航空自衛隊のF-2戦闘機を代替する「次期戦闘機」について、輸出も念頭に置くべきとの声が上がりました。仮に法的な条件が満たされたとして、買い手は現れるのでしょうか。

そもそも皮算用をする前に、模索すべきことがありそうです。

次期戦闘機 お金がかかるなら売って賄えばいいじゃない

 2020年11月27日(木)、自民党の有志議員で構成する「日本の産業基盤と将来戦闘機を考える研究会」のメンバーが防衛省で岸 信夫防衛大臣と面会し、航空自衛隊のF-2戦闘機を後継する「次期戦闘機」について、海外輸出を念頭に置いて開発を進めることなどを盛り込んだ提言書を手渡しました。

日本の「次期戦闘機」輸出はできるの? 有志議員が提言もネガテ...の画像はこちら >>

2019年の「パリ航空ショー」で発表された、仏独伊の新戦闘機「NGF」のコンセプトモデル(竹内 修撮影)。

 対次期戦闘機の開発費は2兆円を超えると見積もられていますが、その一方で調達数は最大でも90機程度でしかなく、「外国との協力を視野に入れながら、わが国主導で開発する」という方針が定まった後も、費用対効果の面で開発を疑問視する声が存在しています。

 日本の産業基盤と将来戦闘機を考える研究会の今回の提言は、輸出を行なって生産機数を増やすことで巨額の開発費を回収し、また日本の防衛産業を保護育成したいという狙いがあるものと見られていますが、この提言の実現は困難だと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

 2014(平成26)年4月1日に「防衛装備移転三原則」が政府方針として制定されたことにより、日本は条件付きで防衛装備品の輸出や共同開発が可能となりましたが、防衛装備移転三原則で輸出が認められているのは「救難」、「輸送」、「警戒」、「監視」と、機雷を除去する「掃海」に使用する防衛装備品だけで、戦闘機の輸出は認められていません。

 共同開発であれば戦闘機のような防衛装備品の移転も可能になると考えられるものの、次期戦闘機はあくまでも「わが国主導」で開発するため、これを輸出するためには、防衛装備移転三原則のさらなる見直しが必要となります。

 防衛装備移転三原則に対しては、国民の一部に根強い反対論が存在しており、さらなる見直しは難しいと筆者は思います。仮に見直しが行なわれて次期戦闘機が輸出できるようになったとしても、国際市場での競争に勝ち抜かなければ、買い手は現れません。

次期戦闘機の輸出が難しそうな材料…ライバル強すぎじゃない?

 次期戦闘機は、F-2戦闘機の退役が開始される2035年度までに開発を完了させる計画となっています。2035年度から数年間は、航空自衛隊向けの機体の生産が優先されるはずで、輸出が可能になるのは2040年以降になるでしょう。

 そしてその頃には、イギリスが開発計画を進めている「テンペスト」や、フランス、ドイツ、スペインが共同開発する将来航空戦闘システム「FCAS」の有人戦闘機「NGF(New Generation Fighter)」といった、おそらく次期戦闘機よりも先進的な手法で開発される戦闘機も、国際市場に提案されているはずです。

 さらに、ロッキード・マーチンは2019年6月に開催された「パリ航空ショー」で、F-35の将来の能力向上計画を発表しています。この計画のなかには、「テンペスト」やNGFが従来の戦闘機との差別化を図るために打ち出したUAV(無人航空機)との協働や、ネットワークによる艦艇や陸上部隊との情報共有といった能力に加えて、ミサイル防衛への活用なども盛り込まれています。

日本の「次期戦闘機」輸出はできるの? 有志議員が提言もネガティブ材料ありすぎ問題

2019年6月に発表されたF-35の、将来の能力向上計画のインフォグラフィック(画像:ロッキード・マーチン)。

 ジェネラル・ダイナミクス(現ロッキード・マーチン)が開発したF-16戦闘機は、1978(昭和53)年の生産開始から42年を経た現在も生産が継続されています。F-16の需要がいまなお尽きないのは、初期型とは比べ物にならないほど能力が向上しているためですが、前に述べた能力向上が実現した場合、F-35は2040年代に入っても生産が継続している可能性があります。

 このほかにも2040年代の国際市場では、ロシアのSu-57Eや韓国のKF-Xといった強力なライバルがしのぎを削っているはずで、この中で次期戦闘機が競争に勝ち抜いて外国の採用を勝ち取るのは、容易なことではありません。

日本が次期戦闘機を自国主導で開発するために必要なことは?

 F-2を後継する戦闘機のあり方を決めるにあたっては、既存の戦闘機の改良型やF-35の追加調達なども検討されました。最終的にこれらでは将来の航空自衛隊の要求を満たせず、また能力向上改修などの自由度を確保することが困難であるとの判断から、わが国主導の開発という手法が採用されています。

 日本の産業基盤と将来戦闘機を考える研究会が主張するように、最初から海外輸出を念頭に置いて開発を進めることになった場合は、当然、潜在的な需要の調査も並行して行なわなければなりません。しかし、たとえば次期戦闘機は大きすぎて需要が見込めないという調査結果が出て、それに引きずられて次期戦闘機のサイズを変更するといった事態になれば、これは本末転倒だと言わざるを得ません。

日本の「次期戦闘機」輸出はできるの? 有志議員が提言もネガティブ材料ありすぎ問題

2018年の「ファンボロー国際航空ショー」で発表された「テンペスト」のコンセプトモデル(竹内 修撮影)。

 イギリスは2018年7月に「Combat Air Strategy(戦闘航空戦略)」という国家戦略を発表しました。

そのなかで、独立国家としての行動の自由を将来に渡って確保していくため、イギリスが主導して新戦闘機(新戦闘航空システム)を開発する必要があることを明言し、そして「テンペスト」を、この戦略を実現するための手段のひとつと位置づけています。

 翻って防衛省は、次期戦闘機をわが国主導で開発を行う理由として、航空優勢の確保や運用環境の変化にともなう仕様変更の自由度の確保を挙げる程度にとどまっています。

 今後、政府や防衛省が、次期戦闘機開発への巨額投資に対する国民からの批判を避けたいのであれば、まず政府がイギリスのように国家戦略を策定し、それを実現するために次期戦闘機が必要であるということを明確に打ち出して国民の理解を求めた上で、開発費を抑えるため、諸外国との協力のさらなる強化や輸出を考えるべきだと筆者は思います。

※誤字を修正しました(12月5日13時50分)。

編集部おすすめ