戦闘機の主力武器である空対空ミサイル。いまその世界に、革新が起きようとしています。
かつて戦闘機の主力武器といえば、もっぱら「機関銃」でした。1950年代に入り、新たに誘導能力を持つロケット弾、すなわち「空対空ミサイル」が相次いで実用化されると、機関銃は急速にその価値を失い、廃れてゆきます。
しかし、初期のミサイルは少しでも旋回している戦闘機には命中を期待できないなど、完全に機銃を置き換えるには性能不足でした。そのため、1950年代に開発されたF-4「ファントムII」などは、当初ミサイルのみで武装していましたが、あとになって急遽、機関銃を再搭載。1970年代初期に開発中だった当時最新鋭のF-14「トムキャット」やF-15「イーグル」は、最初から機関銃の搭載が求められました。
それから約半世紀。ミサイルの性能は著しく発達し、いまや機関銃を用いた空中戦はほとんど考えられないまでになりました。そしてイギリスやドイツなどヨーロッパ諸国において共同開発中であり、“革命的”ともいえる新型の空対空ミサイルMBDA「ミーティア(Meteor:流星)」が、来年にも実用化される見込みとなっています。
この「ミーティア」とは、いったいどのように“革命的”なミサイルなのでしょうか。
「ノーエスケープゾーン」を拡大した「ミーティア」現代で主流の空対空ミサイル、例えばアメリカ製のAIM-120C-7「アムラーム」は、最大射程およそ100km程度と推定されています。「アムラーム」の推進力であるロケットの燃焼時間は10秒程度であり、マッハ5まで加速したあとは速度エネルギーを消費しながら滑空。ミサイルは減速するほど誘導性能も落ちていくため、実際に100kmも飛翔すると、ほとんど命中は期待できなくなります。
しかし「アムラーム」に十分な速度がある場合は、防御側がどのような回避機動をとっても、「アムラーム」の誘導性能がそれに勝ります。
この十分な速度を保ち、ほぼ命中を見込むことができる射程を「ノーエスケープゾーン(逃げられない範囲)」といいます。状況にもよりますが、「アムラーム」のノーエスケープゾーンは恐らく最大射程の半分、50km以下でしょう。
もし仮に、永久的にロケットが燃焼し推進力が失われなければ、ずっと高い速度を保ち続け、ノーエスケープゾーンは無限に拡大できるはずです。それを実現したのが「ミーティア」です。
航空自衛隊機にも搭載される?「ミーティア」は、「ダクテッドロケット」ないし「ラムジェット」と呼ばれるエンジンを持ちます。従来型のミサイルのロケットエンジンは、燃料と酸化剤を混ぜた固体の推進剤を燃焼することで推進力を発していましたが、「ミーティア」のダクテッドロケットは大気中の酸素を取り込み、燃焼に利用します。すなわち燃料に混ぜていた酸化剤が不要となり、「アムラーム」と同サイズながら、搭載可能な燃料量は倍以上にもなりました。
またダクテッドロケットはその機構上、「推力調整が容易」という特徴があります。つまり、初期加速後は燃料消費を抑えマッハ3~4程度で巡航し、標的に接近したところで再加速して、高い速度の状態で標的に命中させる、という方法も可能となりました。
この新しい推進装置によって「ミーティア」のノーエスケープゾーンは、標的と向かい合った状態での発射で従来型(おそらく「アムラーム」のこと)の3倍、追跡状態ならば5倍に拡大している、と宣伝されています。
誘導方式はアクティブレーダー誘導。
この新機軸の「ミーティア」は、戦闘機「グリペン」「ラファール」「ユーロファイター」、F-35「ライトニングII」への搭載を見込んでおり、中国やロシアでも同種のダクテッドロケット型の空対空ミサイルを開発中です。また、アメリカにおいても計画中です。
日本も「ダクテッドロケット飛翔体」として基礎研究を実施しており、また「ミーティア」性能向上型に関する共同研究に参画しています。将来、「ミーティア」ないし同種の国産ミサイルが、航空自衛隊の戦闘機にも搭載される可能性は高いといえるでしょう。