いま陸上自衛隊の「第1空挺団」が、その重要性を増しています。なぜ、そうなっているのでしょうか。
落下傘(パラシュート)が正常に開かない確率は、5000分の1。さらに、予備の落下傘も開かない確率が5000分の1。したがって25万回に1回、事故が起きる計算です。
とはいえ、ちょうど鎌倉幕府が倒れた1333年から毎日1回飛び降りても1度しか事故は起きない、極めて低い確率。いま飛び降りても、まず死ぬことは考えられない……。そう理屈では分かっていても、あなたは1回の降下で支給される2800円の手当のために高度300メートル、200km/hで飛ぶ航空機から飛び降りることができるでしょうか。
陸上自衛隊の習志野駐屯地(千葉県船橋市)。広大な習志野演習場へ隣接するこの駐屯地には、陸上自衛隊における最精鋭のひとつとして知られる「第1空挺団」が所在します。そして例年、1月の第2週にはこの習志野演習場で「第1空挺団 降下訓練始め」として演習を一般に公開。国民の自衛隊に対する理解、地域との交流を深めています。今年2016年も1月10日(日)、晴天に恵まれ多数の見学者を集めました。
第1空挺団とはその名のとおり、「空挺作戦」を専門に行う陸上自衛隊で唯一の部隊です。
この「空挺作戦」とは、航空機の速度性能を活かし、迅速に部隊を展開する任務を意味します。UH-1J、UH-60J、CH-47JAといった各種多用途・輸送ヘリコプターを活用して展開する「ヘリボーン」と、各種ヘリコプター並びに航空自衛隊のC-1・C-130H輸送機などによる「落下傘(パラシュート)降下」があり、特に「落下傘降下」は第1空挺団のみが実施することができます。
落下傘の弱点落下傘はいくつか種類がありますが、代表的な「13式空挺傘」は輸送機から飛び降りると自動で開傘。間隔を詰めて、短い時間で多くの隊員を降下させることができます。装備および体重、あわせて150kgを吊り下げることができますが、「2階から飛び降りた程度」ともいわれる着地に耐えなくてはなりません。
一方でこの13式空挺傘は、反撃が予想される地域では輸送機自体が撃墜される恐れがあり、使い難いという弱点を併せ持ちます。
そうした場合は、パラグライダーのように滑空可能な「MC-4自由降下傘」の出番です。MC-4では高高度から自由落下し低高度で開傘する、または優れた滑空性能を活かして遠方から降下するなどの任務が可能になります。
第1空挺団のモットーは「精鋭無比」。その標語は、決して“張り子の虎”ではありません。空挺隊員は志願者から選抜されます。
およそ2000人で構成されるその隊員の圧倒的な精強ぶりは、「第一狂ってる団」と揶揄されることさえあります。第1空挺団はなぜそこまで、「強い部隊」なのでしょうか。
精強でなくてはならない第1空挺団、その理由第1空挺団は、防衛大臣直轄となる中央即応集団の指揮下にある部隊であり、外国による本格的な侵略など有事の際には、落下傘降下やヘリボーンによって日本全国あらゆる場所へ、真っ先に投入されることになります。そして本格的な反攻作戦の準備が整い、増援がやってくるまでの極めて厳しい期間、侵略者を足止めし続けなくてなりません。
また、場合によっては敵の背後へ降下し奇襲作戦を行うなど、第1空挺団は常に厳しい状況で戦わなくてはならないのです。
いま日本の防衛政策は、中国に対する南西諸島方面の「島嶼防衛」が大きな課題となっています。そして島嶼防衛にあたっては、必然的に「海」を超えなくてはなりません。
そうしたなか、高い空中機動力によって地形を選ばず進出できる第1空挺団の存在は現在、一層重要さを増しつつあります。