周囲に鉄道が通っていないにもかかわらず、バス停留所の名称が「〇〇駅」となっていることがあります。中には、きっぷの販売窓口や食堂などが併設され、さながら鉄道駅のようなところも。

実は昔から「自動車駅」というものが存在します。

豊田本郷駅に鉄道はない

 バス停留所の名称は、その地名や近隣施設などにちなんで付けられることがほとんどです。例えば「〇〇駅」となっていれば、鉄道の駅近くにあることが一般的ですが、中には昔から周囲に鉄道駅などないのに「○〇駅」を名乗るバス停があります。

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神奈川中央交通が「湘南ひらつか七夕まつり」開催時に運行した「豊田本郷駅」行きの臨時バス。2017年撮影。しかし、そのような名前の鉄道駅はない(写真提供:神奈川中央交通)。

 たとえば神奈川県平塚市には、神奈川中央交通の路線に「豊田本郷駅」というバス停があります。いざ同地へ赴くと、近くを東海道新幹線が通ってはいるものの、鉄道駅はありません。ではなぜ、このバス停は「駅」を名乗るのでしょうか。

 これは、かつて神奈中バスと国鉄(現・JR)が連絡運輸を行っていた名残です。連絡運輸とは簡単にいうと、旅客などが2社以上の事業者をまたがって移動する場合、乗車券類が1枚で済むよう事業者間で結ばれた契約に基づく輸送のこと。そして、この乗車券を販売する窓口のある箇所を「駅」と称しました。

「自動車駅」とも呼ばれます。窓口はバス停に設けられることもあり、豊田本郷駅はその一例だったのです。

 2021年現在、神奈中バスとJRの連絡運輸は解消されており窓口もありませんが、バス停名はそのまま。神奈中バスによると、その理由は特にないということです。

 ちなみに同社にはほかにも2つ、鉄道駅以外で駅を名乗るバス停があります。豊田本郷駅と同じ平塚市内の金目駅、伊勢原市内の大山駅です。いずれもかつては、国鉄との連絡乗車券を販売していました。

バス専用道に立つバス停留所は駅のように見える

 神奈中のような民間事業者と旧国鉄だけでなく、国鉄の鉄道とバスで、かつて連絡乗車券を販売していた例ももちろんあります。

 ジェイアールバス関東が運行する路線だと、例えば志賀草津高原線の草津温泉駅(群馬県草津町)が該当します。ここには今でもJRのきっぷを販売する窓口があるほか、構内には食堂や売店なども併設され、さながら鉄道の駅のようです。ほかにも草軽交通や上田バスなどが乗り入れ、バスは列車のように各番線(ホーム)から発着していきます。

鉄道なくても「〇〇駅」なぜ? 自動車駅とは何か 実態はバス停でも「駅」である理由

江戸崎駅。
JR土浦駅とを結ぶジェイアールバスが発車待ちしている(2020年2月、大藤碩哉撮影)。

 茨城県稲敷市には江戸崎駅があります。ジェイアールバス関東がJR常磐線の土浦駅(同・土浦市)とを結ぶほか、関東鉄道(バス)なども乗り入れます。かつて窓口業務を行っていた駅舎はがらんどうで、現在はベンチが設置され待合室として機能しているのみです。

 紹介してきた自動車駅とは異なるものの、かつては鉄道駅で、廃線後に路線がバス専用道に転換されたケースでは、バス停留所となっても「駅」と呼ばれるところもあります。

 例えば、茨城県の石岡~鉾田間を結んでいた鹿島鉄道の廃線跡に設けられた専用道を走る「かしてつバス」などです。また、東日本大震災で被災しバス路線となったJR気仙沼線・大船渡線BRT(バス高速輸送システム)では、各停留所は現在も「駅」として扱われています。

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