鉄道車両の中には、中間車に運転台やライトなどを取り付けて、先頭車として生まれ変わったものがあります。一部の車両はのっぺりした見た目から「食パン電車」の愛称もありますが、なぜこのような車両が生まれたのでしょうか。
鉄道車両の中には、もともと編成の中間部に使われていた車両(中間車)の先端に運転台やライト、行先表示などを取り付けて、先頭車として生まれ変わったものがあります。
北陸鉄道7200形は元東急7000系だが、中間車を先頭車に改造したもの(乗りものニュース編集部撮影)。
この「先頭車化改造」を施された車両、当然ながら本来その車両型式が持つ「顔つき」の面影はほとんどありません。その独特な風貌から「食パン電車」などの愛称が付くこともあります。
「先頭車改造」された電車の中で最大派閥となるのが、東急から地方私鉄へ譲渡された車両です。東急7000系電車を改造した北陸鉄道7000系、弘南鉄道7000系、水間鉄道7000系、東急1000系電車を改造した上田電鉄6000系、福島交通1000系、伊賀鉄道200系、一畑電車1000系、東急8500系電車を改造した秩父鉄道7000系、および東急8090系を改造した7800系のそれぞれ一部電車がこれに当てはまります。
東急1000系は車体長が18mと比較的「小柄」なことに加え、ステンレス製でメンテナンスが容易といった理由から、新車への置き換えで発生した大量の引退車両が地方へ譲渡されました。
さて、東急時代は最大8両編成だった1000系ですが、地方私鉄では基本的に2両編成となり、中間車が大量に余ることになります。例えば「先頭車+中間車6両+先頭車」だった1編成計8両を、「先頭車+先頭車」×4編成として活用する必要があり、そこで中間車の「先頭車化改造」が行われました。
改造後の姿は鉄道事業者によってバラエティ豊かですが、いずれもスパッと切り落とされた断面のような平面的な先頭形状が特徴です。もっとも上田電鉄と一畑電車の車両は、外縁の突起が残っていることで、「のっぺらぼう」の印象がやや薄いかもしれません。
首都圏や東北、西日本で活躍する「元・中間車」首都圏・関西で一世を風靡した通勤電車の205系電車ですが、2002(平成14)年から山手線にE231系500番台の投入が始まったことで、他線区へ転属。

鶴見線の大川駅を出発する205系電車。鶴見線の205系の先頭車はすべて中間車を先頭車化改造したもの(乗りものニュース編集部撮影)。
鶴見線や南武線支線、仙石線で運用される205系は、かつて山手線で走っていた時とは似ても似つかない、むしろ京浜東北線でお馴染みだった209系電車に似た面持ちです。
また、高崎線や中央本線をはじめ全国各地で活躍した115系電車も、短編成化にくわえ、新型の211系電車に置き換えられて余剰が大量発生したことから、やはり先頭車化改造されて、地方線区へ「再利用」されていきます。このうち、現在も岡山~山口地区では、黄色の塗装になった「食パン電車」を日常的に目にすることができます。
元祖「食パン電車」は寝台特急を通勤電車に「食パン電車」という愛称が用いられる際、JRの419・715系電車を指すことが多いかもしれません。これらは国鉄時代に、特急形車両の581系電車や583系電車を改造して生まれた車両です。
581・583系は寝台特急用に開発されたもので、車内空間を確保するため、天井が高く、側面形状はほぼ垂直で、戸袋を無くすため扉が折戸になっているなどの特徴があります。
新幹線や高速バスの普及の影響で寝台特急が減少し、これらの車両に余剰が出る一方で、近郊形電車は本数増加のための増備が急務となっていました。両者の事情から生まれたのが419・715系という「元寝台特急の普通列車」で、不足する先頭車は中間車の一部を先頭車化改造して補いました。
一方の先頭車は重厚な特急型、もう一方の先頭車は文字通り白い「食パン」のようなのっぺりした形状のアンバランスな姿で、北陸本線や東北本線、佐世保線などで第二の人生を送っていましたが、2011(平成23)年にすべて引退しています。
※一部修正しました(4月25日14時59分)。