ステンレス車両の導入以降、東急電鉄の車両にはコーポレートカラーである赤色の帯が施されてきました。田園都市線の8500系も同様のスタイルでしたが、たった1編成「青帯」の電車があります。

なぜ赤くないのでしょうか。

東急電鉄の一時代を築いた「銀+赤」

 銀色の車体に赤い帯――このスタイルは、一時代の東急電鉄の電車を代表するものといっても過言ではないでしょう。同社がオールステンレス車両を導入した昭和40年代以降、登場時こそ無塗装でも、その後にコーポレートカラーである「赤色」の装飾を車両に施してきたのです。初代の7000系電車や8000系電車のグループは、東横線や田園都市線をはじめ、ほぼ全線にわたって活躍しました。

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田園都市線を行く、青い帯の東急8500系電車8637編成。下り方のヘッドマークは「ありがとう8500系」だが、そこに描かれたしゃぼん玉がかつての装飾を想起させる(2022年5月、大藤碩哉撮影)。

 2000年代以降、省エネ性能や乗り心地向上などを追求した新型車両が登場すると、車体デザインは赤色を残しつつも各路線のカラーも交えたものになりました。そして2018年以降、最新型2020系電車のグループが運行開始すると、ロゴを除き車体から赤色は消滅。田園都市線は緑、目黒線は水色といった具合に、路線カラーを配したデザインになりました。東急電鉄において一世を風靡した「銀+赤」の電車は、もはや少数派になっているのです。

 長らく田園都市線の主力として走り、一時は同社最多の400両を誇った8500系電車もそのひとつ。すでに翌2023年1月をもって定期運行を終了することが告知され、次々と新型車両に置き換えられてきました。

2022年5月25日、さらに1本が定期運行を終えたため、残る8500系は1本のみとなりました。ところがこの編成(8637編成)は、赤色ではなく「青い帯」を車体に施しています。なぜでしょうか。

 結論をいえば、長らくPR電車として使われてきたためです。この編成の登場は1986(昭和61)年。最初の8500系が1975(昭和50)年製なので、かなり後の編成といえます。ただしデビューして間もない頃は、ほかと同様に赤い帯でした。

 1987(昭和62)年、8637編成は東急ケーブルテレビジョン(現・イッツ・コミュニケーションズ)の広告宣伝用として抜擢されます。前面には「TV TOKYU CABLE」のヘッドマークを掲出。この際に帯が青色に変更され、同時に車体側面にも同一の帯が施されたのです。

PR電車としての生涯、最後まで

 1991(平成3)年には、前後の先頭車両の前面と側面に、しゃぼん玉の絵柄が追加されました。ただ2000(平成12)年、沿線に商業施設「グランベリーモール」(現・グランベリーパーク、東京都町田市)が開業すると、一時期はその広告ヘッドマークを掲出し、「グランベリーモール」のPR電車として運行されました。

「赤くない東急8500系」は何者? 最後の1本となった“青い”編成 異彩を放った生涯
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見慣れた赤い帯の東急8500系。この編成は、2020年3月に引退した(2011年6月、大藤碩哉撮影)。

 2002(平成14)年、東急ケーブルテレビジョンの広告宣伝が終了します。8637編成は青帯としゃぼん玉のみの装飾となりましたが、翌2003(平成15)年4月、今度は東急多摩田園都市開発50周年を記念すべくそのPR電車となります。

「東急多摩田園都市・開発50周年記念電車」と称し、車体には関連するヘッドマークやステッカーが掲出されました。しかしPR電車は2週間の運行にとどまり、以降は再び青帯としゃぼん玉のみの装飾になります。

 そのような中、2010(平成22)年までにしゃぼん玉は完全に撤去されます。8637編成は帯だけが青いものの、ほかの8500系と同じような位置づけになりました。PR電車として走ったのも過去のことになりつつあり、このまま新型車両と置き換えかと思われましたが、2018年に転機が訪れます。

 3月、側面のドアが赤、黄、青、緑の4色に塗られます。まるで「きになる電車」などのような目を引く姿でしたが、ここに15年ぶりとなるPR電車が復活したのです。翌4月、複合文化施設「Bunkamura」の広告が車内に掲示され、前面にもヘッドマークが掲出されました。

 8637編成は2022年4月20日から、前面に「ありがとう8500系」のヘッドマークを掲出しています。ただし「Bunkamura」の車内広告は継続中です。「赤くない」8500系としては、かつて伊豆急カラーの編成も存在しましたが、35年にわたって青色で過ごした8637編成は、異彩を放ち続けた生涯だといえるのではないでしょうか。

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