イギリスが新戦闘機「テンペスト」の新たなコンセプトモデルを公開。日本の次期戦闘機のイメージと似ているうえに、展示場所は日本ブースの隣でした。

両機の開発が統合される可能性はあるのでしょうか。

5年以内に飛ぶ? 新型戦闘機「テンペスト」

 2022年7月18日から23日までロンドンで開催されたファンボロー・エアショーで、イギリスが開発計画を進めている新戦闘機「テンペスト」の新しいコンセプトモデルが公開されました。

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イギリスの次世代戦闘機「テンペスト」のイメージ(画像:BAEシステムズ)。

 テンペストの研究開発のため、産業界や研究機関などが参加して結成された「チーム・テンペスト」とイギリス国防省は、ファンボロー・エアショー初日の18日の会見で、テンペストの技術実証機を開発して5年以内に初飛行させると発表しています。

 イギリスは前回、2018年7月に開催されたファンボロー・エアショーで、将来航空戦闘戦略と、その戦略の中核となるテンペストを開発する方針を発表しました。それから4年を経て発表された技術実証機は、チーム・テンペストが行ってきた研究開発の成果を検証するためのものですが、イギリスと日本は次期戦闘機の開発で協力関係にあり、今回の技術実証機は、日本が次期戦闘機の開発を見据えて培ってきた技術を実証するために開発した先進技術実証機「X-2」のテンペスト版と言って差し支えないでしょう。

 テンペストの開発には、できる限り紙の図面を使用せずにコンピュータ上で設計作業を行い、試験も可能な限り現実世界とコンピュータ上の仮想空間を融合させた「XR」(Extended reality)におけるシミュレーションで行う「デジタルエンジニアリング」が用いられています。

 また製造行程の高度な自動化や、最初から3Dプリンターで製造した部品を使用するなど、これまでの開発・製造行程とは一線を画することから、技術実証機では実用機の開発を見据えて、これらの技術の検証も行われる予定です。

日英の新戦闘機の開発は「統合」されるか

 今回ファンボロー・エアショーで展示されたテンペストの新しいコンセプトモデルは、この技術実証機の開発に向けて作られたものですが、このモデルと、その延長線上にあるテンペストの技術実証機が、そのままテンペストの実用機になるわけではありません。

 なぜならばテンペストの開発計画に、日本とイタリアが大きく関与する可能性が大きくなっているからです。

 7月14日付のロイターは日英の関係者の話として、イギリスが進めているテンペストの開発計画と、航空自衛隊のF-2戦闘機を後継する次期戦闘機の開発計画を統合し、新たな共同事業を立ち上げる方向で調整を進めていると報じていました。

やっぱ似てきた? 日本の次期戦闘機と英「テンペスト」新コンセプト 開発計画“統合”の可能性
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日本の次期戦闘機F-Xのイメージ(画像:航空自衛隊)。

 前に述べたチーム・テンペストの会見では、日本、イタリアとのさらなる協力関係の強化・深化に向けた話し合いが進められていることが明らかにされています。また、19日にファンボロー・エアショーを視察に訪れたイギリスのベン・ウォレス国防相も、記者からの囲み取材に答える形で、日本、イタリアとの間で新戦闘機の開発に向けた協議を進めており、2022年末までに具体的な協力計画が策定できるとの見通しを示しています。

 日本とイギリスは、テンペストと次期戦闘機への搭載を見据えたエンジンの技術実証機の共同開発と、やはりテンペストと次期戦闘機のレーダーへの適応を視野に入れたレーダーシステム「JAGUAR」の共同研究を進めていますが、今後の協議次第では、ロイターが報じたように、日英両国の開発計画が統合される可能性は十分あると、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は感じました。

防衛装備庁コーナーのお隣に「テンペスト」が

 テンペストの技術実証機の開発で主体的な役割を果たすBAEシステムズは、今回のファンボロー・エアショーで同社のパビリオンに、テンペスト関連の展示を集めた「テンペスト・ショーケース」というコーナーを設けていました。

 そのパビリオンにはイタリアと、テンペストを中核とするイギリスの将来航空戦闘システム(FCAS)への技術協力を決定しているスウェーデンに加えて、日本の防衛装備庁も次期戦闘機への搭載を見据えて開発したXF9ターボファン・エンジンの模型などを出展していました。

 冒頭で述べたテンペストの新コンセプトモデルは、防衛装備庁のコーナーの隣に展示されており、また色が黒一色であったこともあってか、新コンセプトモデルは、どことなく防衛省が発表した次期戦闘機のイメージイラストにも似ている印象を受けました。

 その印象をテンペスト・ショーケースで説明にあたっていたBAEシステムズの担当者に伝えたところ、「このコンセプトモデルは日本と相談して作ったわけではないけど、イギリスと日本の新しい戦闘機に求めている能力の共通項が多ければ、形が似ていても不思議なことではないよね」と述べていました。

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記者からの囲み取材に応じるイギリスのベン・ウォレス国防相(竹内修撮影)。

 たとえば自動車の世界では、ルノー・日産・三菱アライアンスをはじめとする自動車メーカー連合が、プラットフォーム(車台)やトランスミッションなどの部品の共通化により開発や製造コストを抑えています。イギリス国防省と同国空軍、防衛省と航空自衛隊が新しい戦闘機に求めている能力の共通項が多いのであれば、テンペストと次期戦闘機も自動車メーカー連合による車両の開発と同様、機体やエンジンなどを共通化し、イギリス、日本、イタリアがそれぞれの国の空軍の要求に応じてカスタマイズしていくという手法が採用されるのかもしれません。

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