日本全国に設置されている航空自衛隊のレーダーサイト。24時間365日動き続けるレーダーも更新や整備のために止める場合もあります。
航空自衛隊入間基地に所在する第2移動警戒隊のJ/TPS-102Aの空中線装置(柘植優介撮影)。
2022年4月、防衛省・統合幕僚監部は2021年度の航空自衛隊戦闘機による緊急発進(スクランブル)の概要を発表しました。それによると、実施回数は1004回にものぼり、2017年度の1168回に次いで過去2番目に多かったそうです。
前年の2020年度と比べて約300回近く増えているとのことですが、このような緊急発進にいち早く対応しているのが、各地にある航空自衛隊のレーダーサイトです。
航空自衛隊のレーダーサイトは全国28か所に設置されており、ここで領空侵犯しそうな国籍不明機をいち早く探知することで、4つある防空指令所(DC)に情報が集約、そこで戦闘機を向かわせる必要があるか否か判断したうえで、緊急発進が行われています。
ということは、28か所あるレーダーサイトに万が一「警戒監視の穴」ができてしまったら大ごとだといえるでしょう。それを防ぐために配備されているのが、「空飛ぶレーダーサイト」の異名を持つE-2C/D早期警戒機やE-767早期警戒管制機ですが、その一方で「車で移動できるレーダーサイト」ともいえる部隊も航空自衛隊には存在します。
そのひとつが埼玉県の入間基地に配備されている第2移動警戒隊です。今回、この移動式レーダーサイト部隊を取材してきました。
第2移動警戒隊の主要装備は「J/TPS-102A」という移動式3次元レーダー装置です。アンテナ部である「空中線装置」だけを見ると、巨大な円柱を乗せたトラックのように思えますが、システムはこのほかに航跡データなどを処理する「監視処理装置」、そして空中線装置や監視処理装置に電力を供給するための「発電機」、この3つで構成されています。
アンテナである空中線装置は、F-2戦闘機の機首レーダーなどにも採用されているフェーズド・アレイ方式のレーダーシステムを搭載しているのが特徴で、周囲に配置されているアンテナ素子から照射される電子ビームの走査方向を変えることで回転しなくとも全周索敵が可能です。
空自にとって必要不可欠なその任務第2移動警戒隊では、前出のJ/TPS-102Aを始めとした各種車両を必要な場所に展開させ、地上から既存のレーダーサイトのバックアップをしますが、実はそのバックアップは有事に限らず常日頃から行われているとのことでした。
説明してくれた隊員によると、全国にあるレーダーサイトも定期的にメンテナンスが行われているとのこと。そのとき止むを得ずレーダーを停止させることがあるそうですが、そうなると監視に穴が開いてしまうため、代わりに移動警戒隊のJ/TPS-102Aなどが展開して警戒網をカバーするとのことでした。
ほかにもレドームの建て替えや、レーダーシステムを新しいものに更新する際も一時的にレーダーを止める必要があるため派遣されるそうで、その場合は長期間の展開になると話していました。

訓練終了後の集合写真。隊員と比べるとJ/TPS-102Aのアンテナ部分の巨大さがわかる(柘植優介撮影)。
今回は、実際に入間基地の一角を使ってJ/TPS-102Aの展開訓練を行っていたのですが、車列を組んで訓練場まで走ってきたら、すぐさま所定の場所に各車ごとに分かれ、J/TPS-102Aの空中線装置のみ高台に進出、隊員のてきぱきとした行動によってあっという間に設置が完了していました。
ただ、移動警戒隊にはこれ以外にも車両があるとのこと。そこで今度は隊員の活動をサポートする車両について見せてもらいました。
濃緑色の「ランドクルーザー」も保有 その役割は?案内してくれた隊員によると、展開場所によっては水や電気、通信インフラなどない場合が想定されることから、移動警戒隊は「自活車」と呼ばれる車両も保有しているそうです。
自活車を見せてもらうと、いうなればキャンピングカーのよう。
ほかにもトヨタ・ランドクルーザーをベースにした「先導車」なる車両も。こちらはJ/TPS-102Aなどが展開する際、それら車両を先導するために用いるもので、また市販車を転用した支援車両であるため、日常の連絡業務や人員輸送などにも多用するとのことでした。
なお、ルーフ上部にはお椀をひっくり返したような半円形のものがありますが、これは衛星通信装置だそう。携帯電話だけでなく既存の無線なども通じない場所においても通信を確保するために装備しているとのハナシでした。

航空自衛隊第2移動警戒隊に配備されている先導車(手前)。市販のトヨタ製SUV「ランドクルーザー」に所要の艤装を施したもので、人員輸送などにも使用するとのこと(柘植優介撮影)。
移動警戒隊は航空自衛隊に4つあり、それぞれ北部、中部、西部、南西の4個航空方面隊に1つずつ配置されています。
昨今では、中国の海洋進出の拡大に伴い、これまでレーダーサイトがなかった、いわゆる「警戒監視の空白域」といえる小笠原諸島の周辺エリアや、沖縄本島の東側の太平洋上に移動警戒隊を配置しようという動きもあります。
展開先として名前が挙がっているのは、小笠原諸島の父島や沖縄県の北大東島です。もしそうなった場合は、第2移動警戒隊も海を渡って展開するかもしれません。
「自走式レーダーサイト部隊」と形容できる移動警戒隊、今後は一層、その重要性が増しそうです。