ボーイング747による大量輸送時代幕開けのウラで、その「兄弟」と銘打たれ、JALに導入されたのが、3発ジェットの「DC-10」です。かつての老舗メーカーであるダグラスらしさにあふれたこのモデル、どういった機体だったのでしょうか。

2発機よりも安全で4発機よりも低コストな「3発機」

 旅客機による大量輸送時代の主役となった「ジャンボジェット」ことボーイング747。同機が導入され、航空機を用いた旅行に革命を起こした数年後の1976(昭和51)年、JAL(日本航空)において「ジャンボの兄弟がやってきた」という鮮烈なキャッチコピーで導入されたのが、3発ジェットエンジンが特徴的な旅客機、ダグラス・エアクラフト社(以下、ダグラス)のDC-10です。

 JALだけでなく、当時のJAS(日本エアシステム。現JAL)、も国際線展開をにらみ、このシリーズを導入しています。

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JALのDC-10(画像:FotoNoir[CC BY-SA〈https://bit.ly/3cgSVb0〉])。

 2021年現在の超大手航空機メーカーといえば、ボーイングとエアバスですが、DC-10を手掛けたダグラスは、かつてボーイングやロッキードと並んで、旅客機から軍用機まで開発していた老舗の航空機メーカーでした。なお、ダグラスはその後、紆余曲折を経てボーイングに吸収合併されています。

 ダグラスといえば、戦後発足した日本の航空会社にとって、切っても切り離せない関係といえるでしょう。JALは、1951(昭和26)年、定期便就航前の招待飛行をDC-3で実施したことをきっかけに、創設以来ダグラス機を重用。同社が初めて導入したジェット旅客機も、DC-8でした。ANA(全日空)でも「発足当時の主力機」としてDC-3を導入しています。

 DC-10は、アメリカ本土を西海岸から東海岸へフライトできる旅客機という、航空会社側からのコンセプトへの提案として開発されたモデルです。

ライバル機はロッキードのL-1011「トライスター」で、こちらも似たようなスペックを持つモデルとなりました。

 また、アメリカの国内線を前提としているものの、洋上を長距離飛行する場合に備え、3発機のスタイルが取られています。これは、当時の双発機が洋上飛行するには、「60分以内に代替の空港に着陸できる範囲で」という大きな一律制限があり、それをクリアするモデルとするためです。

DC-10の大きな特徴は? JALではちょっと変わった仕様に

 ただし、ライバル機であるL-1011「トライスター」が新開発エンジンを搭載したのに対し、DC-10はボーイング747と同じエンジンを3基搭載することになりました。そして最大の特徴である3発目のエンジンには、独自技術を導入し、胴体と尾翼のあいだを貫くような形で、そのまま挟み込む手法が取られています。これは、当時のジェット旅客機市場では革新的な取り組みで、設計自体もシンプルになるほか、エンジンへ取り込まれる空気の流れが安定することで、安定性も高まるというメリットがありました。

 一方で、操縦室周りは、旅客機メーカーの老舗らしいクラシックなスタイルのものが採用され、ほかの欧米産旅客機とのレイアウトなどの共通性を持たせることで、パイロットにとっても馴染み深いスタイルとしています。

 DC-10は多くのサブタイプが存在し、初期モデルのDC-10-10、ここから航続距離を伸ばしたDC-10-30、そしてボーイング747でも採用されていたプラットアンドホイットニー社製の「JT9D」エンジンを採用したDC-10-40が続きます。先述のとおりJALでは、この-40型を導入します。

 こういったサブタイプを多く作り航空会社の要求に応える作戦は、ライバルのロッキードL-1011より売り上げを伸ばした一因といえるでしょう。DC-10シリーズは世界中の航空会社で導入されましたが、DC-10-40を導入したのは、JALとノースウエスト航空(現デルタ航空)だけでした。

 ちなみにJALでは、同じDC-10-40を使用しながらも、国内線仕様と国際線仕様があり、外観からも見分けがつくようになっていました。

国際線仕様機には、胴体の中央下部に4本目の脚を装備することで、離陸重量が大きな国際線に対応していたのです。

 そしてこのシリーズは、その後「ハイテクになってリニューアル」します。

ハイテク版「DC-10」デビューも…その顛末

 1980年代に入ると、旅客機のコクピットに革命が起こります。それまでの旅客機は、パイロット2人のほか、航空機関士も搭乗し、3人体制でフライトするのが一般的でしたが、テクノロジーの進化で、パイロットのみでエンジンの制御も可能になり、航空機関士を必要としない、2人乗務が可能なモデルが登場します。

 この2人体制での乗務が可能なジェット旅客機に対応すべく、同じマクドネル・ダグラス社が開発した軍用機輸送「C-17」の技術を盛り込み、操縦システムをグラスコクピット化しのが、MD-11です。ほかにも、キャパシティ向上のために胴体延長が図られ、主翼の翼端渦を軽減して燃費効率を上げるための、現代の旅客機でもトレンドになりつつある、主翼両先端に立ち上がった「ウイングレット」を導入しています。

「ジャンボの兄弟」と呼ばれた3発機「DC-10」はどんな機体? 隠れた工夫や新技術 その航跡

JALのMD-11(画像:JAL)。

 JALでは、MD-11を「J-BIRD」と名付けて10機購入し路線に投入。DC-10との外観上の最大の特徴であるウイングレットに、日本の稀鳥のイラストを施します。

 ただ、MD-11が導入された時期には、双発機の飛行制限も緩和されたことで、洋上路線でも双発機が優勢に。モデル自体の売れ行きも好調とはいえず、同社がボーイングと合併する一因を作ってしまった、悲運の旅客機となってしまいました。

 ただ、これらの3発機は貨物航空会社では2021年現在も重用されており、アメリカのFedExのMD-11が日本に飛来してくることも、いまだに珍しくありません。

ちなみに同社の要求から、DC-10にMD-11のシステムをレトロフィットするという、MD-10という機体もあります。

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