JRが発表した終電の繰り上げが波紋を呼んでいます。JR線に接続する私鉄でも繰り上げを表明する事例も出てきており、タクシーや深夜急行バスにとってはチャンス拡大、と見る向きもありますが、そうとも言い切れないようです。
JR東日本やJR西日本、JR九州が表明した終電の繰り上げが波紋を呼んでいます。
いずれも2021年3月のダイヤ改正を目途に実施するとしており、2020年9月にはJR西日本が、京阪神の主要駅における終電を軒並み最大30分繰り上げるという具体的なダイヤも発表しました。これに呼応する形で、西武や西鉄といった私鉄でも、繰り上げの検討に入っています。
こうしたなか、SNSなどでは「タクシー代(会社が)出してくれるかな…」「タクシー帰りが増える」など、タクシーの需要増を予想する投稿も多く見られました。タクシーのほか、終電後に主要駅から郊外へ運転される深夜急行バスなどにもチャンスといえるかもしれませんが、実際にはどうでしょうか。
夜間ズラリと並ぶタクシーのイメージ(画像:写真AC)。
都内タクシー大手の日本交通によると、タクシーしか足がなくなる時間帯が広がることは、確かにチャンスではあるといいます。新型コロナウイルスの影響による緊急事態宣言以降、夜間の人出は減りましたが、9月に東京都が飲食店への時短営業要請を解除してからは、以前ほどではないものの、深夜の需要も戻ってきているそうです。
一方、「深夜急行バスにとっては、特段チャンスとは考えていない」と話すのは西武バス。同社は西武池袋線の終電後に池袋駅から練馬、所沢方面への深夜急行バスを運行しています。そもそも、JRと接続する西武線でも終電を繰り上げることが予想されるうえ、現状でも21時以降の路線バス利用が減っているのだそう。
深夜急行バスではない、一般路線バスの深夜系統も、新型コロナウイルスの影響で運休していた便の復活を進める一方で、利用回復が見込めない便の廃止や減便も進めているといいます。
このように終電の繰り上げは、バスにも様々な影響を及ぼすことが予想されます。西武線沿線(おもに東京多摩北部、埼玉)でタクシーを営業する西武ハイヤーは、JRの終電繰り上げというより、「深夜バスの廃止や減便はチャンス」と捉えているとのこと。なお同社の場合、もともと深夜利用はエリア内、つまり東京郊外で飲む人や、終電を乗り越した人がメインだそうです。
「終電の繰り上げはチャンスにも捉えていますが、いまの段階で夜間のお客様はまだまだ少なく、何とも……」と話すのは、東急東横線の沿線、横浜市港北区を中心にタクシーを営業する三和交通です。むしろ、終電の繰り上げにより、営業エリアにおける夜の人口がさらに減ってしまう可能性もあるといいます。

西武バスが池袋から運行している深夜急行バス。終電繰り上げの影響が予想される(乗りものニュース編集部撮影)。
都心部においては、新型コロナウイルスの流行以前から、働き方改革などの影響もあり夜間のタクシー利用が減っているようです。前出の日本交通によると、むしろ朝の通勤時間帯への対応を強化すべく、運転手のシフトも変えてきていたといいます。
「たとえば、朝7時8時に出庫して翌日2時3時に帰庫するシフトを、14時15時に出庫し、深夜早朝を経て9時10時に帰庫するシフトに変えるなどしています。朝の通勤時間帯に、スマートフォンアプリ経由を含めた無線配車の需要が集中しているからです。もともとクルマが少なくなる時間帯でしたが、深夜と朝の双方に対応するよう軸足を移しています」(日本交通)
タクシーは新型コロナの影響で大きく需要が落ち込みましたが、そのなかでも、配車アプリを含む無線配車の需要は前年並みに回復しているとのこと。
都心と郊外など、地域によっても状況は異なるかもしれませんが、前出の三和交通も、社会全体の「朝シフト」が進む可能性があると話します。