2022年も世界各国で新型艦船が次々に進水・就役しました。潜水艦から護衛艦、駆逐艦、果ては超大型の空母まで。
2022年はロシアによるウクライナ侵攻や、日英伊3か国による次期戦闘機の共同開発の合意、敵基地への攻撃を行う「反撃能力」の保有を明記した「安全保障関連3文書」の決定など、日本を取り巻く安全保障環境が大きく変わる1年でした。一方で新型コロナウイルスの感染拡大に伴って停止していた自衛隊関連イベントも再開し、11月には20年ぶりとなる国際観艦式が開催されています。そこで、2022年を象徴する5種類の艦船を見ながら、この1年を振り返ってみましょう。
もがみ型護衛艦:日本海上自衛隊ではFFM(Frigate Multi-purpose/Mine-warfare)と呼ばれる新しいタイプの自衛艦として、もがみ型護衛艦の配備が着々と進んでいます。
木更津港に接岸した護衛艦「もがみ」(手前)と「くまの」(深水千翔撮影)。
1番艦「もがみ」は4月28日に三菱重工 長崎造船所で、2番艦「くまの」は3月22日に三菱重工マリタイムシステムズで竣工し、いずれも掃海隊群の直轄艦として横須賀基地に配備されました。続く3番艦「のしろ」も12月15日に三菱重工 長崎造船所で防衛省へ引き渡され、海上自衛隊佐世保基地に所在する第13護衛隊に配備されています。進水についてもすでに6番艦「あがの」まで進んでおり、年間2隻ベースで就役しています。
もがみ型の基準排水量は約3900トン。コンパクト化、省人化、多機能化の3つをコンセプトにしており、合計で22隻が新造される計画です。
11月6日に相模湾で行われた海上自衛隊の国際観艦式には早速、「もがみ」と「くまの」がそろって参加しています。
世界を賑わせたロシア&中国艦では、海外に目を向けてみると、どういった艦船が注目を集めたのでしょうか。
巡洋艦「モスクワ」:ロシア軍艦の世界で、ロシアによるウクライナ侵攻を象徴する存在になったといえるのが、ロシア海軍の巡洋艦「モスクワ」(満載排水量1万1300トン)でしょう。同艦は、スラヴァ級ミサイル巡洋艦の1番艦であり、ウクライナ侵攻時はロシア黒海艦隊の旗艦を務めていました。
しかし侵攻から1か月半あまり経った4月13日、ウクライナ軍の対艦ミサイル「ネプチューン」が2発命中し、翌14日に沈没しています。

ミサイル巡洋艦「モスクワ」に対峙するウクライナ兵を描いた切手(画像:ウクライナ軍参謀本部)。
1万トンを超える大型艦が戦闘行動中に沈没した事例は、フォークランド紛争中の1982年5月にアルゼンチンの巡洋艦「ヘネラル・ベルグラノ」(満載排水量1万3645トン)が、英潜水艦「コンカラー」の魚雷攻撃を受けて撃沈されて以来とか。しかも冷戦期に設計・建造されたとはいえ、対空ミサイルと近接防空システム(CIWS)を組み合わせた防空システムを構築していたスラヴァ級が、ウクライナ軍のミサイルに満足な対応をできないまま沈んだという事実は、世界中に大きな衝撃をもたらしました。
もともと「モスクワ」は1983年1月にソ連海軍の「スラヴァ」として就役しました。米ソ冷戦の終結を宣言したマルタ会談では、ソ連のゴルバチョフ書記長とアメリカのブッシュ大統領がそろって乗艦しています。
一方、中国では国産空母第1号である「山東」に続く2隻目、同国海軍としては3隻目となる空母「福建」が6月17日に中国船舶集団(CSSC)の江南造船所で進水しました。
「福建」は艦載機の発艦装置としてアメリカ海軍のジェラルド・R・フォード級(後述)と同様の電磁カタパルトを採用。この発艦はカタパルト、着艦はアレスティング・ギアによる制動装置という「CATOBAR(キャトーバー)方式」と呼ばれる発着艦システムを構築することで、より効率的な航空戦力の運用を可能にしようとするなど、中国は空母の運用能力を急速に高めています。
同艦の満載排水量は8万トンと、すでに運用を始めている「遼寧」や「山東」と比べてかなり大きくなっています。目玉装備の電磁カタパルトは3基搭載されており、艦載機にはJ-15に加え、J-35と推定される第5世代の戦闘機や早期警戒機が搭載されると見られています。
中国には負けてられない? アメリカ艦新型空母は、中国のみならずアメリカでも生まれています。
ジェラルド・R・フォード級空母:アメリカアメリカではジェラルド・R・フォード級航空母艦の3番艦「エンタープライズ」(10万1605トン)が8月27日、ハンティントン・インガルス・インダストリーズのニューポート・ニューズ造船所(HII-NNS)で起工しました。
ニミッツ級空母の後継として設計されたフォード級は1番艦の「ジェラルド・R・フォード」が2017年に竣工。新型の原子炉、電磁カタパルト、改良された飛行甲板と航空機運用設備など、将来的な拡張性を考慮に入れた設計になっています。さらに「エンタープライズ」は、デジタル設計を取り入れただけでなく、紙の図面をやめ、ノートパソコンやタブレット端末を使った視覚的な作業指示で建造された最初の空母となります。

在日米海軍横須賀基地に停泊するアメリカ海軍駆逐艦「ズムウォルト」。
なおフォード級の2番艦「ジョン・F・ケネディ」は2024年に、「エンタープライズ」はさらに4年後となる2028年の竣工をそれぞれ予定しています。加えてニューポート・ニューズ造船所では、4番艦となる「ドリス・ミラー」の建造に向けた作業が進められているといいます。
駆逐艦「ズムウォルト」:アメリカ2022年話題となった軍艦の5隻目、こちらもアメリカ艦から選んでみました。話題になったというと、突如として横須賀に寄港した異形のミサイル駆逐艦「ズムウォルト」(満載排水量1万4797トン)を外さないわけにはいかないでしょう。
「ズムウォルト」が在日米海軍横須賀基地に寄港したのは9月26日のこと。高度なステルス性を追求したデザインと現代の駆逐艦としては異質と言える巨大な船体は、アーレイバーク級が数多く接岸している横須賀基地で大いに目立っていました。
同艦の寸法は全長182.9m、全幅24.6mで乗員数は約140人。速力は30ノット(約55.6km/h)以上を発揮できます。多様な任務に投入できるマルチミッション艦として開発された経緯から、地上への攻撃を目的とした155mmAGS(先進砲システム)を2基、搭載しています。さらにVLS(垂直発射装置)からは、日本でも配備が検討されている巡航ミサイル「トマホーク」の発射が可能です。
しかし、こうした背景から開発費が高騰し、1隻あたりの取得単価は莫大なものとなってしまいました。
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現在、日本では活発化する中国の外洋進出に備えるため、海上自衛隊と海上保安庁の双方で、各種艦船の整備を急ピッチで進めています。ロッキード・マーチンが開発した「SPY-7」レーダーを搭載したイージス・システム搭載艦や2023年度予算に建造費が盛り込まれた哨戒艦といった新しい艦種の計画も具体的なものになっています。2023年度には軽空母へと改修中の護衛艦「かが」の1回目の工事も終わる予定です。艦船の世界も目が離せない状況がしばらく続くのは間違いなさそうです。