16.9%。そのS&P500をけん引する大手テック株で構成されるナスダック100の年初来上昇率は+22.9%です(27日)。
10月中旬には米中貿易摩擦再燃への懸念や一部地方銀行の経営不安を背景にスピード調整(高値から約3%下落)を強いられましたが、4月の「トランプ関税ショック」をボトムにした強気相場は崩れず、6カ月連続の株高で10月を締めくくりそうです。
こうした米国株の強気相場を支える要因としては、
[1]9月消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回り今週28~29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備制度理事会(FRB)が追加利下げを決定する公算が高まった金融相場期待
[2]週末の閣僚級協議で米中貿易摩擦懸念が緩和して景気が後退入りを回避し軟着陸(ソフトランディング)に向かうとの観測
[3]技術革新の「メガトレンド」とも呼ぶべき人工知能(AI)革命の進化、利活用、生産性向上期待
という三つのエンジンが挙げられるでしょう。
米国株と世界株の強気相場を支える「金融環境の改善傾向」に注目
2025年後半の米国株高傾向を支える大きな要因が「金融環境の改善傾向」といえます。シカゴ連邦準備銀行が週次で公表する「全米金融環境指数(NFCI)」は、銀行間金利や社債スプレッド、株価変動率など、100を超えるデータを統合して算出される高頻度データとして注目されています。
同指数が低下もしくはマイナス圏で推移しているときは金融環境が緩和傾向であることを示します(逆に上昇は金融環境の悪化傾向を示します)。
図表2で示すとおり、このNFCIは足もとまで明確な改善トレンドを示し、信用ストレス後退と市場安定を支える金融環境改善がみてとれます。
金融当局や市場参加者も注目するNFCIが金融環境の改善トレンドを示すのを横目に、株式などリスク資産への押し目買いを進めたい機関投資家(ミューチュアルファンドのファンドマネジャーやヘッジファンドマネジャー)は、多くがベンチマークとするS&P500の堅調に劣後しないようにリスクオン姿勢を維持する姿勢を後押しすると思われます。
図表2:米国株式の強気相場を支える「金融環境の改善」に注目
なお、米国市場で10月10日以降に警戒されてきた米中貿易摩擦激化懸念(トランプ大統領が東部時間の10日朝に対中関税率100%上乗せを警告した)については、ベッセント米財務長官が26日、マレーシアのクアラルンプールで行った米中閣僚級協議後に「非常に実質的な枠組みに到達した」と表明。
中国製品に対する100%追加関税は回避され、中国のレアアース輸出規制も1年延期されることになる見通しが株式市場の好材料となりました。先行きに向けた株価変動不安を示す「恐怖指数」(VIX指数)は16日につけた25.31から27日には15.79へ低下してきました。
一方、市場が注目していた7-9月期の企業決算発表については、10月24日時点でS&P500構成企業の約3割(143社)が、決算を発表済みの時点において、全体の1株当たり利益(EPS)は前年同期比で10.4%増益見通しとなっており、事前の市場予想平均(約8%増益)を上回っています。
決算発表企業の約87%が予想を上回る好決算(LSEG IBES集計)で、今後発表されるテック系大手の決算内容とガイダンス(業績見通しや設備投資計画)に市場の関心が集まっています。
世界株高をけん引する米国株(S&P500)の上値余地を試算する
なお、S&P500の予想EPSと想定株価収益率(PER)の積から算出する株価予想モデル(図表3)によると、2025年の過去最高益更新に続き、2026年も14.0%増益、2027年も13.4%増益と連続してEPSが二桁の伸びで連続最高益更新が見込まれています(Refinitiv集計)。
エヌビディア(NVDA) を筆頭に、時価総額の大きな大手テック企業のウエートが高いS&P500ベースの業績見通しが、AI革命進展を映して業績見通しが上向いている現実を、軽視するべきではないでしょう。
米国市場は約12カ月先の企業業績を織り込む「Forward Looking(先見性)」の特性があるとされ、市場は年末に向けて新年(2026年)の業績予想を視野に入れる「年末高」の動きをみせる公算が高いと思われます。
図表3で示すとおり、翌年の業績を織り込むため、S&P500の今年(2025年)末の上値余地としては、想定PERが23倍で6,990程度、2026年末に向けた上値余地としては(2027年の業績見通しを視野に入れる)7,930程度と見込んでいます。適宜の短期的な株価調整(一時的な需給悪)を挟みつつも、新年(2026年)を視野に入れた中期的な強気相場維持を予想しています。
当然ですが、外部環境改善要因としての米国市場の株高傾向は、日本の株高傾向にとってもサポート要因になり続けると見込んでいます。
図表3:米国株価に上値余地はある?2026年末に向けたS&P500指数の予想レンジ
高市相場によるムードチェンジ:注目セクターと銘柄物色は?
前述したとおり、米国株高が主導するリスクオン・ムードが世界市場に広がる中、日本市場にもその追い風が波及(外国人投資家のリスク許容度改善に伴う日本株買いが進行)しています。
加えて、石破前総理の退陣表明(2025年9月7日)以降、経済政策を巡る「変化(Change)」の期待が高まり、紆余(うよ)曲折を経つつも誕生した高市早苗新政権がもたらす「責任ある積極財政」と「成長分野投資重視」への内外投資家の期待が株式相場を押し上げてきました。
10月21日に誕生した高市新政権の内閣支持率は74%に急上昇(日本経済新聞・テレビ東京の世論調査)。支持理由として「政策がよい」(36%)、「人柄が信頼できる」(36%)が目立ちます。
特に「現役世代」(18~39歳まで)の層の、高市内閣人気が8割超に上昇したことが注目されました。「日本初の女性首相」の誕生だけでなく、力強い未来に向けたリーダーシップのあるトップへの前向きな期待感を示しています。
「高市相場」と呼ばれる市場の目先の関心は、日米首脳会談(赤坂・迎賓館で会談する高市総理とトランプ大統領)の親和性確認に続き、国内政治では高市総理を支える「責任ある積極財政カルテット(四重奏)」(片山さつき氏:財務相、城内実氏:経済財政相、小林鷹之氏:自民党政調会長、小野寺五典氏:自民党税調会長の4人)の連携と言動に向かうと考えています。
少数与党でありながら、連立与党である日本維新の会や中道野党の国民民主党らと協調し、早期のガソリン暫定税率廃止や電気・ガス料金の補助などの物価高対策、低中所得層の実質所得底上げに向けた財政政策の転換や経済成長戦略(サナエノミクス)を、どのように実現していくかが注目されます。
なお、米国株がけん引する「世界株高」という外部環境も追い風に、高市総理の所信表明演説や各閣僚が示唆している重点成長戦略分野に沿い、下記するセクター(業種)や個別銘柄が、2026年に向けて相対的な物色対象となりそうです。
「日本を再び強く豊かに」と訴える高市総理に期待する相場がすでに始動してきた中、銘柄によってはすでに市場平均を上回る株高傾向を鮮明にしていることに注目したいと思います。
<高市政権が掲げる重点成長分野と注目銘柄例(参考情報)>
〇AI・半導体関連: ソフトバンクG(9984) 、 アドバンテスト(6857) 、 東京エレクトロン(8035)
〇防衛・航空宇宙: 三菱重工(7011) 、 川崎重工(7012) 、 IHI(7013)
〇造船関連: 名村造船所(7014) 、 三井E&S(7003) 、 川崎重工(7012)
〇量子コンピュータ: 富士通(6702) 、 NEC(日本電気:6701) 、 日立製作所(6501)
〇バイオテクノロジー: サンバイオ(4592) 、 塩野義製薬(4507) 、 武田薬品工業(4502)
〇エネルギー: 三菱商事(8058) 、 三井物産(8031) 、 INPEX(1605)
〇核融合(フュージョン)開発: 浜松ホトニクス(6965) 、 日本製鋼所(5631)
〇サイバーセキュリティー: トレンドマイクロ(4704) 、 サイバーセキュリティクラウド(4493) 、 SRAHD(3817)
(*上記は市場で注目されている参考情報であり、個別銘柄の推奨を目的とするものではありません)
(香川 睦)

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