かつて十和田湖に69年間沈んでいた旧軍機「一式双発高等練習機」が生まれ故郷の東京立川で展示されました。主催者は製造元だった立川飛行機の後進企業。
数奇な運命をたどった旧軍機が、79年の時を経て“里帰り”です。
不動産賃貸業を手掛ける立飛ホールディングス(東京都立川市、立飛HD)が2021年11月25日から28日まで、旧日本陸軍の「一式双発高等練習機(キ54)」を一般公開しました。日本国内に現存する唯一の機体ということもあり、4日間で家族連れや航空ファンら計9000人超が来場。日の丸と黄色による敵味方識別標識の塗装が鮮やかに残る主翼や機内、操縦席、エンジンなどを間近で見学しました。
公開された一式双発高等練習機の右翼エンジン(深水千翔撮影)。
一式双発高等練習機は、立飛HDの前身である立川飛行機が初めて製作した双発、全金属性、引込脚の機体です。旧日本陸軍が出した多目的双発高等練習機の試作指示により開発され、1941(昭和16)年に制式採用されました。エンジンは東京瓦斯電気工業が開発した空冷単列星型9気筒「天風」を搭載。乗員として5~9人が乗り込むことができ、操縦、射撃、爆撃、通信などの訓練だけでなく人員輸送も行える多用途機でした。立川飛行機では同機を1945(昭和20)年までの4年間で計1342機生産しています。
今回、立飛HDが公開したのは、その一式双発高等練習機で国内に唯一現存する機体です。
この機は1943(昭和18)年9月27日、秋田県の能代飛行場から青森県の八戸飛行場へ向かう途中、エンジントラブルで十和田湖に墜落。2012(平成24)年に引き上げられるまで69年間にわたり湖底に沈んでいました。青森県立三沢航空科学館での保存・公開を経て、2020年11月に所有者だった青森県航空協会から立飛HDへ寄贈されました。
一般公開では胴体、エンジン、左右主翼、水平尾翼などに分け、内部の構造を間近で観察できるように配置。ピトー管や計器パネル、伝声管などの部品の展示も行われました。

会場に展示されていた一式双発高等練習機の模型(深水千翔撮影)。
腐食は進んでいるものの、沈んでいた場所が水温の低い淡水の湖であったため外気や塩分にさらされず、機体の原形を保った状態でオリジナルの塗装の多くが残っているなど、保存状態は比較的良好です。主翼や胴体に書かれた注意書きや、上から塗り直した跡なども確認できました。
立飛HDは今後も一般公開など、一式双発高等練習機を見学できる機会を設けていくとのこと。また、保管している「R-53型軽飛行機」や小型航空機の開発などを手掛けるオリンポス(東京都青梅市)が復元計画を進めている九五式一型練習機「赤とんぼ」などを展示できる施設の整備も構想しているといいます。