航空自衛隊のKC-767がウクライナに防弾チョッキやヘルメットなどを輸送しました。ただ、KC-767は空中給油機だったはず。
2022年3月8日(火)夜、航空自衛隊の空中給油機KC-767がポーランドに向けて愛知県にある小牧基地を離陸しました。任務はウクライナ向けに対する各種支援物資の輸送で、機内には防弾チョッキやヘルメットなどが積み込まれていましたが、なぜKC-767が物資輸送に駆り出されたのでしょうか。
そもそもKC-767は、旅客機であるボーイング767をベースに、空中給油機能を追加した機体です。航空自衛隊が4機運用しているほかはイタリア空軍が4機保有しているだけで、世界でもたったの8機しかない激レアな機体として航空ファンの間では知られています。
航空機としてもポテンシャルが高いKC-767はバンクをとった急旋回も得意(武若雅哉撮影)。
空中給油機と聞くと、胴体内部、いわゆる客室部分が全て燃料タンクになっているかのようにイメージするかもしれません。しかし実際、そのようなことはなく、機体の床下部分の一部が燃料タンクになっています。そのため、胴体の上半分は通常の旅客機と同じく客室として使えるようになっており、その部分に貨物を積み込むことができるのです。
なお、この部分は任務や用途に応じて内装をガラリと変えることができるようになっています。具体的には「貨物用」「人員輸送用」「貨客混載」の3パターン。これを実現したのがパレットによる客席の配置でした。
一般的な旅客機では、座席は床に固定されていますが、KC-767の場合は座席すら全てパレットに乗せられています。これにより、機内のレイアウト変更が比較的簡単に行えるのです。その一方で、床下の収納スペースも残してあることから、こちらにも貨物を搭載することが可能です。ゆえに航空自衛隊では、KC-767のことを「空中給油・輸送機」と呼んでいます。
実は純粋な輸送機よりも乗り心地ヨシ航空自衛隊は2001(平成13)年にKC-767の採用を決定しました。その際、KC-767の輸送性能として「輸送可能人員は最大で約200名、貨物はパレット6枚分、そして主に陸上自衛隊が使っている小型トラック4台」を一度に搭載できるだけのキャパシティーを要求しています。
この数値の根拠といわれているのが、国際活動任務などにおいて、先遣隊を迅速に輸送することができるように、さらには在外邦人救助でも使うことを想定したからだというものです。そのため、座席は一般的な旅客機のエコノミークラスのシートと同じ仕様のものとされており、その点では完全な軍用輸送機であるC-130Hなどと比較して長距離移動の際、人員に与える快適性も段違いといえるようです。

航空祭で模擬空中給油を展示するKC-767。機体後部の給油ブームを下ろしている様子が良くわかる(武若雅哉撮影)。
肝心の空中給油性能については、アメリカ空軍などで採用されている「フライング・ブーム方式」の給油方法を採用しています。これは機体後方下部にある棒状の給油ブームをKC-767のオペレーターが操作して受油機側の給油口にドッキング、給油するものです。
この方式の利点は短時間に大量の燃料を供給することができる点で、また受油機側のパイロットは給油ブームが届く位置に機体を保持するだけで、あとの作業は給油機のオペレーターが行ってくれるので負担が軽いというメリットもあります。
なおKC-767は一回の飛行で概ね戦闘機8機分の給油が可能といわれています。
数は少ないけど他機にはないメリットも加えてKC-767は、航空自衛隊が保有する各種輸送機のなかで、最も遠くまで飛行できる性能も持っています。たとえば、航空自衛隊最新のC-2輸送機の場合、36tの荷物を積んだ状態では、航続距離は約4500kmになります。
一方、KC-767は、30t搭載時で約7200km飛行することができます。ちなみに航空自衛隊には約1万4000kmの最長航続距離を誇る政府専用機もありますが、こちらは主に要人輸送がメインのため、今回のような純粋な輸送任務に投入されることはほとんどありません。

航空観閲式で飛行するKC-767。旅客機ベースの機体は大きく、空中給油機としても余裕ある設計となっている(武若雅哉撮影)。
航空自衛隊は2022年現在、新型の空中給油・輸送機としてKC-46の導入を進めています。同機は2021年10月に初号機、2022年2月に2号機が、それぞれ鳥取県にある美保基地に到着しました。
一見するとKC-46はKC-767とよく似ていますが、それもそのはず。両機は姉妹機といえる間柄で、KC-767の能力発展型がKC-46になります。
この「プローブ・アンド・ドローグ方式」は、航空自衛隊ではUH-60J救難ヘリコプターなどが用いる方式で、従来のKC-767では対応していませんでした。また陸上自衛隊が運用するV-22「オスプレイ」の空中給油方法もこのタイプであるため、南西諸島のような空港が少ない空域での作戦をより有利に展開することができるようになるといわれています。
航空自衛隊の輸送機を見た場合、数的に主力になるのは国産のC-2で、その次がC-130Hです。ただ、KC-767は数こそ少ないもの航続距離が最も長いというアドバンテージを有しています。その長所を生かす形で、最新型のKC-46とタッグを組んで輸送任務と空中給油任務を使い分けながら、今後も重用され続けることは間違いないでしょう。