日本では幻とも言える状況になっている「消防飛行艇」、カナダではとあるリニューアル機が実用化にむけ進んでいます。この機の遍歴を見ると、日本で実用化にむけ動いていたとある計画・モデルが浮かびます。

「PS-1」を消防飛行艇にしよう計画も?

 カナダの航空機メーカー、デ・ハビランド・オブ・カナダは、カナダのバイキングエアから引き継いだ消防飛行艇CL-515の名称をDHC-515と変更し、2022年3月に計画をスタートさせました。現在消防飛行艇は海外のみで活躍しており、日本では現在運用されていません。しかし、このDHC-515の歴史を見ると、日本での消防飛行艇実用化への取り組みにおける、中心となった航空機の存在との共通点がうかがえます。

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DHC-515(画像:デ・ハビランド・オブ・カナダ)。

 まずは、日本における消防飛行艇の歴史から見ていきます。航空機を消防用に活用する試みは1960年代中頃から続けられ、今も陸上自衛隊のヘリなどが山林火災に出動する姿を見ることができます。

 そのなか、消防飛行艇は大地震で被災・出火した都市部の消火が主な目的に考えられ、実用化へ模索が進みました。1970年代後半には、国内で消防飛行艇の実験が実施されています。

 このときの実験機体として選ばれたのが、海上自衛隊が運用し、新明和工業が手掛けた対潜哨戒飛行艇「PS-1」です。

 PS-1の量産1号機、5801号機はこの実験で、機体の重心近くの燃料タンクを水タンクにし、水上滑走中の取水口と消火剤混合装置が取り付けられるなどの準備を経て、1976年10~11月に兵庫県西宮市の埋め立て地で消火実験が行われました。実験は、翌年11月と1978年6月にも行われています。

 ただ、技術的に開発のめどはついたものの、予算や維持・管理の面から導入は見送られ、国内での消防飛行艇実用化は見送られることになりました。

改造されたPS-1もその後元に戻されています。なお、その後、日本で消防飛行艇は使われていません。

 では、続いて冒頭で紹介したDHC-515のケースから、類似点を探ります。

DHC-515とPS-1の共通点

 のちにDHC-515となるCL-415は、その出自をカナダのカナディア、その系譜を継いだボンバルディアにもちます。そもそもCL-415は、カナディアのレシプロエンジン機、CL-215のエンジンをターボプロップに換装したモデルです。

 ちなみに、この機の開発元の経緯をたどると、カナディアからボンバルディアに移り生産終了に。

その権利がバイキングエアに譲渡された後、さらに商標の購入により復活したと注目されたデ・ハビランド・オブ・カナダに引き継がれた――となります。

 CL-415はその後デ・ハビランド・オブ・カナダの手で再び生産を行い、DHC-515という計画を2019年に決定しました。ただ、この計画はコロナ禍で遅延し、2022年3月末に欧州の顧客と22機の購入意向書が結ばれ、政府間交渉を経て最初の機体は2020年代半ばに納入予定となりました。

 DHC-515はCL-415が単に名前を変えたというわけではなく、より着陸重量を増して防錆対策を強化し、消火用水を1000リットル増やし7000リットル搭載できるよう、性能の向上が図られています。

日本では幻の「消防飛行艇」 北米で計画絶賛進行中… かつての「PS-1消防艇計画」と共通点アリ?
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海上自衛隊の岩国航空基地で現役運用されていたころのPS-1対潜哨戒飛行艇(画像:海上自衛隊)。

 足跡はPS-1をベースデザインとし多用途飛行艇としてモデルチェンジを図った「US-1」、その派生型である「US-2」になった日本の飛行艇と共通するかもしれません。

それは、機体の外形をさほど変えることをせずに基本設計を活用して、水上機としてのプラットフォームを生かしながら、改善による性能向上や、機内容量を活用して用途の拡充を目指したという点でしょう。なお、CL-215の初飛行もPS-1と同じ1967年でした。

 CLシリーズは日本で2回、デモ飛行を行っています。1回目は1974年に消防庁がCL-215を借り受けて、2回目は阪神淡路大震災の翌年(1996年)の3月、兵庫県神戸市のポートアイランド沖にて、三菱重工業主導で行われました。これは当時、三菱がCL-415の輸入と販売を行うと発表しており、その一環で消防関係者を招き実施されたものと記録されています。

 先述のとおり、国内での消防飛行艇はまだまだ現実から程遠いといった状況ですが、航空機の輸出という課題も視野に含めれば可能性はどうでしょう。

もし製造する新明和工業の社内で「『US-2』の系譜を組む消防飛行艇の転用は可能か」という点で、ささやかながらでも研究で続けられていれば、日本製の消防飛行艇が生まれることもありえるかもしれません。

【映像】大迫力!!「DHC-515/CL-415』活躍の様子(87秒)