世界中の軍隊で運用されているアメリカ製の多用途ヘリコプターUH-60「ブラックホーク」。バリエーション豊富なこの機体には、世界中に展開しているアメリカ軍が求めた機能が盛り沢山。
世界初の実用ヘリコプターが登場したのは第2次世界大戦が始まる直前といわれています。その後、大戦で少数ながら実戦投入されたヘリコプターが本格的に使われるようになったのは、1950年代以降のことでした。こうして着実に「兵器」としての完成度を高めていったヘリコプターを、アメリカは1960年代から1970年代にかけて勃発したベトナム戦争において大々的に使用し、「ヘリボーン」という名の空中機動戦術も確立します。
そのベトナム戦争において、アメリカ軍ヘリコプターの中心的存在を担ったのが、HU-1(後にUH-1へ改称)シリーズでした。HU-1の「U」はユーティリティの頭文字で、その名のとおり、アメリカ軍で最初に汎用ヘリコプターとして制式に認定された機体です。
HU-1は中型ヘリで、人員および物資輸送から機関銃やロケット弾などを装備しての攻撃まで多用途に使えたことから、様々な戦闘に投入されましたが、実績を重ねるにつれ欠点も見えるようになりました。
そのためベトナム戦争末期になると、アメリカ陸軍はHU-1に代わる新型の多用途ヘリコプターを求めるようになり、その結果、1976年に採用されたのがUH-60A「ブラックホーク」だったのです。
海上自衛隊のひゅうが型護衛艦に着艦する陸上自衛隊のUH-60JAヘリコプター(画像:陸上自衛隊)。
UH-60Aは野外における整備性、対空火器による攻撃にもある程度耐えられる高い生残性、当時のアメリカ陸軍の標準的な歩兵1個分隊11名を1機で輸送できることなどが盛り込まれており、それまでのHU-1D(UH-1D)と比べて大幅に性能が向上していました。
加えてUH-60Aは、アメリカ軍の世界戦略に合致するような性能も付与されていました。それがC-130「ハーキュリーズ」戦術輸送機に搭載できるよう、最も大きなメインローターが折りたためるようになっていた点です。
ヘリコプターはどのような地域でも離着陸が可能というメリット(長所)の半面、一般的な飛行機(固定翼機)と比べて航続距離が短く、巡航速度も遅いという欠点があります。アメリカ軍はそのような欠点を克服して世界中に迅速に展開する方法として、ヘリコプターを大型輸送機で空輸しようとしたのです。
その結果、前出のとおりUH-60Aの要求の一つに、「C-130『ハーキュリーズ』へ積載可能」というのを盛り込んでいました。だからこそUH-60シリーズは機体の高さが抑えられた形状をしているといえるでしょう。この低い全高とローターの折りたたみ構造により、UH-60シリーズはC-130輸送機なら1機、より大型のC-17「グローブマスターIII」輸送機なら2機、アメリカ最大のC-5「ギャラクシー」輸送機であれば6機、積めます。

メインローターおよびスタビレーター(水平尾翼)を折りたたんだ状態のアメリカ陸軍のUH-60Mヘリコプター(画像:アメリカ陸軍)。
ただしC-130輸送機に積載するには、メインローターのマストが干渉するためマスト部分を外さないと積載できないそうで、自衛隊関係者によると、そのローターマストを外すには手間と時間がかかることから、整備以外ではあまりやりたくないというハナシもあるそうです。
狭い&揺れる洋上で運用するため、折りたたみ機構を自動化こうして陸軍がUH-60A「ブラックホーク」を開発・採用した一方で、アメリカ海軍も1970年代後半から新たな艦載ヘリコプターの開発プロジェクトをスタートさせます。その結果、最終的にUH-60Aをベースにした設計案が採用され、それに基づき開発されたのがSH-60B「シーホーク」でした。

C-17「グローブマスターIII」輸送機に積み込まれるアメリカ空軍のHH-60救難ヘリコプター(画像:アメリカ空軍)。
SH-60Bは艦載ヘリとして各種軍艦の狭い艦内(格納庫)で素早く格納できる性能が求められたことから、UH-60Aよりもコンパクトになるよう構造が改められ、加えて折りたたみも手動ではなく自動で行えるように改良が施されました。
SH-60Bの自動展張・格納機構は、手動と比べて早いというだけでなく、うねりのひどい荒天時でも機体上部に整備員が上がることなくたためるため安全というメリットも。
このスタビレーターを折りたたむ機能はSH-60B「シーホーク」から導入された機能ですが、陸軍仕様のUH-60シリーズにもフィードバックされ、改良型のUH-60Mからできるようになっています。
日本の独自改良仕様もとうぜん折りたためます!なお、UH-60「ブラックホーク」やSH-60B「シーホーク」は、それぞれ日本独自の改良が施されて陸海空の3自衛隊すべてで導入・運用されています。前者はUH-60JおよびUH-60JAとして、後者はSH-60JおよびSH-60Kという型式が付けられています。
SH-60JおよびSH-60Kは原型のSH-60Bと同様、狭い護衛艦の格納庫に収容するため、自動のメインローター展張・格納機能ならびにテールブーム部分の折りたたみ機構が付与されています。

護衛艦「ひゅうが」の艦内に収容されたSH-60JおよびSH-60K哨戒ヘリコプター(画像:海上自衛隊)。
一方、UH-60JおよびUH-60JAは、アメリカ軍と異なり世界中に迅速展開する必要がないため、たためる構造になっていることがあまり知られていません。しかし、2005(平成17)年1月から3月にかけて行われた「スマトラ沖大規模地震及びインド洋津波における国際緊急援助活動」にて、陸上自衛隊のUH-60JAは海上自衛隊の輸送艦「くにさき」に積載されて現地へ派遣され、救援物資などの輸送に従事しています。
このとき、輸送艦「くにさき」ではヘリコプターの整備ができなかったため、ともに派遣された護衛艦「くらま」のヘリ格納庫で整備などが行われたといいます。
また現在も、おおすみ型輸送艦やひゅうが型護衛艦、いずも型護衛艦などへのUH-60JならびにUH-60JAの搭載訓練で、メインローターの折りたたみが実施されているほか、一説には在日米軍との共同演習の際などでUH-60JAのアメリカ軍輸送機への積載訓練が行われているそう。自衛隊のUH-60JおよびUH-60JAも、標準でメインローターの折りたたみ機能を有しているようです。
日本国内ではUH-60JやUH-60JAは陸上基地での運用がメインのため、艦載ヘリのSH-60Jなどと異なりメインローターが畳まれた状態を目にすることはほぼありませんが、見かけないだけで自衛隊のUH-60シリーズも着実に進歩しているといえるようです。