変化の激しいコロナ禍において、なかなか復調しない高速バスの需要。路線の減便・統合・廃止といった合理化も進む一方で、新路線も意外と多く誕生しています。

そして今後、さらに観光地への新路線が増える可能性もあります。

便数は平年の5割 復調遠のく高速バス

 2021年9月上旬現在、全国の高速バスの運行便数は平年の約5割、輸送人員は約3割にとどまっているとみられます。8月上旬には復調の兆しがあったものの、新型コロナの感染拡大で、またも低迷しています。

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羽田空港国際線ターミナルのバスプール。便数は減っているものの、空港連絡バスも引き続き運行されている(中島洋平撮影)。

 1時間間隔など高頻度で運行する昼行路線の多くは、需要量に合わせて減便運行していますが、長距離夜行路線では運休も目立ちます。東京~鳥取・米子線(京浜急行バス/日本交通/日ノ丸自動車)のように完全な廃止に至った路線もあります。夜行路線は収益性が低く、需要が少し減っただけでも赤字に転落することから、コロナ収束後も路線維持は困難だという判断でしょう。

 他方、工夫を重ねて運行を維持している路線もあります。中国ジェイアールバスは、東京~岡山・倉敷線を廃止し、東京~広島線では運休と運行再開を繰り返す一方で、本来は臨時路線の位置づけだった東京~岡山・広島線「ドリーム岡山・広島」号(4列シート車両を使用)を毎日運行しています。東京~盛岡線と東京~青森線を運行していたジェイアールバス東北は、両路線を事実上統合して「ドリーム青森/盛岡・東京」号として運行しています。

 なお、東京~盛岡線「ドリーム盛岡」号はもともと、ジェイアールバス東北が国際興業、岩手県交通と3社で共同運行していました。

運休中に、自社担当便だけを、単独運行していた青森線と統合してしまったわけで、これが臨時の措置なのかどうか興味深いところです。

 短距離路線でもこうした統合が見られます。京浜急行バスは、横浜~お台場線の運行再開に際し、羽田空港を経由させることで横浜~羽田空港線の空港連絡バス減便運行の穴埋めをしています。羽田では、横浜発が第一ターミナルでの降車のみ、横浜行が第二ターミナルの乗車のみの扱いです。

 京浜急行バスは夜行路線からも全面撤退しました。これにより共同運行相手のひとつだった弘南バスは、青森県~首都圏方面、昼夜合わせて7往復が、とうとう全便とも自社単独運行になっています(現在は一部運休中)。ただ単独になったのはデメリットばかりでなく、コロナ収束後は各便の運賃を柔軟にコントロールし、青森、弘前から東京駅、新宿、上野、横浜といった目的地や座席タイプを選んでもらえるような一元的なマーケティングも可能になりそうです。

それでも意外と多い「新路線」

 厳しい中ですが、案外、新路線も目立ちます。コロナ禍に生まれた新路線は、二つのタイプに分かれそうです。

 まず、茨城県境町~東京線(ジェイアールバス関東/関東鉄道)、八王子・日野~新宿線(西東京バス)、西美濃~名古屋線(名阪近鉄バス)、姫路市北部~神戸線(神姫バス)といった大都市近郊の路線です。満員電車での通勤を避けるニーズがあるほか、他路線の運休により生まれた余剰リソースの活用、沿線自治体による支援といった背景があります。

 ただし、通勤に使われる短距離路線は、朝の上り便と夕方の下り便に需要が集中し、他の時間帯の乗車率が上がらないという欠点があり、片道1000円程度の運賃設定では黒字になりません。

都心に到着後そのまま他路線の運行に入り、さらに途中で乗務員が交替して車両は終日フル稼働、という路線もありますが、それでも継続へのハードルは高そうです。

復調遠く 高速バスの今 コロナ禍で進む減便・統合 でも新路線は意外と多い?

京浜急行バスは横浜~羽田空港線とお台場線を統合。行先により運賃が異なるため、行先を申告する乗り方になった(成定竜一撮影)。

 もう一つのタイプが、ジェイアールバス関東の東京駅~ムーミンバレーパーク(埼玉県飯能市)線や、東京駅~丹沢登山口(神奈川県秦野市)線、京成バスと小湊鉄道の松戸~木更津のアウトレットモール線といった短距離の観光路線です。各地のアウトレットモールへの既存路線が比較的好調なことから、御殿場など他のモールへ、さらなる新路線も期待できます。さらに2022年には関越道花園IC(埼玉県深谷市)至近に新たなモールの開業も予定されています。

 このような観光目的の新路線は、今後さらに増加が見込まれます。国による臨時の補助金が設けられたからです。

観光地の高速バス新路線、今後は増加か? アウトレットも「観光地」に

 この補助金には、単なるコロナ対策に留まらない目的があります。日本の観光地は、もともと、貸切バスで訪れる団体客に比重を置いていました。そのため、都市や空港などからの公共交通が不便な箇所が目立ちます。他方、国内客も、また訪日観光客も、旅行形態は団体から個人旅行へのシフトが進んでいます。

 旅行会社のバスツアーが、特定の日に絞って設定され、その日についてはほぼ満席で走るのと対照的に、高速バスなどの公共交通は、原則として毎日運行し、通年で安定した乗車率が求められます。前者が「狩猟民族型」、後者は「農耕民族型」ビジネスといえます。観光地への路線は、認知度が上がり乗車率が安定するまで時間がかかる傾向にあり、新路線という「種」を蒔いてもすぐには「収穫」につながらず、バス事業者としてもなかなか挑戦できませんでした。

復調遠く 高速バスの今 コロナ禍で進む減便・統合 でも新路線は意外と多い?

御殿場プレミアム・アウトレット。高速バス需要が比較的堅調な行先のひとつ(成定竜一撮影)。

「足」が不便で個人観光客が増えない観光地と、利用者数が増えないから路線開設に二の足を踏むバス事業者という「ニワトリと卵」の突破を図るのがこの補助金です。前年度の「Go Toトラベル」事業が従来型の旅行会社支援を意識していたのと異なり、コロナ後の観光のあり方を見据えた攻めの政策と言えます。「Go To」では観光施設扱いされなかったアウトレットモールが、この補助金では対象となった点も現実的です。やがて感染が収束し「Go To」が再開されるようなことがもしあれば、今年度こそ、個人旅行や公共交通を意識した運用となることを期待します。

 なお、こうした観光路線への単年度の補助金は、地方自治体などにより以前からも行われてきましたが、路線として成功し独り立ちした事例は全くと言っていいほど見当たりません。補助金に頼るあまり集客努力が疎かになりがちな点や、公共交通を上手に組み合わせて予約にまでつなげる個人旅行者向けのサービスが不足している点が理由です。コロナ禍に苦しむ観光地やバス事業者への国の支援を感謝し活用しつつ、個人旅行市場の開拓はバス業界自身の課題と捉え、市場ニーズに真摯に向かい合うことが求められています。

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