陸上自衛隊の新装備、19式装輪自走155mmりゅう弾砲の実弾射撃が、駐屯地モニターとして登録された一般人に向けて公開されました。車両の初公開から3年越しでの実射披露、なぜ時間がかかったのか推察します。
2022年3月28日、富士山の麓に広がる静岡県の東富士演習場で、陸上自衛隊の最新火砲である「19式装輪自走155mmりゅう弾砲」の実弾射撃訓練が初めて行われました。
射撃を行ったのは、近傍の富士駐屯地(小山町)に所在する富士学校隷下の富士教導団特科教導隊。富士学校は主に陸自衛隊の普通科、野戦特科、機甲科の幹部自衛官や陸曹の教育を担っているところで、その一環として新装備の調査・研究も行っています。
富士学校の実働部隊ともいえるのが富士教導団であるため、その特科部隊である特科教導隊へ、全国の部隊に先駆けて配備が進み、このたび実射となりました。
東富士演習場で初めて実弾を射撃する19式装輪自走155mmりゅう弾砲(竹野陽香撮影)。
19式装輪自走155mmりゅう弾砲は、通称「装輪15榴」と呼ばれ、野戦特科部隊の従来火砲である155mmりゅう弾砲FH70の後継として、2020年に配備が始まった新装備です。2019年に行われた富士総合火力演習(総火演)で初めて公開され、大きな注目を集めましたが、この年と翌2020年の総火演習では射撃姿勢の披露のみで、実際に射撃をすることはありませんでした。
あくまでも筆者の推測ですが、これだけの期間、実弾射撃が行われなかった原因は、その構造にあると思われます。装輪式、いわゆるタイヤ駆動のトラック型車両に大型の大砲を積んだ状態のため、射撃の際、なかなか車体が安定しなかったのではないかと考えます。
総火演で実射を見せるか?車体が安定しないのであれば、クレーン車のようなアウトリガー(転倒防止用の支え)を装備すればよいのでは、と思われますが、そうした場合、射撃動作に加えてこのアウトリガーの操作が必要になります。
これでは、「速やかに撃って速やかに離脱する」というこの種の車両、すなわち自走砲のコンセプトから外れてしまいます。そのため、車体後部に取り付けられた底板だけで車体を安定させなければならないという制約があるなかで、実弾射撃に関する研究が行われていたのでしょう。
こうした研究射撃のため、特科教導隊は北海道にある日本最大の演習場である矢臼別演習場などで射撃を繰り返して、19式装輪自走155mmりゅう弾砲が最も安定する射撃姿勢を探求し、ようやく、矢臼別演習場よりも狭い東富士演習場でも安定して射撃できるとの判断が下ったと考えられます。この結果を生み出すまでには約2年の年月が掛かりました。
富士の裾野にある東富士演習場を走る19式装輪自走155mmりゅう弾砲(武若雅哉撮影)。
ちなみに、従来、陸上自衛隊が装備してきた自走りゅう弾砲はすべて履帯、いわゆるキャタピラ駆動の装軌車体ばかりであったため、ここまで車体の安定性を研究する必要はなかったようです。つまり、長い年月を掛けたのは、陸上自衛隊で初めてのタイヤを履いた装輪自走砲であるがゆえの課題だったともいえます。
関係者の努力の結果として東富士演習場での実弾射撃に成功した装輪15榴。2020年度から富士総合火力演習の開催時期が8月末から5月末に変更されたため、そこでの披露に向け、これから演習場での射撃機会も増していくことでしょう。
なお、今回の公開実射訓練では半自動装てん装置は使われず、1発ずつ手動で装填されていました。そのため、今年の総火演では半自動装てん装置が使われるのか、その部分も注目です。

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