ANAがローンチカスタマーとして開発に携わった旅客機「ボーイング787」が就航10周年を迎えました。この機にはどのような特徴があるのでしょうか。
ANA(全日空)がローンチカスタマー(初期発注者)として開発に携わり、就航を開始した旅客機「ボーイング787」は、2021年で就航10周年を迎えました。パイロットやCA(客室乗務員)から見ると、どのような飛行機なのでしょうか。787に携わるパイロットやCA、計4名に聞きました。
那覇空港に着陸するボーイング787(乗りものニュース編集部撮影)。
ボーイング767のパイロットを経て、2017(平成29)年から787の操縦かんを握ることとなった大野 翼副操縦士は、767と比べ、787の進化を次のように話します。
「操縦性や快適性は787は格段にあがっていると思います。一度訓練で教官に『手を離してみて』といわれてやってみところ、まっすぐ飛ぶのです。システム的にアシストしてくれることで、安全性の高い飛行機になっていると思います。787は、自動車でいえば高級セダンのようなイメージです」(大野 翼副操縦士)
787の操縦では、767などの前世代旅客機と異なる操縦システムが用いられています。それがパイロットの操作を電気信号でコントロールする「フライ・バイ・ワイヤ」。同技術を搭載した旅客機としては、欧州・エアバス社の「A320」がよく知られています。
エアバス社と787の「フライ・バイ・ワイヤ」とは、どのような差があるのでしょうか。
A320と787、両方経験があるパイロットに違いを聞くエアバスA320の副操縦士を経て、2014(平成26)年からボーイング787の操縦桿を握り、同型機で機長に昇格した細内 豊機長は次のように話します。
「2社では操縦かんの形状が異なり、エアバスはサイドスティックで、ボーイングは大きなコントロールホイールで操縦します。両方担当した私の感覚では、とくに離着陸の操作は787の方が格段にやりやすいと思いました。離着陸は左右と上下を同時に入力しなければならない場面が多く、この操作はボーイングのほうが容易です。同じ『フライ・バイ・ワイヤ』でも結構な違いを感じました」(細内機長)

今回インタビューに答えたANAの乗員。左から大野さん、細内さん、塚本さん、兪さん(2021年11月、乗りものニュース編集部撮影)。
CAから見たボーイング787は、どのような旅客機なのでしょうか。ANAのCAである兪 智瑛(ゆ ちよん)さんは次のように話します。
「787は客室の湿度も高いので、快適性が高いことはもちろん、(従来機で手動であることからCA側でコントロールできなかった)窓のシェードもCAがタッチパネルで操作が出来ます。CAにとってもとても働きやすい飛行機です。また(天井が高いからか)客室の前に立ったとき、ほかの機種に比べて飛行機の大きさやお客様の多さを感じます」(兪 智瑛さん)
そして、787の開発に携わったパイロットにも、同機の特徴を聞くことができました。
安全推進センター副センター長としてボーイング787の製造に携わり、初号機のフェリーフライト(回航)も担当した塚本真己機長。787について「一日あっても足りないくらい話せます」という塚本機長は、この機の最大の特徴を次のように話します。
「人間が操縦に介入してくるとどうしてもヒューマンエラーが起きるんですが、いまの旅客機はまだ人の介入が必要です。そこをハードウェア的にリスクファクターを取り除くという点を究極に追い求めたのが787です。たとえば787は、片方のエンジンが止まった状態で手を離してもまっすぐ飛びます。こういった技術を用いることで、パイロットの負荷を軽減し、いざというときも、パイロットがあらゆることを考えられるようにしているのです」(塚本機長)

参加者からの質問に答える大野さんと細内さん。イベントではパイロットとの交流タイムも設けられた(2021年11月、乗りものニュース編集部撮影)。
なお4名のANAの乗員は2021年11月21日(日)、就航10周年企画として実施されたオンラインイベントに参加し、ANAファン、航空ファンと交流。申し込み人数は約360名でした。イベントでは沖縄→羽田のフライトをイメージし、コックピットからの景色や、導入秘話なども放映。視聴者からの質問コーナーなども設けられました。
企画担当者であるANA Xの何 苗(へ みょう)さんは「今回のツアーは開発に携わったからこその787に関する内容を盛り込んだことと、ツアーに主題歌を入れるなど、ストーリー性をもたせたことがポイントです」としています。