電車に乗って、運転席の後ろで前面展望を楽しんでいると、しばしば「プー」と聞こえてきて、運転士がボタンを押す行為が行われます。もしこれに反応しないと、緊急停止です。
電車に乗って、運転席の後ろで前面展望を楽しむ行為。鉄道ファン用語で「かぶりつき」といいますが、鉄道ファンのみならず、子どもと一緒に楽しんだ人もいるでしょう。
そのとき、「プー」という音が聞こえてきて、運転士がボタンを押すと音が消える、という行為がしばしばくり返されるのを、不思議に思った人もいるかもしれません。
列車の安全運行を支える「EB装置(緊急列車停止装置)」です。
東急「ザ ロイヤル エクスプレス」の運転席(恵 知仁撮影)。
「プー」は一定時間(60秒)、運転士が機器の操作を行わないと鳴るもの。この「プー」が鳴ったとき、5秒以内にボタン(リセットスイッチ)を押す、機器を操作するという対応を運転士がしないと、列車には自動的に非常ブレーキが作動します。
運転士が意識を失った場合などを想定し、備えられているものです。リセットスイッチは、バー状の場合もあります。
列車は加速したのち、クルマでいうアクセルをオフにして惰性で走るのが基本であるため、60秒以上操作されないことは珍しくありません(特に駅間が長い場合などは)。
ただ、かぶりついていても、「プー」なんて聞いたことがない、という場合もあります。
「デッドマン装置」では、運転に使うハンドルを運転士がしっかり握っていればOK、ハンドルから手が離れると異常と判断され非常ブレーキが作動する、といったしくみになっています。
このほかにもデッドマン装置の形はありますが、運転士が正しい運転姿勢でなくなると異常と判断されるシステムで、「プー」と鳴るEB装置と同様に、運転士が意識を失った場合などを想定したものです。

デッドマン装置を備える東京メトロ17000系のハンドル。T字状の横棒下部分にレバーがあり、そこを握っていないと異常になる(恵 知仁撮影)。
現在、車両を新しく製造する場合、原則としてEB装置かデッドマン装置を備えることが求められます(ATOやATCといった保安システムで安全性が保たれる場合は無しでも可)。
JRでは「プー」と鳴るEB装置を採用する場合が多いのですが、私鉄ではデッドマン装置を採用することが多く、その場合は、かぶりついていても「プー」は聞けません。
ちなみに、列車の安全運行を支えるこれらの装置、故障がないとは限りません。
2021年3月31日(水)、JR西日本の新快速電車でEB装置の動作不良がありましたが、同乗していた別の運転士を万が一の保安要員とすることで、運転を再開しています。