次期戦闘機の開発をめぐり、日・英・伊が共同で取り組むこととなりました。かねて日英の共同になると言われていたなか、イタリアが入ったことを意外に思う向きもありますが、経緯を振り返れば参画は必然ともいえます。

次期戦闘機開発に「イタリア」参加 意外だった?

 日本、イギリス、イタリアの政府は2022年12月9日、次世代戦闘機を3か国が共同で開発する「GCAP」(Global Combat Air Programme/グローバル戦闘航空プログラム)を発表しました。日本とイギリスの間では2021年12月に、イギリスがユーロファイター・タイフーンの後継機として開発を進めていた新戦闘機「テンペスト」と次期戦闘機への採用を視野に入れたエンジンの実証事業、2022年2月にやはりテンペストと次期戦闘機への採用を視野に入れた、常時広覆域捜索を可能とする高機能レーダー(RFセンサ)システムの実証機「JAGUAR」の共同研究事業の実施で合意しています。

次期戦闘機の共同開発「なぜイタリアも…」は過小評価? 日本も...の画像はこちら >>

次期戦闘機のイメージ(画像:防衛省)。

 2022年5月にイギリスを訪問した岸田文雄首相は、同国のボリス・ジョンソン首相(当時)と両国の新戦闘機を共同で開発する方向で一致しており、その後も両国間で協議が進められてきました。

 このためネットニュースのコメント欄などを見る限り、イギリスとの共同開発に対する驚きのコメントはそれほどなかった反面、イタリアを交えた3か国の共同開発プログラムとなった事に対しては、驚いたというコメントも少なくなかったように筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)には見受けられました。

 イギリスのテンペストは「FCAS」(Future Combat Air System)を構成する有人戦闘機という位置づけでしたが、イタリアは2020年12月にイギリスとの間でFCASの研究や開発を対等な立場で協力していくための覚書に調印していました。

 このため、次期戦闘機をイギリスと共同開発するという手法を選択した時点で、イタリアを交えた3か国によるプログラムとなることは必然であったと言えます。

日本もお世話になっているイタリア兵器

 ネットニュースのコメント欄では、イギリスはともかくイタリアの参加を不安視するコメントも見受けられましたが、筆者はこのコメントをされた方は、イタリアの実力を過小評価していると感じました。

 イタリアでGCAPの機体と電子機器の開発主体となるレオナルドは、1948年にイタリアの産業復興公社が行った航空機メーカーや防衛装備品メーカーなどの再編・統合計画によって誕生した総合重工業メーカーのフィンメカニカを前身とする企業です。

 アメリカの軍事専門紙「ディフェンスニュース」は、毎年世界の防衛企業(総合重工メーカーは防衛部門のみ)の売上高ランキングを発表していますが、2021年の業績を基にした2022年の最新版ランキングで、 イタリアでGCAPの機体と電子機器の開発主体となるレオナルドはエアバス(16位)や三菱重工業(24位)などを上回る12位にランキングされています。

 また、レオナルドが開発・製造した製品は日本国内でも広く使用されています。

次期戦闘機の共同開発「なぜイタリアも…」は過小評価? 日本も世話になっている欧州の巨星 その実態
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護衛艦「あぶくま」。
艦首の76mm砲を開発したオート・メラーラは現在ではレオナルドの一部門(画像:海上自衛隊)。

 海上自衛隊のMCH-101掃海・輸送ヘリコプターとCH-101輸送ヘリコプターは、レオナルドのヘリコプター部門、レオナルド・ヘリコプターズが開発したAW101ヘリコプターをベースに開発され、川崎重工業でライセンス生産されています。また、海上自衛隊のあぶくま型護衛艦やはやぶさ型ミサイル艇などの主砲である76mm単装砲を開発したオート・メラーラは、現在ではレオナルドの一部門になっています。

開発がしっかりできている理由 国ぐるみ?

 海上保安庁や各地の消防航空隊などが運用しているAW139などの民間向けヘリコプターも、日本市場でシェアを拡大しているほか、レオナルドは近年日本国内でも増加しているリージョナル旅客機のATRの開発と製造にも参画(エアバスと50対50の合弁企業)しており、レオナルドの製品は日本国内でも広く使用されています。

 アメリカ企業には株主に対する配当の確保や株価への配慮などから、自社資金による研究開発が思うに任せないことも少なくないのですが、レオナルドはその前身であるフィンメカニカ時代から一貫してイタリア財務省が発行株式の30%以上を保有しています。このためアメリカ企業などに比べれば売上高と比較して研究・開発に投じる資金が大きく、その資金で開発された新技術を投じた製品を市場に送り出していることが、世界において高い競争力を得ている理由の一つだと筆者は思います。

 またレオナルドはGCAPに参加するBAEシステムズ、エアバスと共同でユーロファイターの開発と製造を手がける企業体や、世界最大級のミサイルメーカーであるMBDAを設立するなど、他のヨーロッパ企業との協力により、イタリアや自社のみでは開発と製造が困難な製品を市場に送り出しています。

 イタリアの工業製品が日本で過小評価されているのは、1960年代から90年代ごろまでのイタリアの工業製品、とりわけ自動車でトラブルが多く発生したイメージによるところが大きいのではないかと思います。あるいは第二次世界大戦で、日本とドイツは1945(昭和20)年まで連合国との戦いを続けますが、イタリアはいち早く1943(昭和18)年10月に連合国に降伏した歴史的経緯もまた、一部の日本人がイタリアに対してネガティブなイメージを持つ理由の一つかもしれません。

 しかし、世界的に見るとレオナルドの製品は世界市場で大きな存在感を示しています。GCAPの開発にあたり、イギリスだけでなくイタリアとも謙虚な姿勢で協力を進めていくことは、成功のために不可欠であるとも筆者は思います。

※一部修正しました(12月30日8時09分)

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