踏切設備の色は通常、黒・黄の2色です。これはJIS規格に基づいたものであり、見慣れたものとなっているでしょう。
踏切は線路と道路が交差する場所に設置されています。言うまでもなく、鉄道において事故リスクが高い場所です。鉄道事故の約4割は踏切および踏切周辺で起きているといわれ、事故を減らすために鉄道事業者や地元の自治体は立体交差化を進めてきました。
しかし、立体交差化は多額の工費や時間がかかります。頻繁に列車が行き来する大都市圏なら、遮断による経済的影響も鑑み工事が進められる傾向がありますが、ローカル線などでは、なかなか立体交差化しようという声は出てきません。
赤・白の遮断棹は、一見するとお祝い事をしているかのようなイメージにも見える。JR内房線の巌根駅付近の踏切にて(2009年9月、小川裕夫撮影)。
立体交差化するほどではないけれど、事故リスクは減らしたい―― そのような思いから鉄道事業者や地元自治体は、立体交差化以外の方法で安全性を高める工夫を模索してきました。
JR東日本は遮断棹のカラーリングに注目。通常、踏切設備は黒・黄の2色です。これはJIS規格に基づいており、「警告色」でもあるこの組み合わせは、人間が本能的に警戒する黄色と、対照的な黒を配色することで危険を示しています。
このうち遮断桿を一部の区間で「赤・白」へ変更。その効果を検証しました。ちなみに赤・白の配色もJIS規格に定めがあります。
実験の舞台のひとつが、JR内房線の巌根駅近くにある高柳踏切(千葉県木更津市)です。同踏切の交通量はそれなりに多く、京葉臨海工業地域にも近いことから工場に物資を運搬する大型トラックも見られます。
現在は元通りに 検証結果は?JR東日本の千葉支社によると、検証期間は2003(平成15)年から2018年までの16年間とのこと。クルマの事故防止を目的に設置したといいます。遮断桿は「大口径遮断桿」といい、太さが通常の2倍ほどある重いものです。
カラーリングも相まって視認性は向上し、事故は減少。JR東日本はその効果を得られたとしています。なお、その間に警報機にも視認性の良いタイプが登場したことや、踏切の遮断時分を適正化すると事故防止に寄与すること、赤・白の遮断桿が老朽化したことなどを理由に、現在は従来の黒・黄の遮断桿に戻されています。
また同様の検証は、同じく内房線の大井戸踏切(千葉県袖ケ浦市)、中郷踏切(同・木更津市)でも行われました。

赤・白の遮断棹を使って踏切事故を減らす試験を実施していることを知らせる看板(2009年9月、小川裕夫撮影)。
踏切は、交通量のほか交通の種類――大型トラックと普通の乗用車どちらが多いのか、歩行者や自転車が通行できるスペースがきちんと確保できているかなど、複数の要素によって危険度合いが異なります。加えて、坂道の先にあるなど地形の要因も絡みます。
安全対策を講じるうえで遮断棹の色を変えることは、それほど大きな費用や手間はかかりません。条件が合えばどこの踏切でも実行できます。その点でも、効果を検証できたJR東日本の取り組みは有意義だったと言えるのではないでしょうか。
ちなみに踏切設備の色は、戦前期は黒と白という組み合わせでした。また、諸外国ではJR東日本の実証実験のように、赤・白の配色も珍しくありません。私たちが知らず知らずのうちに黒・黄が常識だと思い込んでいた踏切ですが、ふとした場所では全く違う色になっているかもしれません。