昨今の艦載レーダーはステルス性能の高い目標も補足できつつあるようで、中国の駆逐艦にも搭載されているそうです。その対抗策のひとつとして、まさかの非ステルス機F-15J将来改修型の活用も考えられるとか。
イギリスの新聞デイリーメールは2020年10月14日(水)、中国の国営テレビ局であるCCTV(中国中央電視台)の報道を引用する形で、中国海軍の最新鋭防空ミサイル駆逐艦「055型」が、ステルス性能の高い目標を補足できる能力を備えていると報じました。
「ステルス破り」への対抗策になるか、長射程対艦ミサイルを発射するF-15のイメージCG(画像:ボーイング)。
中国海軍は2010年代初頭から、052D型(昆明級)防空ミサイル駆逐艦の大量建造を進めています。この052D型がアメリカ海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦(満載排水量9033トン)や海上自衛隊のまや型ミサイル護衛艦(推定満載排水量1万0250トン)といった、日米のイージス戦闘システムを搭載する水上戦闘艦より小型(推定満載排水量7000トン)であるのに対し、055型の満載排水量は、第2次世界大戦中に日本海軍が運用していた利根型重巡洋艦に匹敵する1万3000トン程度と見込まれており、2017年にアメリカ国防総省が発表した年次報告書では、駆逐艦ではなくより大型の巡洋艦に分類されていました。
055型ミサイル駆逐艦は艦のサイズが大きいぶん兵装も強力で、「セル」と呼ばれるミサイルの保管容器と発射筒を兼ねるケースの数は、アーレイ・バーク級の90セル、まや型の96セルを上回る112セルに達しています。
2020年10月の時点で055型は6隻の建造が確認されており、1番艦「南昌」は2020年1月12日に就役しています。中国海軍が055型をどのように運用するかは今後の推移を見る必要がありますが、海外の主要メディアの多くは空母打撃群の防空中枢艦となるのではないかと推測しています。
現実的なラインで考える055型搭載「ステルス破り」レーダーの正体中国海軍の防空ミサイル駆逐艦は、アメリカや日本のイージス戦闘システムを搭載する水上戦闘艦より、レーダーの能力では劣ると見られていました。このため冒頭に挙げた、055型がステルス性能の高い目標を補足できるとの報道に対しては、疑念の声も上がっています。
ステルス性能の高い目標を補足する能力があると報じられた、055型ミサイル駆逐艦(画像:中国海軍)。
F-35のような高いステルス性能を持つ航空機やミサイルは、多くの戦闘機や水上戦闘艦に搭載されている電波の波長帯のレーダーでは補足が困難ですが、より波長が長いUHF波レーダーでは、目標の一部を補足できるといわれています。
テレビ放送にも使用される周波数帯であるUHF波のレーダーは解像度が低く、目標を正確に補足しにくいため、第2次世界大戦以降は省みられてきませんでした。しかし近年では情報処理技術の発達により、航空自衛隊が導入したE-2D早期警戒機が搭載するAPY-9レーダーなどにも、「ステルス破り」の切り札としてUHF波が使用されています。
055型ミサイル駆逐艦がUHF波レーダーを搭載しているのかは不明です。とはいえ、中国の英字ニュースメディアであるグローバルタイムスは、055型は複数の周波数帯を使用するレーダーを搭載することで、ステルス性能の高い目標を補足できると報じていることから、おそらく055型はアーレイ・バーク級などに搭載されているSPY-1レーダーと同じSバンドと、UHF波のような極超短波を併用するレーダーを装備することで、ステルス性能の高い目標の補足能力を獲得したと中国は主張しているのではないかと、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
「ステルス破り」現実なら自衛隊のF-35はどうなっちゃうの?CCTVが報じた通り、055型ミサイル駆逐艦がステルス性能の高い目標を補足する能力を持つと仮定して、有事の際に日本が対峙しなければならなくなった場合、航空自衛隊の戦闘機による対艦攻撃は戦術を見直す必要があるかもしれません。
航空自衛隊がF-35A用に導入する対艦ミサイル「JSM」の実大模型(竹内 修撮影)。
航空自衛隊はF-35A戦闘機に、現在F-2に搭載されている93式空対艦誘導弾(推定射程170km)より射程の長い対艦ミサイル「JSM」(Joint-Strike-Missile)を組み合わせることで、対艦攻撃能力の強化を図っています。JSMは高高度の場合、500km程度を飛翔するとされていますが、艦船に搭載されたレーダーでの探知を避けるため海面すれすれ(5mから15m)を飛翔する、いわゆるシー・スキミングの場合は射程が短くなります。
もし055型ミサイル駆逐艦に搭載されているレーダーが、ステルス性能の高い目標を補足する能力があるとした場合、同艦には最大射程250km以上とも推測されている艦対空ミサイル「HHQ-9 A」が搭載されているため、これによりJSMの発射前にF-35Aが撃墜されてしまう可能性もあります。
だったら射程外から撃てばいいじゃない 最新改修型F-15Jの「お役目」防衛省と航空自衛隊は対艦攻撃能力を向上させるもうひとつの手段として、F-15Jの能力向上改修型に、最大射程926km以上の空対地ミサイル「JASSM-ER」(Joint-Air-to-Surface Standoff Missile)と、JASSM-ERの設計を基に開発された、最大射程800kmの対艦ミサイル「LRASM」(Long Range Anti-ship Missile)の搭載も計画してます。現時点で世界にはJASSM-ERとLRASMの射程を超える艦対空ミサイルは存在しておらず、両ミサイルを搭載したF-15Jは、安全な距離から攻撃を行なうことができます。
能力向上型F-15Jへの搭載が計画されている対艦ミサイル「LRASM」(画像:アメリカ海軍)。
ひとつの手段しか持たないと、その手段が無力化された時、なすすべを失ってしまいますが、ふたつ以上の手段を持っていれば、どちらかが無力化されても対応することができます。F-35AとJSM、能力向上改修を受けるF-15JとJASSM-ERまたはLRASMという、特性の異なるふたつの手段により、対艦攻撃能力、さらに言えば抑止力を高めるという防衛省・航空自衛隊の考え方は合理的だと筆者は思いますし、055型ミサイル駆逐艦という新たな脅威が出現した現状においては、その整備をさらに加速していくべきだとも思います。

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