背が低めで、走りも重視したスタイルのミニバンとしてブームを牽引したホンダ「オデッセイ」の日本生産が終了します。箱型のミニバンに押され、自ら築いた一時代の幕を閉じる形ですが、これは箱型ミニバンの「逆転勝利」でもあります。
ついに、ホンダ「オデッセイ」の生産が2021年いっぱいで終了になるようです。これは、ひとつの時代が終わることを意味するのではないでしょうか。それは「背の低い&5ドア」というミニバンのスタイルの終了です。
オデッセイは、3列シートで多人数を乗車させることのできるミニバンです。2013(平成25)年に登場した現行型こそ、左右のスライドドアを持ち、いくぶん背の高いミニバンになっていますが、それ以前は「背が低く」「5ドア」というスタイルが売りでした。というか、「背の低い5ドアのミニバン」を流行らせたのが、1994(平成6)年に登場した初代オデッセイだったのです。
初代オデッセイ(画像:ホンダ)。
初代オデッセイが登場する前、1980年代までは、ミニバンは今ほど売れるクルマではありませんでした。また、販売されるミニバンのほとんどが、商用バンをベースに乗用車化したもので、箱型の車体から通称「ワンボックスカー」と呼ばれていました。
しかし、1990年代になると、少しずつ乗用車としてのミニバンが登場します。1990(平成2)年に「天才タマゴ」のキャッチフレーズと共に登場したトヨタの「エスティマ」や、1991(平成3)年登場の日産「セレナ」などです。ただし、スタイルは商用バンと同じく、背の高い箱型で、ボディの横にスライドドアがありました。
そうした乗用車としてのミニバンのブームを追いかけるように登場したのが、ホンダの初代オデッセイだったのです。とはいえそのスタイルは、他のミニバンとは違っていました。背が低く、左右のドアは普通のセダンと同じ。そんな背の低い5ドアの初代オデッセイは大ヒットします。1995(平成7)年の年間新車販売ランキングで4位につけたのは、ミニバンとしては驚異的でした。
オデッセイのヒットで生まれた数多くのフォロワーそんなオデッセイのヒットに驚いたのはライバルでしょう。すぐにトヨタから、同じ5ドアのミニバン「イプサム」が登場します。さらに日産も同じく「プレサージュ」「バサラ」、マツダは「プレマシー」を追加します。どれも箱型ではなく、乗用車をベースにした背の低い5ドアのミニバンでした。
さらに2000(平成12)年にはホンダからも、オデッセイよりも小さな「ストリーム」が登場。トヨタも2003(平成15)年に、そのライバルとなる「ウィッシュ」を追加。ストリームとウィッシュは、オデッセイを超える大ヒット車となります。
こうした背の低い5ドアミニバンの新顔の登場は、トヨタ「マークXジオ」やスバル「エクシーガ」のように2000年代後半に入っても続きます。これら「背の低い5ドアの3列シートミニバン」という一大ジャンルの源流にあったのが、1994年の初代オデッセイだったというわけです。

背の低いミニバンたち。左上から時計回りにイプサム(2代)、プレサージュ、ウィッシュ、エクシーガ、マークXジオ、プレマシー(画像:トヨタ、日産、スバル、マツダ)。
2010年代に入ると一気にジャンル全体が衰退
ところが、ブームというのは移ろいやすいもの。2000年代終盤になると風向きは一変し、背の低いミニバン勢は、みるみる販売を減らしてゆき、2010年代にはどんどんと生産終了に追い込まれてしまいます。
元祖背の低いミニバンであったオデッセイも、2013(平成25)年に登場した5代目の現行型では、スライドドア付きの箱型ライクのミニバンに路線を変更。それでも以前のような人気を取り戻すことはできませんでした。
そして、気付けば2020年代に入ると背の低い5ドアのミニバンは、どこのメーカーからも発売されなくなり、残ったミニバンは、すべて箱型で左右にスライドドアを備えたもの、つまり1980年代のように「ワンボックスカー」ばかりとなっていたのです。なんという移り変わりの早さでしょう。
オデッセイは軽自動車も変えた?では、なぜ背の低い5ドアのミニバンは、1990年代から2000年代にかけて、あれほど人気を集め、そして消えてしまったのでしょうか。
その理由のひとつは「ワンボックスカー」という名称にあるネガティブなイメージではないでしょうか。

初代セレナは商用車ベースで「バネットセレナ」として販売された。箱型ミニバンの草分け的存在のひとつ(画像:日産)。
しかし、オデッセイは違いました。そもそも乗用車ベースですから、商用バンとは明らかに異なります。ミニバンだけど商用ではない。そのイメージの良さが大ヒットと数多くのフォロワー誕生の理由だったのではないでしょうか。
しかし、1990年代から2010年代までの20年間にわたる背の低いミニバンと通常の箱型ミニバンの戦いにより、世間のミニバンに対する印象が変化しました。また、同時期に軽自動車では、「ワゴンR」の大ヒットを契機に、軽自動車にも背の高いクルマが大流行します。さらに、2011(平成23)年には箱型でスライドドアの軽自動車となるホンダの「N-BOX」が登場して大ヒットします。
また、初代オデッセイの売りは、背の低さ=重心の低さからくる、走りの良さでした。背が高い=重心位置が高いクルマはグラグラと左右に揺れ、空気抵抗も大きいため、走行性能面では不利です。しかし、ミニバンが乗用車として普及するにつれて、当然、走行性能も磨かれます。さらにハイブリッド技術の普及により、箱型ミニバンの燃費性能も向上します。世代を重ねるほど、背の低いミニバンと箱型ミニバンの間の走行性能の差も縮んでいたのです。
結局、箱型ミニバンに対するネガティブなイメージが消え失せ、走行性能という不利な面も埋まるにつれ、「それなら、やっぱり室内が広い箱型ボディで、間口の広いスライドドアの箱型ミニバンが便利で良い」となり、背の低い5ドアのミニバンのニーズも消えていってしまったのでしょうか。

5代目となる現行オデッセイ。2020年11月にマイナーモデルチェンジしたばかりだった(画像:ホンダ)。
オデッセイに始まり一時代を築いた背の低いミニバンも、オデッセイと共に消えてしったというわけです。しかし、オデッセイの功績を別の側面で見れば、ミニバンから“商用バン”というネガティブなイメージを消すのに、大きく貢献したことは間違いありません。