今週は、日経平均が大幅下落の一方で、米国株は意外と底堅い荒れ模様の様相です。さらに、プライベートクレジット問題という「死角」への懸念も高まっています。

英MFSの経営破綻をきっかけに、昨年からの一連のデフォルト事案が改めて点から線へとつながり始めました。今、金融システムの深層で何が起きているのか、その実態を探ります。


イラン情勢の影で忍び寄るプライベートクレジット問題(土信田雅...の画像はこちら >>
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意外に堅調な米国株市場

 3月相場入りとなった今週の株式市場ですが、先週末に軍事衝突に発展してしまったイラン情勢を受けて売りに押される場面が目立っています。


<図1>国内外主要株価指数のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年3月4日時点)
※日本株(日経平均・TOPIX)と中国株(上海総合指数・香港ハンセン指数)は2026年3月5日時点

 図1は、2025年末を100とした国内外の主要株価指数のパフォーマンスを比較したチャートです。


 日経平均株価は週初の3月2日(月)から4日(水)にかけての3日間で4,604円の下げ幅を見せました。香港ハンセン指数やインドのセンセックス指数、ストックス欧州600指数なども大きく下落する動きを見せていることが確認できます。一方、米国株市場の下落は、他国の株価指数と比べると意外にも限定的になっていることが分かります。


イラン情勢の裏でくすぶる「プライベートクレジット」問題

 もっとも、今後の展開については、イラン情勢が「どのくらいの期間で収束に向かうのか」という時間軸がカギを握ることになります。


 武力による応酬の停止や今後のイランの統治体制、核開発・保有の放棄、原油やLNG価格の落ち着きなどをポイントに、短期間(1カ月から3カ月以内)で収束する見込みとなれば、「影響は一時的」という判断となり、株価の反発基調は続いていくと思われます。


 反対に、事態が長引きそうな状況となれば、原油価格の上昇がもたらすインフレや景気減速懸念、そして、リスクオフムードによる安全資産への回避など、これまでの相場見通しの前提(堅調な景況感や企業業績の回復基調など)が揺らぐことになるため、株式市場が大きく下落してしまう可能性はまだ残されています。


 現時点では、トランプ米大統領が今回の軍事作戦の期間を「4週間程度」と表明していることもあり、まずは75日や13週といった3カ月間の移動平均線などを下値の目安として、しばらくは今後の行方を見守りながら株価が上下する動きが想定されます。


 このように、相場の視線は中東情勢に注がれていますが、その裏では米国を中心に「プライベートクレジット(銀行を介さない投資ファンドによる企業融資)」の問題も浮上しています。


英国の住宅ローン会社破綻で再燃したプライベートクレジットへの不安

 プライベートクレジット問題については、前回のレポートでも紹介したのですが、先週末に「新たな動き」が出てきており、改めて状況を整理したいと思います。


2026年2月27日: 下がらない米国株。プライベートクレジットの不穏は「炭鉱のカナリア」?(土信田雅之)


 その新たな動きとは、住宅ローンを手掛ける英国企業のマーケット・フィナンシャル・ソリューションズ(MFS)が先週末に破産申請を行い、事実上の経営破綻となったことです。


 MFSは、銀行融資を受けにくい層に対して住宅ローン融資を柔軟に行うことで急成長してきました。また、MFSが融資を行うための原資は、 バークレイズ(BCS) や ウェルズ・ファーゴ(WFC) といった大手銀行のほか、あるいは今回のテーマでもある、プライベートクレジットファンドからも供給されていました。


 MFSの破産申請は、投資先の破綻リスクが表面化した一つの事例ですが、問題となっているのは、MFSが同じ資産を複数の資金調達の担保に設定する、いわゆる「二重担保」を行っていたという不正の疑いがある点です。これにより、MFSへの融資を担っていた大手銀行やプライベートクレジットファンド側の審査能力や管理体制に不信感が広がる格好となりました。


プライベートクレジットへの懸念は時間の経過とともに積み上がってきた

 実は、プライベートクレジットに対する懸念は最近になって急に浮上したわけではなく、昨年の秋頃から段階的に積み上がってきたという経緯があります。


 例えば、昨年(2025年)9月に、米国の自動車関連企業であるファースト・ブランズ・グループと、トライカラー・ホールディングスが相次いで経営破綻しました。両社ともにプライベートクレジット市場を通じて資金を調達していました。


 ファースト・ブランズ・グループは自動車部品を手掛ける大手メーカーとして知られていたのですが、巨額の「簿外債務」が発覚したほか、トライカラー・HDについては、ヒスパニック系や移民などの低所得者層を対象とした自動車ローンの提供を行う企業で、破産申請時に先ほどのMFSと同様に「二重担保」による不正融資が明らかになりました。


 続く11月には、米国の不動産企業レノボ・ホーム・パートナーズが破綻。これにより、同社に融資をしていた資産運用会社大手の ブラックロック(BLK) が巨額の損失を計上する事態となりました。


 しかも、ブラックロックは破綻のわずか1カ月前まで、レノボへの融資評価を「額面通り(回収可能性100%)」として扱っており、破産申請が判明してから一気にゼロ評価に切り替えたことも、プライベートクレジットにおける「担保資産の過大評価」が問題として指摘されました。


 そして、今年2月には、前回のレポートでも触れた資産運用会社の ブルー・アウル・キャピタル(OWL) が保有するプライベートクレジットファンドの解約受付を一時停止すると発表しました。この出来事そのものは、企業の経営破綻は絡んでいないものの、解約(換金)が困難になったことによる流動性リスクが意識されました。


   また、発表が「SaaSの死」と呼ばれる、AIサービス関連銘柄の株価が下落していたタイミングであったため、AI関連企業への積極的な投資で知られるブルー・アウル・キャピタルの融資先の破綻リスクのイメージを膨らませてしまう格好となりました。


 これらの事例が浮き彫りにしたのは、プライベートクレジットが抱える「三つのリスク」です。


【投資先の破綻リスク】
 中小企業や未上場企業、銀行が融資を敬遠する企業といった、高リスク先への融資が多い。


【資産評価の不透明性】
 投資先の財務状況などの実態を把握しづらいほか、市場価格の算出が困難なため、ファンド側が恣意(しい)的に「評価額」を据え置くことが可能になっている。


【流動性リスク】
 上場株式のようにすぐに売却できず、現金化のハードルが高い(多くのプライベートクレジットファンドの解約受付は3カ月ごと)。


 つまり、現在警戒されているプライベートクレジットの問題は、それぞれの出来事を通じて浮上してきたリスクが「点」となり、やがて時系列につながる「線」となって形成されてきたといえます。


今後の見通しと注意点

 では、なぜこれほどまでにプライベートクレジット問題が深刻化してしまったのでしょうか。


 その背景には、2008年のリーマン・ショック以降、銀行への規制が強化されたことがあります。銀行による融資が厳しくなった「隙間」を埋める形で、規制の緩い投資ファンドによる融資市場(プライベートクレジット)が急成長しました。


 しかし、市場が拡大し、ファンド間の競争が激化するにつれて融資条件の緩和が進み、審査がだんだんと甘くなっていったことが、これまで見てきた出来事につながっていったと考えられます。


 もちろん、これまでの出来事が「ごく一部の不適切な事例」にとどまるのであれば、市場への影響は限定的で済みます。


<図2>米プライベートクレジット関連銘柄のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年3月4日時点)

 図2は、2025年末を100とした米プライベートクレジット関連銘柄のパフォーマンス比較ですが、足元で株価の下げ止まりの兆しを見せています。


 しかし、一匹のゴキブリを見つければ、影には何十匹も潜んでいるという「ゴキブリ理論」のように、今後も似たような破綻や不正の事例が続出することになれば、それは単なる個別企業の倒産ではなく、金融システム全体への不安(金融危機)へとつながる恐れがあります。


 かつての金融危機を振り返れば、2007年の「パリバ・ショック」であぶり出されたサブプライムローン問題という小さな兆候が拡大し、翌2008年の「リーマン・ショック」へとつながっていきました。


 今回のプライベートクレジットの問題も、現時点では「まだ一部の混乱」に見えるかもしれませんが、金融面の「死角」から次の危機が忍び寄っている可能性には注意しておく必要がありそうです。


(土信田 雅之)

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