特急形車両を、通勤時間帯に有料列車として乗車可能とするJRの「ホームライナー」。すでに40年の歴史を持つ列車ですが、登場時に近いサービスを継続しているのはJR東海だけです。

その現状を見てきました。

青春18きっぷでも乗れる「ホームライナー」

 1960年代まで、特急は「特別な急行」であり、簡単に乗車できる列車ではありませんでした。しかし高度経済成長を経て、特急列車の大衆化が進みます。

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JR東海の「ホームライナー浜松3号」(安藤昌季撮影)

 例えば小田急電鉄の特急ロマンスカーは、1966(昭和41)年まで新宿~小田原間ノンストップでしたが、途中停車駅が設定され、1967(昭和42)年から定期乗車券での利用も認められるなど、特急列車といえども通勤輸送に貢献する時代となっていきます。

 国鉄も1968(昭和43)年、総武本線の気動車急行について、折り返しの回送列車を快速とし、20時台の御茶ノ水~千葉間で運行するなど、それまで回送としていた優等列車を通勤輸送に活用してきました。

 回送列車の通勤利用に特急形電車が初めて設定されたのは1984(昭和59)年のこと。この時点で私鉄の多くは朝・夕の通勤時間帯に通勤特急を運行しており、国鉄も上野駅に到着する特急列車のうち、車両基地に回送する列車について、「コーヒー1杯分(300円)で特急形車両に乗れる」と宣伝しました。こうして、上野~大宮間に「ホームライナー大宮」、直後には東京・新宿~津田沼間に「ホームライナー津田沼」、そして天王寺~日根野間に「ホームライナーいずみ」を設定します。

「ホームライナー大宮」は、当初グリーン車のみで客扱いをしていましたが、あまりの盛況にほどなく1編成全てで営業するようになりました。そうした経緯もあり、初期はグリーン料金を徴収しておらず、グリーン車は「乗りトク」車両でした。

 なお「ホームライナー津田沼」の場合は、東京、新宿、秋葉原の各駅にライナー券の販売機が置かれ、指定した号車の乗降口を利用する定員乗車制が採用されていました。

元祖「ホームライナー」スタイルはJR東海のみに

 好評のなか各地に広がった「ホームライナー」でしたが、国鉄が分割民営化されると、JR西日本や九州では2011(平成23)年までに姿を消し、JR四国も徳島~鳴門間で一般車両を使った有料臨時快速「きんときライナー」を一時、運行したものの、定着しませんでした。

「ホームライナー」が絶滅危惧種!? 「青春18きっぷ」OKな特急車両で岐阜までハシゴしてみた
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「ホームライナー浜松3号」は373系特急形電車(安藤昌季撮影)

 これは格安料金の普通列車で「ホームライナー」を運行するよりも、特急列車として近距離で安価な料金を設定する方が、増収になると判断されたのではないかと筆者(安藤昌季:乗りものライター)は考えます。JR東日本でも「ホームライナー」は2021年までに全廃され、代わりに設定された特急列車も、「おうめ」「はちおうじ」については中央線の普通列車へのグリーン車連結もあって廃止されることになっています。

 現在、JRで「ホームライナー」を運行しているのは東海と北海道ですが、北海道については2023年より、定員制かつ普通車・グリーン車同一料金から、グリーン料金を設定のうえ、「みどりの窓口」やインターネット予約サービス「えきねっと」で購入する座席指定列車に代わっているので、ほぼ「特急」のような販売形態となっています。

 つまり、安価な整理券を駅ホームで販売するスタイルの「ホームライナー」は、JR東海だけになります。ある意味“絶滅危惧種”となった「ホームライナー」に乗るため、筆者は平日に沼津駅へ向かいました。

 ホームには373系特急形電車が停車しており、ホーム上にはライナー券自販機があります。熱海駅発の列車からの乗り換え時間は3分と短いですが、ライナー券自販機に行列はありません。

 沼津駅18時31分発の「ホームライナー浜松3号」は、浜松駅まで1時間39分。停車時間を含む平均速度である表定速度は79.3km/hと、長距離を高速で走ります。富士~静岡間は特急「ふじかわ」と変わらない速度であり、回転式リクライニングシートが並ぶ車内も特急列車の雰囲気ですが、座席整理券は330円と格安です。

「ホームライナー」を乗り継ぐ

「ホームライナー浜松3号」は、沼津駅の出発時点で6両編成の窓側が全て埋まっているなど、なかなかの盛況。ただ、通路側座席に荷物を置く“隣席ブロック”が多く見られました。

車内放送で「通路側荷物を荷物棚に上げてください」と注意が入りますが、効果はないようでした。これは新幹線自由席でも見られる光景で、こうした身勝手な座席の使い方が全車指定席化へとつながるのだろうと思います。

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「ホームライナー大垣3号」にはJR西日本の681系電車が使われる(安藤昌季撮影)

 列車は三島駅、富士駅、清水駅と停車しますが、乗降はわずか。19時9分着の静岡駅で7人ほどの乗降がありました。その後も藤枝駅で3人下車したくらいで、大半が沼津~浜松間を乗り通していたのは意外でした。終点には20時10分に到着しました。

 浜松駅で同一ホームに停まる豊橋行き普通列車に乗り換え、さらに豊橋駅で20時50分発の大垣行き特別快速へ乗り換えると、名古屋駅には21時43分に到着しました。さて、ここからも「ホームライナー」に乗れます。22時18分発の「ホームライナー大垣3号」です。

 こちらは特急形電車の681系。JR西日本の車両が間合い運用されており、西日本色のJRマークが目立ちます。グリーン車が連結されていますが、1010円の追加料金がかかるためか、乗客は見られませんでした。

筆者は「青春18きっぷ」利用であり、「ホームライナー」グリーン車には乗れない規定でもあるので普通車へ。追加330円で乗車できる普通車もがら空きでしたが、自販機では座席が選べないので、隣席に乗客がいる不思議な状況となりました。

 途中で尾張一宮駅、岐阜駅、穂積駅と停車したものの乗降はほぼなく、終点の大垣駅には22時51分に到着。前を走る新快速とは、名古屋駅発車時も大垣駅到着時も3分差だったので、速度は同じようです。快適でしたが、短距離だからか空席が気になる「ホームライナー」でした。

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