わずか11席の「完全個室型夜行バス」が、貸切バスに転身しました。もともと夜行を想定しているため、昼への転用には課題もありましたが、ある工夫で解決しています。

元「ドリームスリーパー」の「グレースドリーマー」

 2021年4月、東京都品川区に本社を置くニッコー観光バスが、「グレースドリーマー」なる新車両を導入しました。客席数はわずか11席、その全てが床から天井部まで達するパーティションで囲まれているという豪華バスです。

 11席、完全個室型……バスファンならばピンと来る人もいるかもしれません。この車両はもともと、東京~大阪間を結ぶ豪華夜行バス「ドリームスリーパー東京大阪号」の1台です。

 側面のロゴも、夜行バス時代の「Dream Sleeper gussuri」によく似たデザインで、「Grace Dreamer yuttari」となっています。

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貸切バス「グレースドリーマー」(画像:ニッコー観光バス)。

 2010年代を通じて登場した豪華設備の夜行高速バス、その最高峰に「ドリームスリーパー東京大阪号」は位置付けられます。両備グループホールディングスと関東バスの共同運行による、業界初の完全個室型夜行バスとして2017年1月に登場。東京~大阪間の運賃は新幹線よりも高い2万円です(通常運賃)。ただ2021年4月から、新型コロナの影響により運休が続いています。

「夜行バスの運行見通しがなかなか立たないなか、車両を東京で『昼』に転用してはどうか、ということになりました」。

 ニッコー観光バスはこう話します。

ちなみに同社は両備グループの貸切バス会社であり、今回はグループ間での移籍です。

 完全個室型は、貸切バスとしても空前絶後でしょう。どのようなツアーでの用途を想定しているのでしょうか。

これが貸切バスのニューノーマルなのか

コロナ禍を経て、貸切バスのご利用は小グループ化が進んでいます」。ニッコー観光バスはこう話します。実際、最近は大型バスでも定員は20名程度に絞り、2席を1人で使うようなツアーも増えているとのこと。

もちろんこれはソーシャルディスタンスの観点もありますが、個室であればその点でも安心できるのが強みのひとつだといいます。

「グレースドリーマーでお乗せできるのは、実質的に10名様までになるので、バスの料金としてもお一人様当たりが高くなります。豪華なバスで、高級ホテルに泊まる、ひとり旅のツアー向けということになるでしょう。ただ、あくまで国が定めた貸切バスの運賃の範囲内で運行し、特車料金などは頂きません」(ニッコー観光バス)

 緊急事態宣言の影響もあり、まだ実際の催行には至っていないものの、すでに「個室バス利用・ひとり旅」を前面に打ち出したツアーを募集している大手エージェントもあるといいます。

「個室ですから、従来の貸切バスの和気あいあいとした車内とは全く異なります。しかし最近は、おひとりで静かに移動される方も多いです」(ニッコー観光バス)。

まずは実際に利用してもらい、その反応を確かめたいということでした。

あの豪華夜行バスが“転身” 全11席「完全個室型貸切バス」登場 中身も進化

夜行バス「ドリームスリーパー東京大阪号」両備グループホールディングス車両(中島洋平撮影)。

 なお「グレースドリーマー」、夜行バス時代から進化も遂げています。個室全てにディスプレイが装着され、そこで反対側の車窓と車両前面のカメラ映像が映し出されるそう。

「個室だと通路側の風景が見えない、とのご指摘をエージェントさんからいただき、対策として導入しました。これにより各個室でDVDやテレビも見られるようになっています」(ニッコー観光バス)。

 なお「グレースドリーマー」は、両備側で保有していた「ドリームスリーパー東京大阪号」の予備車を移籍したもので、乗合用としては両備・関東とも1台ずつ保有しています。ちなみに「ドリームスリーパー東京大阪号」は7月20日(火)から運行再開が予定されていましたが、東京都への緊急事態宣言の再発出により取りやめとなりました。