ロールス・ロイスが開発した電動実験機による3つの世界記録がFAIによって公式認定されました。しかもこの実験機、飛行中に電気駆動の乗りもの最速のスピードも達成したそうです。
航空エンジン大手のロールス・ロイスは、自社が開発した電動実験機「スピッリット・オブ・イノベ-ション」が2021年に打ち立てた3つの世界記録が、2022年1月にFAI(国際航空連盟)から公式認定されたと発表しました。
「スピッリット・オブ・イノベ-ション」が打ち立てた記録とは、3km区間で555.9km/h、15km区間で532.1km/h、高度3000mへの上昇時間3分22秒、この3つです。記録は2021年11月16日に出したものですが、このとき最大速度632km/hも計測。同社はこれを根拠に同機が世界最速の「電気駆動の乗り物」になったとも発表しています。
ロールス・ロイスが開発した全電動飛行機「スピリット・オブ・イノベーション」(画像:ロールス・ロイス)。
これまでの電動航空機による速度記録は、2017(平成29)年にドイツ企業シーメンスが単発アクロバット機「エクストラ300L」の改造型で達成した337km/hでした。その後、シーメンスの航空機部門はロールス・ロイスが2019年に買収しています。
今回、記録を塗り替えた「スピッリット・オブ・イノベ-ション」は、レーシング用ホームビルト機シャープ「ネメシスNXT」をベースに電動航空機へ改造した実験機です。原型の「ネメシスNXT」は350馬力のピストンエンジンを搭載し、巡航速度は522km/h。エンジンをチューンナップすれば最大657km/hも発揮できるといいます。
高出力モーター3個で飛行一方の「スピリット・オブ・イノベーション」は、機首にエンジンではなく小型高出力モーター3個を搭載し、トランスミッションで回転力を一軸にまとめてプロペラを回すようになっています。用いるのはYASA社製のモーターです。

ロールス・ロイスが開発した全電動飛行機「スピリット・オブ・イノベーション」(画像:ロールス・ロイス)。
「スピリット・オブ・イノベーション」のモーターやトランスミッション、制御機器とバッテリーの全てがコックピット前方の胴体内に収められています。バッテリーは6480個のセルで構成されており、その容量は216kWH。航空機搭載用としては最高のエネルギー密度とのこと。モーター3個の連続合計出力は400kW、これは馬力換算だと約536馬力で、2400rpmにてプロペラを駆動します。
ロールス・ロイスは航空機エンジンの代表的メーカーのひとつですが、二酸化炭素排出ゼロの分野でも先進的な技術力を維持し、航空機市場において優位に立つことを戦略として掲げています。そのため、電気推進の航空機開発に必要なデータを収集するため、アクセル(ACCEL:Accelerating the Electrification of Flight)プロジェクトを立ち上げました。そして、このプロジェクトの一環として実験機の「スピッリット・オブ・イノベ-ション」が製作され、2021年9月15日に初飛行したのです。
イギリス政府も大きく関与するゼロエミッション戦略このアクセル・プロジェクトは、資金の50%を英国航空宇宙技術院(ATI:Aerospace Technology Institute)と英国ビジネス・エネルギー産業戦略省が拠出しています。イギリス政府はCOP26を見据えたゼロエミッション戦略とともに、航空宇宙産業を重視した産業政策を展開しており、アクセル・プロジェクト以外にも多くの航空機電動化の研究開発プロジェクトに出資しています。

ロールス・ロイスが開発した全電動飛行機「スピリット・オブ・イノベーション」(画像:ロールス・ロイス)。
シーメンスとロールス・ロイスの電動実験機は、ともに既存のピストンエンジン搭載機をベースに製作されました。そのため、エアフレームは電動機に最適化した構造とは言えないものの、重いバッテリーを搭載してまずまずの飛行性能を叩き出しています。
これら電動実験機によって得られた貴重なデータは、新たな電動航空機の開発に役立つことは間違いありません。2026年には世界初の電動コミューター機が登場する見込みです。世界は航空分野でも電動化の流れが加速しつつあることから、日本がこの分野で後れを取らないことを望みます。