JRとなってから、運行区間が長浜駅、さらに敦賀駅まで延伸された、JR西日本の新快速。かつての米原駅発着から、どのような経緯で北へと移っていったのでしょうか。
新型コロナウイルス感染症の流行で人々の移動が減るなか、列車の減便に踏み切る鉄道会社が増えています。JR西日本は、2021年10月2日(土)にダイヤ改正を実施。近畿圏で60本、その他の同社エリアで67本の列車が、運転取りやめや運行区間の変更を行います。なお、同社が秋にダイヤ改正を行うのは15年ぶりです。
減便となる線区のひとつが、北陸本線の米原~長浜間(琵琶湖線)です。現在、日中時間帯に1時間あたり2本が運行されていますが、このうち長浜駅を始発・終着駅とする1本が運転を取りやめます。
新快速の運転区間は拡大の一途をたどっている(伊原 薫撮影)。
同区間を走る列車はその大半が、米原駅から京都方面に直通する新快速です。昨年(2020年)に運行開始から50年を迎えた新快速は、もともと京都~西明石間での運転でした。運行開始翌年の1971(昭和46)年に草津~西明石間へと延長され、その後も徐々に運行区間を拡大。JRが発足した後に東端が米原駅となり、1991(平成3)年には長浜駅まで、そして2006(平成18)年には福井の敦賀駅までの乗り入れを果たします。
ところで、新快速は乗客の利便性向上や長浜・敦賀エリアの観光促進を狙って運行区間が拡大されましたが、実はそれまで、ある理由によって米原から先へ直通できないという制約がありました。
日本の電車には(というか、世界でもそうですが)、直流電源で走るものと交流電源で走るものの2種類があります。両者の違いは色々ありますが、おおざっぱに言うと直流電化は変電設備が地上にまとめられているのに対し、交流電化は一部を車両に搭載。そのため、交流電化は地上設備の整備コストが安い反面、車両の製造コストが高くなるという特徴が見られます。
日本では、明治時代に直流電源による電車が営業を開始。戦後もしばらくは直流での電化が進められました。一方、1950年代には交流電車の研究が始まり、1954(昭和29)年から宮城県内の仙山線で交流電化の試験がスタート。この成功を受けて、大都市圏ほど輸送力を必要としない、つまり車両数が少なくても対応できる地方路線は、交流での電化が進められました。
すると、直流区間と交流区間の接する場所がいくつかできることになります。これが「交直セクション」です。交直セクションを通過するには、両方の電源に対応した車両が必要となりますが、これは非常に高価なため、なるべく少数で済ませることが理想です。そこで、多くの場合は拠点駅を越えた交流区間側に交直セクションを設け、拠点駅までは直流車両で、拠点駅からは交直流車両で運行しています。

長浜「黒壁スクエア」近くの北国街道の街並み(乗りものニュース編集部撮影)。
国鉄時代、東海道・山陽本線は全線が直流電化された一方、北陸本線は交流(新潟県の糸魚川駅以北は直流)で電化されたため、米原駅を出た先、北陸本線側に交直セクションが設けられました。しかし新快速は直流車両で運行されているので、米原駅を越えて北陸本線に乗り入れることができません。そのため、長浜・敦賀方面へ行くには、米原駅で乗り換えが必要でした。
これに対し、長浜エリアでは大阪方面から新快速を直通させ、定住者や観光客を呼び込もうという動きが起こりました。そこで、滋賀県と長浜市はJR西日本に対し、米原~長浜間の直流化を要望。工事費用を負担することで実現にこぎ着けます。工事は1991(平成3)年に完成し、新快速の長浜駅までの延長運転が始まりました。
交直セクションの移設は、人の流れも変える?その後、長浜エリアは京阪神から多くの観光客が訪れる人気スポットとして、発展を遂げます。新快速直通工事の完成と前後して、観光施設「黒壁スクエア」や「長浜鉄道スクエア」などがオープン。特に黒壁スクエアは、年間約200万人が訪れる人気スポットに成長しました。

敦賀駅に停車中の、播州赤穂行き新快速。ただしこの車両は姫路止まりとなる(伊原 薫撮影)。
これを受けて、直流区間を敦賀駅まで北上させるとともに、湖西線の永原~近江塩津間も直流電化とし、琵琶湖をぐるっと一周する列車を走らせようという「琵琶湖環状線構想」が活発になります。総事業費は約161億円。このうち新快速用の車両製造費を除く約143億円を滋賀県と福井県、それに沿線市町村が負担することになり、2003(平成15)年から3年間かけて工事が行われました。
そして2006(平成18)年10月、交直セクションは敦賀駅のすぐ東側に移設され、ついに新快速が敦賀駅への乗り入れを開始します。2021年9月現在、敦賀行きの新快速は、日中は湖西線、朝と夜は北陸本線を経由し、1日13本を運転。京阪神と敦賀エリアを直結しています。
また、平日に1本、土休日に2本が運転される敦賀発播州赤穂行きは、走行距離が275.5kmを数え、特別料金が不要の在来線列車で最長を誇ります。ただし、列車は敦賀駅を4両編成で出発し、米原駅で前方に8両を増結。姫路駅から播州赤穂駅までは、この8両編成だけが直通するため、同じ車両で全区間を乗り通すことはできません。
交直セクションの移設によって、米原から長浜、そして敦賀へと運転区間が延長されていった新快速。