「高機動」をその名にうたう陸自の車両があります。トヨタ「メガクルーザー」としてかつて一般販売されていたこともあるこのクルマ、相当高価だったそうですが、その価格にもその名にも恥じない性能を誇っています。

「高機動」をうたうだけのことはあるクルマ

 どんな悪路であっても颯爽と駆け抜ける陸上自衛隊の高機動車。トヨタが製造するこの車両は、その姿形から「和製ハマー」との異名も持っています。過去にはトヨタが民生バージョン(一般販売用)として「メガクルーザー」をリリースしましたが、2001(平成13)年をもって新車販売は終了しています。そのため2020年現在、入手するには中古車市場で探すしかありませんが、販売台数が少なかったこともあり、価格は高騰しています。

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練馬駐屯地記念行事で登場した、地対空ミサイルを搭載した第1高射特科大隊の高機動車(武若雅哉撮影)。

 高機動車のスペックを調べてみると、全長4.91m、全幅2.15m、全高2.24m、車体重量2.64tと、おおむね一般的に販売されているミニバンよりも横幅があり全高も高くなっていますが、最小旋回半径は約4.6mと小回りの利く車両となっています。これは、駆動方式が「逆位相4WS」であるがゆえです。ハンドルの切れ角に応じて後輪が前輪と逆に動くというもので、大型ボディのわりに小回りが利くようになっているのです。

 ほかにも、「水深80cmでも走行可能」「左右43度までの傾きに堪える」「60%以上の傾斜でも登ることができる」「75cm幅の溝を超えることができる」「50cm以上の高さの障害物を超えることができる」などなど、一般的なクルマに比べ高い悪路走行性能が特徴です。

全く名前負けしてない陸自「高機動車」どんなクルマ? トヨタ「メガクルーザー」原型

航空機用電源を搭載した高機動車もあり、全国の航空基地でその姿を見ることができる(武若雅哉撮影)。

 また、悪路を走行する際にはタイヤの空気圧を低くした方がより安定して走ることができるのですが、高機動車の場合、運転席のスイッチを操作することによって、タイヤの空気圧を自動で変更することができます。

使い勝手の良さから派生型も多い「高機動車」

 高機動車の特徴としてはこのほか、そのバリエーション(派生型)の多さも挙げられるでしょう。

大きく広い荷台には、人員なら最大8名を載せることができ、監視用のレーダーや対空ミサイルなどを積んだタイプも存在します。さらには、道路に埋められた即席爆弾(通称 IED)を探知する装置を搭載したり、敵のドローンを撃ち落とすための「ドローン対処レーザーシステム」の搭載も将来的に考えられていたりするなど、その汎用性は非常に高いものとなっています。

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車体後部に偽装網を被せた第1空挺団の高機動車(武若雅哉撮影)。

 災害派遣でも活用される機会は多く、人命救助活動や、救援物資の輸送などに従事する姿が見られます。場合によっては大型輸送ヘリコプターCH-47J/JAに搭載され、被災地へ急行することもできるのです。

 国際活動でも使われることが多い高機動車ですが、自衛隊がイラクへ派遣された際には防弾パネルを取り付けたタイプも誕生しました。高機動車はボンネットがFRP製で、車体自体にも防弾性能はありません。そのため、車体の内側に防弾パネルを追加する必要があったのです。

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板妻駐屯地記念行事で登場した仮設敵役の隊員が乗った高機動車。覆面をした黒づくめの隊員が乗っており、悪役感がすごい(武若雅哉撮影)。

 コロナ禍によって、2020年は陸上自衛隊のイベントが軒並み中止となってしまったのですが、過去の駐屯地記念行事では、悪役が乗るクルマとしても登場するなどしていました。

「高機動車」実際に乗ってみたら…?

 高機動車は、取材陣の足として使用される車両でもあります。

筆者(矢作真弓/武若雅哉:軍事フォトライター)も何度か乗車しましたが、先行する1/2t小型トラック(通称:パジェロ)が大きく揺れるような場所であっても、高機動車はスムーズに進むことができます。

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120mm重迫撃砲をけん引している第2普通科連隊の高機動車(武若雅哉撮影)。

 これはサスペンションの違いで、パジェロは板バネを使用していますが、高機動車はダブルウィッシュボーン式サスペンションという、いわゆるスポーツカーやレーシングカーで使用されている、上下2組のアームでタイヤを支える機構となっています。そのため、路面の状況に関わらず、安定した走りが可能なのです。もちろん乗り心地は快適で、後部座席の下部にはヒーターも装備されていることから、冬場は思わずうたた寝してしまうほどです。

全く名前負けしてない陸自「高機動車」どんなクルマ? トヨタ「メガクルーザー」原型

2018年に発生した胆振東部地震で厚真町役場に派遣された第7通信大隊の高機動車(武若雅哉撮影)。

 数多くの可能性を秘めた高機動車は、1993(平成5)年に初回分が導入されてから、全国の部隊で約2500台以上が配備されています。そのため、駐屯地や演習場周辺で見かける機会が多いクルマであるともいえます。

 いずれコロナウイルス感染症が収束し、自衛隊のイベントが再開されるようになれば、高機動車の一般体験搭乗も行われるでしょう。このように我々、一般人が比較的乗ることのできる自衛隊車両としても注目の存在である高機動車ですが、もし街中などで見かけたら、それが通常型なのか、派生型なのか見極めてみるのも面白いでしょう。

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