アメリカがウクライナに供与し、陸上自衛隊も導入を検討している「自爆型ドローン」。技術的には無人かつ自動で標的を攻撃することもでき、戦術を大きく変える可能性を秘めていますが、人間の倫理観とせめぎ合っている側面もあります。

ウクライナへの追加支援に「戦術無人機」100機

 2022年3月17日、アメリカのジョー・バイデン大統領が、ロシアから侵攻を受けているウクライナに対して、総額8億ドルの追加の軍事支援を行なうと発表しました。

 ホワイトハウスは追加軍事支援の中に「戦術無人機」100機が含まれていることを明らかにしていますが、同日付のブルームバーグやロイターなど主要メディアは、この戦術無人機が「スイッチブレード」であると報じています。

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アメリカがウクライナに供与すると報じられた「スイッチブレード」の運用イメージ(画像:エアロバイロンメント)。

 アメリカのエアロバイロンメントが開発したスイッチブレードは、全長約61cm、重量2.7kgと兵士1名で持ち運びが可能な、電気モーターを動力とする無人機です。

 このサイズの無人機自体は珍しいものではありませんが、スイッチブレードは機首部に搭載されたビデオカメラと赤外線センサーで攻撃目標を捜索し、発見後は目標に突入して、内蔵する爆薬によって目標を破壊する能力を備えています。

 攻撃目標に突入し、内蔵する爆薬で破壊する点はミサイルと共通していますが、ミサイルが“すでに発見されている目標”に対して使用される兵器であるのに対し、スイッチブレードは約10分間滞空して、ビデオカメラと赤外線センサーで自ら目標を捜索し、発見後はオペレーターの指示により突入して、自爆する仕組みとなっています。

 スイッチブレードに搭載されているビデオカメラと赤外線センサーは、同サイズの偵察用無人機と遜色のない性能を備えており、偵察に使用することもできます。1機で偵察と攻撃の両方に使用できることから、アフガニスタンに派遣されたアメリカ軍は、スイッチブレードを重用したと伝えられています。

一名「カミカゼ・ドローン」

 攻撃目標に突入して自爆することから、スイッチブレードのような無人機は一般メディアでは「自爆型ドローン」、または「徘徊型弾薬」と呼ばれています。日本人にとっては複雑なところですが、欧米などでは「カミカゼ・ドローン」と呼ばれることもあります。

 偵察用無人機が攻撃目標を発見した場合、その目標を破壊するには別の攻撃手段を必要とするため、その時間差で目標を取り逃がしてしまう可能性もあります。対して自爆型ドローンは目標の発見から攻撃までの時間が短く、破壊の可能性を高めることができます。

 また、自爆型ドローンには高性能のセンサーが搭載されており、鮮明な画像をオペレーターへ送信できることから、有人航空機による攻撃に比べて、誤爆の可能性を低減できる、とも考えられています。

 1機で偵察と攻撃の2つの任務に使用でき、また目標を破壊する可能性を高められ、誤爆の可能性も低減できる――。この性能から、アメリカ以外にもイスラエル、ポーランド、トルコ、ロシアなどでも同種の無人機が開発されており、採用国も増えています。ロシアでも「KUB-BLA」が開発されており、同機はウクライナ侵攻での使用が確認されています。

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爆薬を外せば偵察用無人機として何度も使用できる「スパイク・ファイアフライ」(竹内 修撮影)。

 スイッチブレードなどの自爆型ドローンは、目標を発見できなかった場合でも基本的に再使用はできません。しかし最近では、イスラエルのラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズが開発した「スパイク・ファイアフライ」のように、偵察任務の際には爆薬を外すことで、何度も使用できるタイプも登場しています。

「全自動で攻撃可能」に問われる倫理観

 日本でも陸上自衛隊が令和4(2022)年度に、自爆型ドローンを念頭に置いた「小型攻撃用UAV(無人航空機)」について、各国の運用実態などの調査を計画しています。水陸機動団や第1空挺団、特殊作戦群など、できる限り一人の隊員が携行する装備品の重量を少なくする必要のある部隊にとって、有用な装備品の一つとなり得ると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

 おそらく今後も自爆型ドローンの普及は進んでいくと考えられますが、それに伴う問題も顕在化しつつあります。

 前出の通り、自爆型ドローンは高性能のセンサーが搭載されていることから、あらかじめ攻撃目標の画像を認識させておき、無人機自身がセンサーの捉えた画像と照合して、自らの判断で突入することも技術的には十分可能と考えられます。

 筆者は海外の防衛装備展示会で、自爆型ドローンを開発しているイスラエル企業を取材しましたが、その際担当者の方が、「攻撃の判断を無人機に任せることも技術的には難しくないが、それは私の宗教観に反する」と述べていたことが、強く印象に残っています。

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スパイク・ファイアフライの操作用タブレット。突入自爆の判断は必ず人間が行う仕組みとなっている(画像:ラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズ)。

 こうした見解を持つのはこの方だけではなく、開発者や使用する軍人の中にも、人間の生命を奪う行為をすべて機械任せにすることを危惧する声が根強くあります。

 このため、現在実用化されている自爆型ドローンは、自爆突入の判断を必ずオペレーターがする仕組みを組み込んでいます。これは自爆型ドローンに限らず、すべての無人装備品に共通して言えることですが、開発と運用にあたっての倫理の確立と、それに基づいた国際的なルール作りも必要になると筆者は思います。

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