6月30日に東海道新幹線で発生した焼身自殺。国土交通省は新幹線初の「列車火災事故」に認定。

なぜ「事件」ではなく「事故」なのでしょうか。またこれにより開業から50年以上、車内の乗客に死者が出ていない新幹線の安全記録はどうなるのでしょうか。

車内で乗客の死亡例がある新幹線

 2015年6月30日(火)、東海道新幹線の東京発新大阪行き「のぞみ225号」車内で乗客が焼身自殺し、その男は死亡。女性ひとりが巻き込まれ、亡くなりました。国土交通省は同日、新幹線初の「列車火災事故」に認定しています。

 1964(昭和39)年の誕生以来、車内の乗客が死亡する事故は1回も起こしていない新幹線。その安全の記録が、これで途絶えたことになるのでしょうか。

 実は新幹線車内で乗客が死亡した例は、過去にもあります。

 1993(平成5)年8月23日、静岡県内を走行中の博多発東京行き「のぞみ24号」のグリーン車で殺人事件が発生。乗客の男性ひとりが亡くなり、警察官ひとりも重傷を負いました。凶器は刃渡り30cmのナイフ。覚醒剤を使用していた犯人は殺人罪などで起訴され、懲役15年の判決が出されています。

 ただこれはいわゆる「殺人事件」で、「新幹線」に起因する「事故」ではありません。そのため、新幹線の死亡事故ゼロ記録にも変化はありませんでした。

 また過去に、新幹線に乗っていた客が、車内でではありませんが自殺した例もあります。2009(平成21)年2月21日、上越新幹線「Maxとき」367号の乗客が非常用のコックを操作して乗降用ドアを開け、走行中の新幹線から飛び降り自殺を図りました。2008年4月にも東海道新幹線で同様の飛び降り自殺が起きています。

 こちらも同様に、新幹線の死亡事故ゼロ記録へ影響は与えていません。

なぜ今回「列車火災事故」と判断されたのか

 しかし今回の新幹線車内における焼身自殺について、国土交通省は新幹線初の「列車火災事故」と認定しました。「新幹線」に起因する内容ではないにも関わらず、なぜ「事件」ではなく「事故」なのでしょうか。

 国土交通省に取材したところ、事件性の有無にかかわらず「構造物が燃えた」という判断で「火災事故」になったとのこと。そもそも「事件」と「事故」を分けて考え、そう判断されたわけではないのです。

 2003(平成15)年8月30日、長野県南木曽町内を走る中央本線の普通列車内で男が焼身自殺を図ったことがあり、このときも「列車火災事故」扱いになっているといいます。

 また同省によると、「煙が出た」程度では「火災事故」扱いにはならないものの、構造物が燃えたと判断されると「火災事故」になるそうです。

そのため、仮に誰かが撒いた物だけが燃えた場合、それは「火災事故」ではありません。その火によって床や壁などへの類焼が確認されると、「火災事故」と判断されるといいます。

 新幹線初の「列車火災事故」に認定された今回の事態。「言葉の問題」はさておき、車内の排煙設備や警備体制など、新幹線のさらなる安全を考えさせられることになったのは事実です。ただ、新幹線が誕生から50年以上にわたって培ってきた「安全」自体に問題があり、それで「事故」が起きたわけではないのも、また事実です。

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