千葉県房総半島の中ほどに、引退した鉄道車両を集めた「ポッポの丘」という施設があります。運営元は畜産業を営んでいたそうですが、どのような経緯で28両もの車両が並ぶ施設に変わったのでしょうか。

2021年5月で10周年

 千葉県いすみ市の鉄道車両保存施設「ポッポの丘」が、2021年5月1日で10周年を迎えることもあり、訪れてみました。

房総半島の丘に国鉄・私鉄車両ズラリ 畜産業が「鉄道28両の施...の画像はこちら >>

「ポッポの丘」で保存されている鉄道車両(安藤昌季撮影)。

 ポッポの丘の保存車両は合計28両(カットモデル含む)。これは例えばJR九州が関わる「九州鉄道記念館」(北九州市門司区)の13両(カットモデル含む)を上回る保存車両数ですが、その多くは村石愛二代表が個人で収集したものというから、オドロキです。

 最寄り駅は房総半島を走る第三セクター・いすみ鉄道の上総中川駅ですが、この房総半島の中ほどに、個人の鉄道車両保存施設がどのようにして生まれたのでしょうか。

 きっかけは、村石代表が、いすみ鉄道の鳥塚 亮社長(当時。現・えちごトキめき鉄道社長)から、引退車両(いすみ204)を200万円で購入したことです。

 元々が畜産業で、鉄道に詳しいわけではない村石代表でしたが、BSE(牛海綿状脳症)問題に伴う餌の高騰や、東日本大震災の影響もあって、畜産業に見切りをつけます。そして「マザー牧場のような観光地を、いすみに作る」と志して、1000頭いた肉牛を売却することで、鉄道車両を増やしてきたのです。

畜産業からポッポの丘に大変身…何があった?

 村石代表は、その後のポッポの丘の発展について次のように話します。

「鉄道車両を保有する保存会の方々より『ポッポの丘に車両を置かせてくれませんか』との連絡を受けました。売る肉牛もなくなって、自力では車両を増やせなくなったのですが、新しい保存車両が増えているのは保存会のおかげです。

現在では6つの保存会が合計11両の車両をポッポの丘に置いています。一時期は無一文になりかけましたが、現在では募金と保存会の方々から寄せられる維持費によって、なんとか維持しています」

房総半島の丘に国鉄・私鉄車両ズラリ 畜産業が「鉄道28両の施設」に変わるまで

「ポッポの丘」で保存されているいすみ鉄道いすみ204(安藤昌季撮影)。

 個人が始めた保存施設だけに特定の鉄道会社に偏ることがなく、車両を幅広くそろえているのが特徴です。当初はいすみ鉄道いすみ204、北陸鉄道モハ3752、万葉線デ7052(路面電車)の3両だけでしたが、現在では元国鉄の車両が非常に充実しています。

 国鉄特急形が24系寝台客車(オハネフ24形、オロネ24形、オハネフ25形)、183系電車(クハ183形0番台、1000番台)、近郊形が113系電車(クハ111形1000番台、2000番台)、通勤型が103系電車(クハ103形500番台)、キハ38形(キハ38形0番台)と、バリエーションが豊かです。

 また、特筆すべきは上記の旅客用車両以外にも、荷物電車(クモニ83形)、緩急車(ヨ5000形、ヨ8000形)、入替動車(10t、20t)が保存されていることです。

 私鉄についても、銚子電気鉄道デハ701、デハ702、長野電鉄モハ1003、京浜急行電鉄デハ1052、営団地下鉄454号、万葉線デ7052が保存されています。

 通常の鉄道車両以外も保存されています。千葉都市モノレール1000形や大山ケーブルカー「たんざわ号」がそれです。たんざわ号は斜面に置かれており、現役時代を彷彿とさせます。

どのようにして保存費用を確保しているのか

 ポッポの丘は「車両を商用施設とすることで、保存費用を捻出している」ことも特徴です。例えば、元いすみ鉄道のいすみ204、北陸鉄道モハ3752は「カフェTKG」として、たまごかけごはん(TKG)や牛丼などを供するレストランとして使われています。

ここの米は地元のいすみ米で、こだわりの飼育で育てられた鶏の卵を使った料理との相性は抜群です。

房総半島の丘に国鉄・私鉄車両ズラリ 畜産業が「鉄道28両の施設」に変わるまで

「カフェTKG」のたまごかけごはん(安藤昌季撮影)。

 他にも元万葉線のデ7052はガチャポンショップ、元千葉都市モノレール1000形1003号はプラレールなどを扱うショップ、元国鉄のキハ38形1号車やヨ5000形緩急車はギャラリーとして使われているなど、保存車両をただ見るだけではなく、買い物も楽しめます。

 動態保存車両があることも特筆すべきことです。元国鉄の10t入替動車と20t入替動車が動態保存状態で維持されており、天気の良い土日には、入替動車に牽引された緩急車に乗車できます(運行時間は決まっておらず、入替動車のクラクションで運行を合図します)。緩急車とは、かつて貨物列車の最後尾に連結され、車掌が乗務していた車両ですが、動く現役はここだけでしょう。

 土日の楽しみはもう一つあります。村石代表かスタッフがいる場合のみですが、24系寝台客車オハネフ24形、オロネ24形の車内公開が行われることです。この2両については、車内照明と車内放送設備が使用できる状態で保たれています。オハネフ24形の車掌室から車内に向けて車掌としての放送体験を行うことも可能です(本物の寝台列車で流されたものと同じ放送原稿や、記念撮影用の車掌帽も用意されています)。

 この寝台客車2両を牽引しているDE10形ディーゼル機関車についても、寝台客車と合わせて運転台を公開することもありますので、非常に“鉄分の濃い”時間を過ごせます。

「入場無料」なぜ可能?

 驚くべきは、これらの体験が全て無料であることです。

ポッポの丘はそもそも入場無料なので、非常にリーズナブルな施設でもあります(クルマで来園した場合は駐車料金として1台1000円、バイクは1台500円)。

 村石代表に聞いたところ「以前は気軽に来園いただこうと、駐車料金もゼロでしたが、施設の継続維持のために料金をいただくことにしました。保存車両維持のために、園内でのグッズ購入や寄付をしていただけると助かります」とのことでした。

房総半島の丘に国鉄・私鉄車両ズラリ 畜産業が「鉄道28両の施設」に変わるまで

営団丸ノ内線の400形454号車(安藤昌季撮影)。

 また、地下鉄丸ノ内線で使われた400形454号車では、警笛の吹鳴体験が可能です。こちらは3回100円となっています。

 園内には子ども向けの遊具や手こぎトロッコも設置されており、家族で来園しても楽しめる施設です。

 定休日は毎週火・水・木曜(祝日の場合は営業)、営業時間は10時から16時まで。アクセスは鉄道だといすみ鉄道の上総中川駅から徒歩30分、もしくは大多喜駅からタクシーで10分(およそ1720円)です。また、大多喜駅や国吉駅からレンタサイクルで向かう方法(所要20分ほど)も紹介されています。

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