自動車の公道レースをしやすくする「自動車モータースポーツ振興法案」が、近く国会へ提出されそうです。ヨーロッパなどでは盛んなものの、反対の声も根強い公道レースを振興する同法は何をもたらすのでしょうか。

7年越しの国会提出なるか「モータースポーツ振興法案」

 古屋圭司元国家公安委員長は2022年3月30日、「自動車モータースポーツ振興法案」について、「今国会への提出を」と、法案成立に向けた意欲を語りました。柔軟なレース開催に向けて道筋が開けそうです。

 議員立法での成立を目指す「自動車モータースポーツ振興法案」(MS法案)は、古屋氏が会長を務める「モータースポーツ振興議員連盟」(MS議連)が取りまとめました。

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ヨーロッパではWRCをはじめ公道レースが各地で行われている(画像:joningall/123RF)。

 基本施策の1つに「公道レース開催の円滑化」が書き込まれ、国は「自動車モータースポーツの振興に関する施策を策定、実施する」ことを責務にしています。モータースポーツファンの強い支持を受ける反面、反発も少なくありませんでしたが、2015(平成27)年に党内手続きを経て法案として了解されました。その後、野党を含む党派を超えた賛同を求めながら、国会への提出のタイミングを見定めていると、古屋氏はたびたび口にしてきました。

「今国会に提出するために、政党への働きかけを行っている。今度こそは法案を通したいと最大限努力をしている。国会に提出できれば議員立法なので成立までに時間はかからないと考えている。長年温めてきた法案が、ここで日の目を見る」(古屋会長)

道路交通法の溝を解消する――サーキット開業の元法務大臣が訴える

 同議連の名誉会長である中村正三郎元法相(87)は国会議員引退後の2009(平成21)年、千葉県袖ヶ浦市の所有する敷地に「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」を開業。総会では法の不備を訴えました。

「日本でラリーなどがなぜ公道でできないかというと、あれは道路交通法の問題なのです。公道を閉鎖して占有できる権限は、担当する警察署長の権限になっている。自動車が走る車道でマラソンがよくて、ラリーがだめだというのはおかしい話ですが、判断するのが警察署長に委ねられているから、こういうことになる。このへんの法律をちゃんとすることを古屋会長はじめ現役の国会議員の方にお願いしたい」

公道レース開催のメリットとは?

 また、中村氏は法律の成立には、モータースポーツへの理解が不可欠だと訴えました。

「自分でサーキットを作ってつくづく実感するのは、米国や欧州で同じことをやったら、大いに賛同を得て喜んでくださる。だけど、日本にはモータースポーツになじみのない人たちがずいぶんいて反対の人もいる。そのへんの理解をどう得るか。それができれば公道ラリーも本格的なレースができるのではないかと思います」

 MS振興法案の基本施策では、レースの主催者に対して「住民その他の地域の関係者の理解と協力の確保」を求めています。モータースポーツの環境の整備は、単にレースがしやすくなるだけではなく、地域の活性化や観光振興に役立つことから一部の地方自治体でも期待されています。

 2020年には、島根県江津市で日本初の市街地公道レース「A1市街地グランプリ」も、既存の法の枠組みのなかで開催され成功を収めました。地元有志が企画し、関係各所へ粘り強く交渉し実現したものでした。主催者側は山陰のいち都市に、約4億円の経済効果をもたらしたとしています。

公道レースは何をもたらす? 「モータースポーツ振興法案」とは マラソンOKレースNGの矛盾
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愛知県岐阜県で開催予定だったラリージャパンは2年連続で中止になったが、愛知県豊田市にある中央図書館などが入る公共施設ビルには、いつまでもWRC応援ボードが張り続けられた(中島みなみ撮影)。

日本開催ラリージャパンを後押しか

 2022年11月に愛知県と岐阜県で開催予定のラリージャパンは、世界ラリー選手権(WRC)のひとつで、一部公道を使った約300kmのレースです。2020年に開催予定でしたが、新型コロナの影響で中止、2021年も同様に中止を余儀なくされました。主催者「サンズ」の鈴木賢志代表はこう話します。

「2020年、2021年の中止になった期間を使って、地域へのご説明をいたしました。地域住民の理解、法制度、訪日外国人の課題が解決されれば実現できます」

 さらに、国際レースとして地域の活性化や観光振興も期待されています。

「海外からドライバーメカニックら関係者500人から700人程度が来日の予定です」(前同)

 法案は、安全運転技術の習得や交通安全思想の普及を図ることも明記しています。策定から7年、今度こそ法案を国会へという機運が高まります。

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