世界各地で催されるさまざまな航空ショーのなかでも世界最大の規模といわれるのが、米本土五大湖にほど近いウィスコンシン州で行われるオシュコシュ航空ショー。なぜ世界最大といわれるのか、特徴とその魅力を見てみます。
世界最大のエアショーとして知られる「オシュコシュ(オシコシ)航空ショー」が、アメリカのウィスコンシン州オシュコシュ(オシコシ)市で2021年7月26日から8月1日まで開催されました。この航空ショーの正式名称は「EAA エアヴェンチャー(AirVenture)」といい、例年ならば7月の最終週に1週間の予定で実施されてきたものの、昨年2020年は新型コロナの影響により中止されたため、2019年以来、2年ぶりの開催となりました。
第2次世界大戦中のP-51「ムスタング」戦闘機によく似た「Titan T51」。P-51の4分の3スケールの縮小モデルで、100馬力エンジン装備で2人乗り。手軽に戦闘機パイロットの気分を味わえる(細谷泰正撮影)。
オシュコシュ航空ショーの主催者はEAA(Experimental Aircraft Association:全米実験機協会)。ここは自作航空機の普及を目的として1953(昭和28)年に設立された民間団体で、いまでは会員数およそ20万人、米国以外にも全世界におよそ1000の支部を擁する巨大組織です。
なぜ東海岸や西海岸などの大都市ではなく、ウィスコンシン州オシュコシュ市で開催されるのかというと、会場であるウィットマン・リージョナル空港にはEAA本部と博物館も併設されているからです。とはいえ、航空ショー開催期間中の7日間における入場者数は通算およそ60万人、参加する航空機は展示機のみで約3000機。来場者が乗り入れる自家用機を含めると合計約1万機が集まる、想像を絶する規模の航空ショーです。
なんといっても、オシュコシュ航空ショー最大の特徴は、自家用機で会場となる空港に降り立ち参加できる点にあるでしょう。着陸後は駐機だけでなく、自家用機の周りでキャンプし、愛機とともに飛行場内に滞在でき、そのための施設も完備されています。
また主催者こそEAAですが、イベントの内容は航空機に関することなら何でもといった趣旨のため、あらゆる種類の航空機が集結します。現役の軍用機はもちろん、飛行可能な状態で維持されている第2次世界大戦機までも集まるほか、さらに古い第1次大戦機も。旅客機に関しても大小問わず参加し、メーカー製の機体だけでなく自作機まで、すべての種類が一堂に会します。
開催期間中は毎日、盛りだくさんの飛行展示とともに地上展示、そして各種セミナーが朝から夕方までひっきりなしに予定されています。
この航空ショーは軍用機マニアにも人気があることから、アメリカ軍が運用する最新の戦闘機や爆撃機も参加することが多く、迫力ある編隊飛行で定評ある空軍の「サンダーバーズ」や海軍の「ブルーエンジェルス」といった軍の公式アクロバット飛行チームが展示飛行を行うことまであります。

日本軍機塗装のT-6「テキサン」練習機。アメリカでは多数のT-6が民間機として飛行している(細谷泰正撮影)。
なお、一般的に戦闘機や爆撃機は民間機のような型式認定がないため、民間人が飛ばすにはハードルが高いように思えますが、自作航空機が普及している欧米の多くの国では実験機に類するものとして耐空証明を取得することができます。そうすることで飛行可能な状態を維持しているのです。
欧米では、過去に使用された軍用機を飛行可能な状態で維持することは、歴史遺産を後世に伝える点で重要な意味合いを持つという意識が強く、多くのボランティア団体が軍用機の復元と維持を目的に活動しています。
なかには第2次世界大戦で使用されたB-29爆撃機を飛行状態に復元し、航空ショーなどで展示飛行を行っている団体もあります。ちなみに、このB-29の運航費用は飛行1時間あたりおよそ1万ドル(約110万円)。
オシュコシュ航空ショーの開催期間中は、自家用機による乗り入れもショーの飛行展示と並行して行われるため、開催中の1週間に限って会場のウィットマン・リージョナル空港は世界で最も多忙な空港になるといわれています。
1機でも多くの航空機を着陸させ、さらに離陸させるために航空管制にも特殊な方法が執られています。たとえば、小型機が着陸する際は1本の滑走路を二分して、1機は滑走路の端に降ろし、もう1機は滑走路の中ほどに着陸させるような運用法も用いられます。

民間機登録されているMiG-21戦闘機。民間機登録された旧ソ連製戦闘機というのは珍しい(細谷泰正撮影)。
またアメリカをはじめ、カナダやヨーロッパの多くの国では基準を満たした自作航空機を自家用機として飛行することが可能です。主催者であるEAAでも自作航空機の普及を目指していることから、オシュコシュ航空ショーでは毎日多くのセミナーが開催されており、自作航空機の製作に必要な知識や技法の全てを習得することができます。
たとえば、自作航空機に求められる安全基準や法的手続き、最新の航法機器やエンジン、プロペラの取り扱い方法、板金、溶接、リベットの打ち方、複合材料を用いた製作方法などにわたります。技法に関するセミナーでは実技の講習も行われており、経験豊富な講師が親切に指導しています。
そのため、会場では航空機メーカーや部品メーカーなど毎年800社前後の企業がブースを出展しているほか、企業以外にも航空機産業の誘致や育成を目指す州政府、AOPA(航空機オーナー及びパイロット協会)やFAA(アメリカ連邦航空局)などもブースを連ねます。これらを見て回ると、アメリカでは国を挙げて自家用機や自作航空機の普及を支えていることを実感できます。
まさにオシュコシュ航空ショーは、航空機に関するヒト、モノ、企業、団体、ありとあらゆるものが結集する一大イベントといった感がありますが、ゆえに会場があるオシュコシュ市内に宿を確保することは至難の業です。
EAAでは常に3年先のショー・スケジュールまで公表しているものの、それだけ人が集まるイベントのため混雑は避けようがありません。そのため、会場内でキャンプすることも許可されており、それに必要な設備も用意されていることから、キャンピングカーに対応した駐車スペースも完備されています。一般来場者の多くは車で来るため、広大な駐車スペースと無料シャトルバスも運行されています。
これだけの一大航空ショー、日本人も行ってみることをお勧めします。日本からオシュコシュを訪れる際にはシカゴ空港経由が便利です。シカゴ空港でレンタカーを借り、オシュコシュ周辺の街に滞在しながら航空ショーを堪能してみてはいかがでしょうか。