ドライブレコーダーを搭載する乗用車に今や特別感はありませんが、空の世界では今でもフライトレコーダーを搭載していない航空機は多いそうです。国の運輸安全委員会は、直近の会見で機器を掲げて、搭載を呼び掛けました。
運輸安全委員会は航空・船舶・鉄道分野の重大事故について調査と原因究明を行い、必要に応じて提言する独立機関です。最新の会見(2023年8月29日)で、武田展雄委員長はフライトレコーダーの簡易版であるFDM(簡易型飛行記録装置)の搭載を利用者に呼びかけました。
小型飛行機の例。個人で楽しむ人も多いが、航空事故も多い(画像:写真AC)。
「FDMの装備については、当委員会の調査報告書の中でも何度かその有用性を示してきており、海外の事故調査機関もその必要性を指摘しています。特にアメリカ、カナダなどは何度も調査機関が提言をしておりますが、義務化はされておりません」
海外旅行などに利用される大型の旅客機にフライトレコーダーが搭載されていることはよく知られています。飛行記録装置(FDR)と操縦室用音声記録装置(CVR)を合わせた総称で、事故分析では重要なデータになります。ただ、これらの装置は高価なため、小型飛行機、ヘリコプター、グライダーには搭載されていません。その対策として簡易版FDMの搭載を勧告しました。
「FDMと申しましても、なかなか、皆さんお聞きなじみがないものかと思いますが、これは、主に、フライトレコーダーが搭載されていないような小型飛行機等を対象として、航空機の位置、高度等の情報や操縦室内の音声、映像等を記録できる簡易型の機器のことです」(武田委員長)
小型飛行機などの航空事故には特徴があります。最近10年間に発生した航空事故168件のうち100件、約6割が小型飛行機などによるもので、事故は毎年起きています。その事故の要因は、人的要因が関係するものが8割以上を占めます。
FDMは事故発生時だけでなく、日常運航で活用できます。収集した運航データを分析することで、操縦士の技量の維持向上を図ることが可能になり、それが効果的なリスク管理につながるというわけです。
陸上のドライブレコーダーと同じ有用性実はこうした効果は、空だけでなく陸上のドライブレコーダーにもあり、トラック・バスやタクシーのドライバー研修にも役立っています。個人の運転する車両でもドライブレコーダーの映像から、例えば停止線を超えた一時停止の癖を自覚することで、ヒヤリハットを少なくすることも可能です。これらの機能はFDMでもまったく同じです。
運輸安全委員会はFDMの導入促進を図るため「小型航空機用FDM導入ガイドライン」をオンライン上で公表しています。しかし、FDMはなかなか普及しません。そのため日本の運輸安全委員会だけでなく、各国の調査機関が義務化を訴えています。
「アメリカ、カナダなどの安全機関は強く要望しており、義務化に近づいていると期待はしています。航空のレジャーを楽しまれるのは安全が最重要でありますので、それを認識していただく上でも航空当局とも連携しながら提案していきたいと思っています」
機能によって数万円~100万円を超えるものまで、FDMはさまざまですが、こうした搭載がなくても、せめて映像機器を活用するように、運輸安全委員会は呼び掛けます。

運輸安全委員会の武田委員長(中島みなみ撮影)。
「フライトパラメーターがなくても画像があることが重要でもあり、実際の計器が映り、それを確認するだけで、スイッチの場所、速度がどうなっているのか、パイロットのその時の反応などがわかります。また、訓練時にも非常に役立っております。そういうデータは安全のためにも重要であると思っております」
2017年3月、長野県塩尻市内の山中で発生したヘリコプター事故では、FDMは搭載されていませんでしたが、搭乗者が撮影したビデオカメラ映像が事故分析の鍵となりました。武田委員長は、まずは360度撮影のスポーツアクションカメラのような記録装置でもよいので、搭載していくことを、利用者に勧めます。