東京と伊豆諸島を結ぶ東海汽船のジェットフォイルが運航を開始して20年が経ちました。水面へ浮かび上がる「空を飛ぶ船」の高速性能は、島の生活環境を一変。

なくてはならない存在になりましたが、老朽化も進行しています。

他の追随を許さない高速性能 島を変えた

 東海汽船でジェットフォイル(ジェット船)が初めて就航してから、2022年4月1日でちょうど20年目を迎えました。ガスタービンエンジンとウォータージェットの力を得て、海水を噴射しながら最高速力45ノット(時速83km)で豪快に駆け抜けていく姿は、まさに「海を飛ぶ船」。ジェット船の導入で、かつて8時間かかっていた東京~大島間の所要時間は、なんと1時間45分まで短縮されました。

 現在、東海汽船では最古参の「セブンアイランド愛」から最新鋭の「セブンアイランド結」まで4隻のジェット船が活躍しています。

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2002年に就航した最古参の「セブンアイランド愛」。船齢は40年を超えている(深水千翔撮影)。

伊豆諸島が日帰り圏内に

 2002(平成14)年4月1日、東京港・竹芝客船ターミナルの岸壁に色とりどりのカラーを身にまとった3隻のジェット船が揃い、伊豆諸島各島に向けて出港しました。当時のキャッチフレーズは「日帰りOK!伊豆七島」。ジェット船の特長である高速性への期待が現れています。

 東海汽船の伊豆諸島航路は当時、三宅島の噴火や伊豆諸島群発地震など、度重なる自然災害の影響で利用客が大きく減少していました。さらに国内でも有数の海象条件が厳しい海域を通るため、低速で大型の貨客船しか投入できず、東京~大島で8時間という所要時間の長さも課題となっていました。

 こうしたなか、利用客からも高速多頻度輸送の要望が多く上がっていたことから、東海汽船は東京~大島を2時間20分で結ぶことができる双胴の高速船「アルバトロス」を2000(平成12)年に導入。これにより大幅な時間短縮を実現しました。しかし、「アルバトロス」は乗り心地の面で課題が多く、快適性を求めてジェット船の導入に決断することになります。

ボーイング生まれ川重製のジェットフォイル

「ジェットフォイル」は全没翼型水中翼旅客船といい、その名の通り全没型の水中翼に働く翼揚力を利用して、船体を完全に海面上へ持ち上げて高速で航走する船です。ジェット機は、高温ガスを噴出させて推力を得ているのに対し、ジェットフォイルは海水を高圧噴射することで高速力を発揮します。

 同船の原動力は1基当たり3800馬力の高出力を誇る2基のガスタービンエンジン。減速ギアを介して駆動するウォータージェット推進機が、1分間におよそ180トンもの海水を吸い込み、強力なウォータージェットを船尾ノズルから後方に噴射することで推力を得ています。自動姿勢制御装置(ACS)がセンサーからの情報を基に、常に船体のピッチング、ローリングといった回転運動による動揺を制御しているため、乗り心地が良く船酔いをしません。

「ジェットフォイル」は米ボーイングの商標です。元々はボーイングが航空機の技術を水上に適用して開発した「ボーイング929」で、1987(昭和62)年に川崎重工業が製造と販売の権利を得て以降は、「川崎ジェットフォイル929-117型」として製造されています。

東海汽船ジェットフォイル20年 東京と島を近くした「飛ぶ船」の恩恵 進む老朽化
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前部水中翼を出した状態で艇走する「セブンアイランド虹」(深水千翔撮影)。

ジェット船導入で利用者数が大幅増!

 東海汽船は伊豆諸島航路へジェット船をすぐに投入するため、新造船ではなく中古船で揃えました。

 同社の船隊に加わったのは1980(昭和55)年竣工の「セブンアイランド愛」と、1981年竣工の「セブンアイランド夢」「セブンアイランド虹」の3隻。船体のカラーデザインはイラストレーターの柳原良平さんが手がけました。

 ジェット船を導入した効果は大きく、東海汽船の利用客数は、就航前の2001(平成13)年と就航後の2002年を比べると、約68万人から8万人増え約76万人となっています。反応も上々で、高速化による時間の有効活用や、船酔いが少ない快適な乗り心地も相まって、実際に利用した観光客や現地の島民からも多くの支持を集めたといいます。

「伊豆諸島がより身近に」現場の声

 東海汽船は取材に対し「夜行船を敬遠していた家族連れや若い女性旅が増えました。この頃、そのほかにも客船2等の全席指定席化や客船のスリム化、子会社の分社化など一気に改革が進んでいました」と当時を振り返っています。

 またスタッフからは、「高速航行の操船に慣れるのに苦労しながらも、他の船を追い抜いてく光景に感動を覚えた」「従来の船の構造とは大きく異なっていたため、整備に膨大な時間を要した」といったエピソードや、「実際に乗船頂いたお客さまの声を聞く中で、伊豆諸島がより身近になったことを強く実感した」といった、現場ならではのコメントも聞くことができました。

なんと25年ぶりの新造「セブンアイランド結」

 2020年6月、川崎重工が25年ぶりに建造した新造ジェットフォイルが東海汽船に引き渡されました。「セブンアイランド結」(176総トン)と名付けられた藍色のジェット船は、先に就航した貨客船「さるびあ丸」(3代目、6099総トン)とともに、創立130年を迎えた東海汽船の象徴となっています。

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2020年に竣工した「セブンアイランド結」。東海汽船初の新造ジェットフォイル(深水千翔撮影)。

 東海汽船は2013(平成25)年に「セブンアイランド友」(1989年竣工)を、2015年には「セブンアイランド夢」の代替として「セブンアイランド大漁」(1994年竣工)を就航させ、以降は4隻体制で運航を行ってきました。

一方で老朽化した「セブンアイランド虹」の代替時期が迫ってきたことから、新造船の計画がスタートすることになります。

 そこでネックとなったのが50億円を超える高額な船価です。

 1隻だけでは費用の兼ね合いから建造が難しく、当初はジェットフォイルを所有する他社と連携して建造に向けて注力したものの、折り合いがつかず難航することになります。川崎重工もこのタイミングで建造しないと、当時建造に携わっていた技術者がいなくなり、ジェットフォイルの技術が伝承できないという深刻な状況でした。

 東海汽船はジェット船の新造に向け、東京都から船価の45%に当たる23億円の建造補助を得つつ、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)の共有建造制度を活用。エンジンは従来のものを流用するなどしてコストを抑え、ようやく費用面での見通しが立ち、1隻での建造にこぎつけました。

離島の欠かせない足。今後はどうなる。

 ジェットフォイルは現在、東海汽船をはじめ佐渡汽船や種子屋久高速船などの国内航路で18隻が活躍しています。「セブンアイランド結」を除き、いずれも竣工から20年以上が経過した老朽船でリプレイスが課題となっています。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で旅客航路はいずれも経営が厳しく、新造船の建造まで踏み込めるかは不透明な状態です。

 JRTTではジェットフォイルの建造を支援するため、共有建造において、共有期間を通常(軽合金船)の9年から最長15年へ延長するなど制度を拡充するとともに、2020年度からは共有比率の上限を、一定の条件のもと70%まで引き上げました。

 川崎重工もジェットフォイルの建造技術を維持するためには継続的な建造が必要としており、新しい技術を取り入れながら、エンジンを新しくするなどアップデートを図り、今後も事業を続けていく方針を示しています。

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就航したばかりの「セブンアイランド結」と引退した「セブンアイランド虹」の同時出港。2020年7月16日(深水千翔撮影)。

 東海汽船のジェット船で最古参の「セブンアイランド愛」は建造から40年以上が経過し、代替船が必要となる時期に差し掛かっています。同社は国や都へ、建造に向けて協力を働き掛けています。

 伊豆諸島はいつ起きるかわからない自然災害と隣り合わせの環境にあります。各島で少子高齢化が急速に進んでいるなか、高速多頻度輸送ができるジェット船は、避難や緊急時にも有用な交通手段であり、東海汽船も「必要性を日々強く感じている」といいます。

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